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24 あのゲームの内容は。
「ところで、外にいる二人は何だ?」
忘れていた。
「友人、ですかね?」
「…その疑問系は本人達には言うべきじゃないな。此処まで一緒に来てくれたんだ。友人でいいんじゃないか?」
呂佳は珀奥の時から人の好意に疎い。
判断が黒か白かにキッチリ分かれてしまうのだ。
それこそ他者に対する分類は敵か味方かっというくらいに分けてしまう。
まだ疑問系でも友人という言葉を選べるだけ、マシになったように永然には感じられた。
珀奥の時にこの柔軟さがあれば、狐一族の神罰を一人で被るなんて無茶も無かっただろうにと残念でならない。
珀奥は家族がおらず、その意味も分からない為、代わりの様に狐一族を大事にしていた。その結果が妖魔への変貌だ。
「すまないが身体を洗って来るから中に呼んで寛いでいてくれ。」
永然はそう言うと、さっさと奥へ引っ込んでしまった。
呂佳は二人を呼ぶために家の扉を開けた。
古いし腐りかけている扉なので、蝶番が軋みギィと音を立てる。
「二人とも、中で話を…………………何をしているのでしょう?」
二人はゼィハァと息を吐いて剣を構えていた。
万歩は伊織の時から望和の事が好きだった。
じゃあ何故彼女を作っていたのかと言うと、最初の頃は断っていたのだ。だが、断って幼馴染達とばかり遊んでいたら、望和の事を非難する女子が現れ出した。
望和の側にいたいのに、側にいると望和に迷惑をかける。
なので彼女は定期的に作ることにした。
要求されればキスもその先も手を出した。
出来ないことはなかった。
人として最低かも知れないが、そうしておけば望和の側にいても文句を言われなくなったのだ。
愛希も割といい隠れ蓑になっていた。
望和より愛希の方が見た目がいい。
女子の視線が愛希の方にいく。
だが恋人として付き合いだせば、伊織が実は望和ばかり見ている事に彼女達は気付く。
非難する人もいれば、謎の応援をする人もいた。
ちょうどそんな時期が高校入学だったので、中学校と顔ぶれが変わり、女子とも付き合いやすくなっていった。
望和と仲良くした方が伊織と長続きすると考える人間もいて、望和の周りも平和になっていった。
その代わり愛希の我儘が酷くなっていき、嗜める事が多くなった。
そんな時にこの異世界転生だ。
銀狼の勇者と言われても、さっぱり分からない。
愛希は愛希で朝露として好き勝手にやり出した。俺から天凪様、達玖李様、那々瓊様と節操なく渡り歩いている気がして、正直関わりたくない。
最近は神獣達との付き合いに時間を取られるのか、俺の所に来ないので助かっている。
呂佳は黒狐として生まれ変わっていた。
周りからその毛色の所為で好かれていない。
生まれた家もあまりよろしくない様で、望和の時と一緒だなと思った。
俺から見たら黒い毛は滑らかで触り心地良さそうで、本当はずっと撫でてみたいと思っていた。
尻尾だって触ってみたい。
瞳なんか望和の時よりも黒色が深くて濃くて、綺麗だと思う。
この世界の人達はそれが普通だと思ってるから気にしていない様だけど、瞳孔が縦長で動物っぽいのも、凄く不思議で可愛い。
なのに先に那々瓊様が撫でくりまわしたと聞き、ショックだった。
だって那々瓊様は兎に角綺麗な人なんだ。
今の俺もいい線いってると思うけど、あの人には敵わないと思う。
柔らかな物腰で優しげだけど、銀狼も種別的には獣に入るので、獣の王の那々瓊様には畏怖を感じる。
今だって呂佳は那々瓊様の為に動いてるんだと思う。
呂佳は詳しく何も話してくれない。
たまにしか会えないのに、直ぐに霊亀永然様の所に行くって言うから、思わずついて来てしまった。
呂佳は相変わらず一人でなんでもやろうとする。
呂佳の心の中には入れない。
入りたくても入れない。
