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黒丸くんと相談事……そして、事件です!③
しおりを挟む薄幸そうなナージャさんの話を聞く。
シリウスは、先に到着していたワタルさんと剣の稽古中。副団長のタスクさんと両手にマドレーヌを持ちパクつくカンタさんも同席した。よほど嬉しいのか、お空を飛べそうな勢いでしっぽを振り回しています。
鍛練したそうにウズウズするスージーさんはそれでも我慢して、ナージャさんやみんなに紅茶を淹れお茶菓子を出すのを手伝ってくれた。
獣人を蔑むあのマルセルさんの生まれた隣国ヘラルドから引っ越してきたナージャさん一家。
国際的に獣人を奴隷扱いすることは禁止されている。だけど……ヘラルドでは獣人は学校から追い出され、勉学の機会を奪われる。読み書き出来ない獣人が大半を占めるそう。しかも、職業も平民の嫌う危険で重労働、低賃金の仕事しか就労出来ない酷い国。
ナージャさんの旦那さんは家族を養う為にと無理をし続け、体を壊してしまった。
そこで獣人に友好的で受け入れに寛容なグランシス国に亡命してきたと。
本当に隣国ヘラルドはろくな国じゃないようですね~。
他国からも非難され、次々とヘラルドに住む獣人はヘラルドから逃亡しているそうです。
旦那さまは私ことお姉さんとの結婚を承知する見返りに国王から援助協力を取り付けた。
他国から受け入れた獣人の受け皿としてお義父さまお義母さまの治める辺境の地に読み書き出来ない獣人専用の学校や身寄りのない獣人の保護施設、孤児院を建設した。
合わせてご両親と協力し優秀な兵士の育成、雇用を産み出す為の農地開発、新たな炭鉱探し、蚕の生産と機織りと手広く行っている。さすが私の旦那さまです~!
ナージャさんの息子さんもミミさんの子供と同じように、獣人に割り良い仕事があると身なりの良い男に話しかけられた。父親と母親に楽をさせたかった息子さんは住み込みのその仕事の斡旋に直ぐに飛び付いた。
でも、家を出て2ヶ月経過しても母親のナージャさんに何の音沙汰もない。
心配した彼女が仕事を斡旋してきた男を探し問い詰めたところ、息子さんは根性なしで直ぐに仕事を退職し逃げたから、居場所は知らないと邪険に扱われたという。
タスクさんの内偵調査とシャーリングさんの古い知り合いの獣人の話から、少なくとも30人以上の獣人がここ2ヶ月で行方不明、音信不通になっていた。
タスクさんに拠れば集められた獣人は馬車に乗せられ、北の山に向かったという。
「北の山には、なにかあるんですか?」
「北の山には数多くの炭鉱が存在してさ……今は採り尽くされて廃坑になっている筈なんだけど」タスクさんが教えてくれた。
「中は迷路みたいに複雑に入り組んでいます。一度迷ったら出るのは困難です。ヴィーは絶対に近寄らないで下さい」
心配症の旦那さまに念を押されましたが、そもそも北の山には行きませんよ。
「でも、そんな廃坑に獣人を集めて何をしているんですかね?」
「………地下の奥深くのマグマだまりに希に貴重な魔石が採掘されることもありますが……灼熱でいつ噴火するかわかりません。採掘は危険過ぎます」旦那さまは眉間の皺を深めた。
魔石はその名の通り魔力が結晶化したもので、魔力の弱い人でもこの石さえ持てば自分の適性魔法が使用可能になる。国内及び外国でも高値で取り引きされる。この石は永続的には使用出来ない。強い魔法ほど魔石の消費は激しくなる。
「御婦人、ご子息は仕事についてなにか言ってませんでしたか?」タスクさんが恭しくナージャさんの手を掴むと、騎士らしくその手の甲に口づけを落とした。
「まあ……騎士様ったら、からかわないで下さいませ」ぽっと頬を赤らめたナージャさんは、自分の頬を抑えた。唇を離したタスクさんは、潤んだ瞳で彼女を見上げ、そのままナージャさんの手の甲を優しく撫でる。
はわわー、タスクさんはいつもそうやって女性を口説くようにして情報を集めているんですね?
