貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第二章

なりません

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 キッチンで肉をひたすら焼いていく。リルはまだ今日食べていないから腹ペコだ。横でうろうろするチョコにも味付けしていない肉を上げてみた。前に食べたことがあるからか、やたらと食いつきが良い。

「コウ美味しいよねぇ。魔力だけじゃ物足りないだろうし、チョコもたまには食べようか」
「ギャオッ」

 尻尾を振りながらリルにじゃれつく。

「あはは、料理中だから撫でられないよ」

 手が空いていないことを伝えても、構わず足元にすり寄っていた。

 三十分近く経ち、ルッツを呼んで昼食となった。当然のように食べ始めたルッツとは違い、リルは手を合わせたまましばらく料理を見つめていた。

──久々のコウ肉料理だ……もう何年も食べていない気分になる。

 昨日のステーキも悪くはなかったが、やはりコウ肉の方がずっと良い。

 焼肉をゆっくりと口に入れ、その味を噛みしめる。単純な塩味だが、今まで我慢していた分の感動は計り知れない。

 わりと腹が膨れているらしいルッツもどんどん目の前の料理を口に運んでいく。

──豪快に食べているのに下品に見えないから、やっぱ王家で育っただけある。

 どのように食べたら自分も上品に見えるだろうか。ルッツを観察していたらいつの間にか焼肉があと少しになっていたので、あわてて残りをかき込んだ。

「はぁ、満腹」

 いつもはゆっくりのんびり食べているのに、相手がいたため想定以上に食べてしまった。久々のコウ肉で詰まった腹を撫でる。

 きっと数日中には王都の調味料が運ばれてくるので、塩味以外のコウ肉を食べられる。現世の取り寄せに加え、リルの楽しみがまた一つ増えた。

 休憩もそこそこに立ち上がったルッツにリルがぎょっとする。

「もしかして、また鍛錬ですか?」
「そうだ。山で過ごすからといって怠けていたらすぐ駄目になる」
「私がダメージ受ける言葉止めてください」
「リルが駄目だとは言っていない。魔法士として魔法の研究をしているのだろう。素晴らしいことだ」

 ルッツに手放しで褒められて後ろめたくなる。リルは魔法士だから魔法の研究をしているのではない。魔法学を学ぶなら自由に過ごしていいと言われたから、そのまま変わらず過ごしているだけだ。誰かの役に立ちたいわけでもなく、四年間全く変わらない生活をしてきた。

 かといって、ルッツに言われたくらいでこの生活を変えるつもりはない。前世の呪いはそう簡単に払拭されないのだ。

「しかし、相変わらず米と野菜が美味しいな。魔法士じゃなくて料理人としても王宮でやっていかれる」
「だから行きませんって」

 料理人なんて、勉強をしたことがない分魔法士よりやりたくない。

「私の料理が美味しいのは、私の腕が良いんじゃなくて食材が良いだけですから」
「なるほど。生産家に感謝だな」
「そうですね」

 それだけはルッツに同意だ。離れて暮らす父にリルは改めて感謝した。

 翌日にはロンズが王宮御用達だという調味料を持ってきてくれた。これがまた味噌にそっくりで、リルはいたく感動した。こうして、コウ肉の味噌焼きという新たな料理がリルのレパートリーに加わった。
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