きっと俺はなんか違うんだろうなと思う。
那々瓊様と何が違うんだろう。
年上が好きなのかな。
ついて来たはいいが、家の外で待てと言われた。
何も出来ないのは分かってる。
ついてこない方が良かったのかなぁ。
池の水面に映る自分を見つめながら、はぁと溜息をついた。
雨粒が落ちるたびに、写った万歩の顔をユラユラと揺らしていた。
「辛気臭い。」
ポツリと背後から声がかかる。
雪代だ。
雪代は五つ歳上の白毛が目立つ狐獣人だ。
男なのにやたらと綺麗な顔をしている。化粧をしたら完全に女性と間違えそうだ。
最近俺は背が伸びて来たので、今はほぼ変わらない。少し越したかもしれない。雪代は身体付きも細身で、贅肉のない筋肉がついていてスラッとしている。
辛気臭い言われても困る。
「見なきゃいいだろ。」
雪代は俺が呂佳を好きな事を知っている。
前に思わず半泣きになって、しょうがないなって感じで慰めてくれた。
俺的には黒歴史だ。
呂佳は俺が好きな事、気付いていない。
小学生の時助けてくれた恩返しとか思っている。確かにそれもあるけど、いい加減気付いて欲しい。
やっぱり告白した方がいいのかな…。
「…………ただでさえここジメジメしてんのに、こんなとこまで来て悩むなよ。」
「分かってるよ。」
雪代はサバサバした性格だからそう思うんだろう。綺麗な顔で神力も強いからモテるみたいだし、恋で悩む事もないんだろうな。
「こんな時は鍛錬したらいい。」
「はぁ?」
顔に似合わず脳筋?
「よしっ!付き合ってやる!ぬけっ!」
雪代が背に背負っていた長剣を鞘から抜いた。
「え~~~?」
俺も成人したら聖剣持たなきゃらしいから剣技は習ってるけど、元が平和な日本生まれなのであまり興味が無い。
でも雪代は元気づけようとしているんだろうなぁと思い、渋々一応持って来ていた剣を抜いた。
そしてゼィゼィと息を上げている今になる。
雨も降っているので、汗と雨で気持ち悪い。
呂佳が中に入るよう呼びに来たけど、呆れた顔をしていた。
だって雪代のヤツ、顔に似合わず強かった。
次は絶対勝つ。
雪代は雪代で、子供に勝てないとか言って、俺を下に見てる。俺はこれでも銀狼の勇者で、そこら辺の獣人よりは既にもう強い。
成人したら直ぐに妖魔討伐に出なきゃなので、最初から強いのだと言われている。
なのに雪代は対等に戦えたのだ。
「次はぜってー勝つからなっ!」
雪代が綺麗な顔でムキになって俺にそう言ってくるので、なんだが悩み事も吹っ飛んだ。
「俺まだ成長途中だから勝てないと思う。」
言い返したらムキーと怒るから、更に可笑しくなってしまった。
家に入ったら既に風呂上がりの永然様から、風呂に入れと二人で風呂場に行かされて、雪代が平然と服を脱ぐから慌ててしまった。
だって男なのにシミひとつない真っ白な肌してて、ドキドキさせられる身体してたのだ。
ちょっとあそこが勃ちかけたのを、背を向けて隠すので精一杯だった。
永然が二人に着替えを渡して奥の風呂場に案内して戻って来た。
永然の見た目は今の呂佳と変わらない程度の年齢に見える。
適齢期で止まったと言うより、そこで止めたと昔言っていた。
長く生きる神獣に、付き添える者などそうそう現れないから、期待せずに好きな年齢で止めたのだと言う。
珀奥は自然と止まったのが二十代半ばだった。多くの獣人は十代後半から三十歳辺りまでが適齢期になる。そこまでいったら成長が止まり、死が近づくとゆっくり歳をとっていくので、自分の死期が分かったりもする。
神獣には年老いて死ぬという概念はなく、死ぬ時はほぼ妖魔との戦闘によるか、神獣同志の諍い、後は自死になる。
霊亀や玄武は異界に渡る能力に特化していて、戦闘能力は皆無なので妖魔討伐や諍いで死ぬ事は稀だ。
じゃあ死ぬ事は無いんじゃないかと思えてしまうが、昔そんな話をした時に、霊亀と玄武の代替わりについて話した事があった。