「些細なことでも良いから思い出して下さい」
「……最後に別れた時。俺、騎士になれるかもしれない、と……そんな夢みたいなことを言っていましたわ」別れた日を思い出したのかナージャさんは遠くを見つめた。
「騎士になれる……ですか?
獣人たちを集める為の甘言の可能性もありますが、本当に北の山の何処かで騎士として訓練されている可能性も捨てきれません」
旦那さまは呻くように言った。
「シオン隊長、どちらにしても対処しないといけないよ。でも、溜め息の出る案件だよ。沢山ある廃坑の中から居場所を探さないとなんだからさー」タスクさんは大袈裟に肩を竦めた。
案の定、行方不明者探しは難航した。
タスクさんは町を見張り、勧誘係りの身なりの良い男を探し出そうとしたけど見つからない。
獣人騎士団が探していることを察したのか、それとも必要人数揃ったのかはわからないけど。しらみ潰しに廃坑を端から順に確認するしかなく秘密裏に調査を始めた。
もし、廃坑に沢山獣人が生活しているなら、当然食料などの物資は必要になる。旦那さまは町から北の山に、不自然な物資の流れがないか見張らせた。
また、第二騎士団に度重なる獣人の陳情を無視しないようにと訴えたが、他の仕事が忙しく獣人相手に時間は裂けないと拒否されたそうです。困った騎士団です仕事して下さいよー。
返答に荒れて周りを凍らせた旦那さまはタスクさんと相談して、町に住む獣人の為に困り事は相談して下さいと町の懇意のお店に、獣人騎士団詰所宛の目安箱を設置した。(国王には報告済み、了解を得てる)
騎士団員宛のラブレターから事件まで。投書の多さに獣人騎士団の中に新たに部署が設置された。
午前中は王宮に出向き、アリアナさまと苦虫を噛み潰したような顔のミリヤ妃と魔法学を学ぶ。
もちろん旦那さま椅子に座って。
初日は見学していたジャスティス王子は私と旦那さまのラブラブっぷりに恐れを成したのか、次の日から教室に来なくなった。
どうやら真面目に建国祭の準備に取り組んでいるらしい。
やりました!本当に良かったよー!
王様の命令で時折シリウスも一緒に登城し謁見を行う。その後は、子ども好きの正妃さまが勉学中は子守りをしてくれる。シリウスはすっかり王妃さまと打ち解け、温室で大好きな虫採りを一緒に楽しんでいます。
勉学のあとは、スージーさんとアリアナさまの客間に移動して、黒丸くんの観察と実験をする。
旦那さまはダニエル王子と魔物討伐の計画と相談にと忙しく、王子の執務室に向かう。
アリアナさまはキラキラ成分を抑えられるようなり、黒丸くんをツンツンしてもダメージを与えることが無くなった。
実験が終わればスージーさんも交えて三人でお茶を飲んで他愛ないことを話した。
アリアナさまは「初めて犬に触れたんです!」と、嬉しそうに報告してくれた。
「今度は、アタイの耳に触ってみるかい?」
スージーさんが狼耳をピクピク動かした。
「はい!」「私も触りたいです!」アリアナさまと同時に叫んでから、三人で顔を合わせてぷっと笑ってしまった。
―――。
楽しい時間を過ごすうちにーー油断していました。ここは敵陣の中だということを!
「喜べ!お前を世継ぎの生母にしてやる」
勝ち誇ったように笑い、私に覆い被さるジャスティス王子の手が太ももをスッと撫でた。
吐き気がするおぞましい感触に、全身の血の気がぶわあぁーっと引いていく。
ひいぃー気持ち悪いです~!
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