それを思い出して、ザワリとした。
天凪と話をして、何故あのゲームが恋愛ゲームだったのかという事を考えていた時だ。
「あの二人が来る前に聞きたいことがあります。」
永然は戸棚から湯呑みを取り出しながら、鍋と一緒に洗い出した。
長く寝ていたので埃を被っている。
「なんだ?」
「昔、霊亀と玄武の代替わりについて話したでしょう?」
永然が一度手を止めて、呂佳を見た。
そうだな、と言ってまた洗い出す。
「確か、霊亀と玄武は銀狼が伴侶を見つけて生命樹の枝を授かると、生まれるんですよね?その伴侶が神獣なら霊亀が、普通の獣人なら玄武がって言いましたよね?」
「そうだな。」
永然は少し笑って肯定した。
洗い終わった鍋に水を入れ、薪に火をつける。神力によって灯る火は、あっという間に湯を沸かしていった。
「異界でやったゲームですけど、恋愛バトルものだったんですよね。」
「ゲーム……ああ、遊戯だな。あっちに変換するとアレになったんだ。不思議な世界だったな。」
「向こう側の人間にしてみたら、こちらの神浄外の方が不思議な世界ですよ。それで、何で銀狼が神獣とハッピーエンドになると妖魔を倒せて、バットエンドだと全員死亡なのか不思議だったんです。」
「…………そうだろうな。」
「神の神託が降りてますか?霊亀の代替わりは必須なのですか?」
永然は困ったように笑った。
「実は珀奥を討伐する時も同じ様に神託が降りていた。それを邪魔したら更に重い神託になったのが今回だ。」
銀狼と神獣が伴侶になり、生命樹の枝を授かれば、次の霊亀が生まれる。
そう過去に教えたのは永然だ。
「まさか、僕を転生させようとしたからですか?」
「さあ、どうだろうな?神の意思を理解出来る者はいない。」
永然が銀狼の聖女美晴を召喚した時に、その神託は降ったのだ。永然の珀奥の魂を一旦異界に送ろうとした目論見が神に読まれたのか、神が未来を知っているのか、それは分からない。
ただの偶然かもしれないのだ。
「貴方はそれを受け入れるんですか?」
そう尋ねておいて、きっと永然は受け入れるのだろうと思った。彼はそんな人だ。
答えないのがその証拠だ。
じゃあ誰が前回邪魔をしたのか?
永然じゃなければ、この神託を知るのはただ一人。天凪だけだ。
神託は天凪が伝える。
それとも全員に伝えていたのか?
「他に誰が知っているのですか?」
「前回は天凪だけだよ。でも今回は全員知っている筈だ。そう圧力がかかっている。」
鍋に茶葉を入れながら、永然は答えた。
シャッシャという茶筒を振る音がする。中身の茶っ葉が湿気ているのだろう。
じゃあ前回天凪が銀狼の聖女と神獣が伴侶になるのを邪魔したのだ。そして今回邪魔出来ないように、更に重い神託が降りた。
銀狼と神獣が愛し合うように巡り合わせが決められているのか?
だから永然の未来視は 『あなたと救う神獣の世界』という恋愛ものになっていたのか。
やたらとやり易いゲームではあった。
好感度も上がり易い。バトル方面が慣れてなくて難しかっただけだ。
応龍天凪は銀狼を育てる為一番好感度が上がり易い位置にいるはずなのに、一番上がりにくかった。それは現実の天凪が次の霊亀の誕生を望んでいないからだろう。
「天凪は…………、納得しないのでは?」
永然が四人分のお茶を湯呑みに入れて机に並べた。
「………そう、かな?」
「はぁ……。そうでしょう、天凪の親は貴方でしょうに。」
そこで風呂から出て来た二人がやって来た。
「え?歳おかしくない?永然様いくつなの?」
「天凪様に子供の頃が?想像つかねー。」
湿気が強いので二人ともポタポタと水滴を落としまくっている。
「ちゃんと拭いて下さい。後、このお茶、ちゃんと茶漉し使って下さいね。」
飲みながら文句を言うと、永然は変わってないなと笑っていた。
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