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黒丸くんと相談事……そして、事件です!②
しおりを挟む「常に聖徳を積んで高めてきたので、聖なる力を抑制して接する……そんな発想はありませんでしたわ」
「強烈すぎる光では、農作物も枯れて育たない。生き物も弱ってしまいます。抑制、停滞を司る闇もまた生きていくのに必要な要素です」
スージーさんに賛同し旦那さまは、諭すようにアリアナさまに告げた。
「ええと必要なんですか?……闇属性の私が言うのも何ですけど、魔族とか魅了魔法とかで、余り良い印象がないんですが?」
「違いますわヴィヴィアンさん。良し悪しはありませんの。闇は安らぎ、停止する力。夢の狭間。昨日への贖罪、明日への渇望……闇も大切な属性の一つですの。先ほど授業で教えた通りです。強すぎる光の土地には影すら出来ない。何も育たない……っ!そう…そうでしたの」一瞬先生の顔を覗かせたアリアナさまだったけど、自分の発言を繰り返し反芻し、発見したように何度も頷いた。
「本当は、黒丸くんを解明して時止めの魔法を使役したかったのですけど、反属性の闇魔法は私には使えません。
だから、聖なる力を押さえる練習をしてみますわ!ありがとうございます。皆さんのお陰で突破口が開けましたの」
アリアナさまは、余程嬉しいのか私とスージーさんの手を掴むとブンブンと振り回した。
「え?!アリアナさま?」
一人で納得し御機嫌な様子のアリアナさまに戸惑う。
「まあ、何だかよくわからねぇけど、解決して良かったな」同じく困り顔のスージーさんは空いてる側の手で、鼻をポリポリ掻いた。
「………アリアナ様の悩みが解決したようで良かったです。またお困りでしたら私達や、ダニエル王子にご相談下さい。忙しい王子もアリアナ様の為なら時間を割いて下さいます。
アリアナ様の問題が解決したなら黒丸の観察は今日で終了で宜しいですか?。一部の方々がたいそう騒がしいので、ヴィヴィアンをもう王宮を辞したいのですが?」
旦那さまは、アリアナさまの問題を理解しているのか話を纏め出してます。それも、速やかに撤退する方向で。
確かにミリヤ妃とジャスティス王子に絡まれるのは面倒くさいですけど、魔法の勉強はしたいです。
アリアナ様は、自分が使えなくとも今後の魔法学発展に黒丸くんの研究は続けたいと言う。
時止め魔法を解明し作物、料理の長期保存に使用して、飢饉対策にしたいそうです。
強いアリアナさまの要望で勉強会とともに続けることになりました。
それに、私もアリアナさまと仲良くなりたいです。
アリアナさまは16歳。アルバトール教会猊下の娘で高位聖女。年齢より歳上でしっかりして見えますが寂しがり屋の一面に好感が持てます。
高位なのに驕らない態度、腰も低い。
侍女のスージーさんの言葉使いに憤慨することもなく、侍女だからと蔑まない。
物怖じせずハッキリ言う彼女が新鮮なのか嬉しそうに仕切りに話しかけていた。
スージーさんと歳が近いし、もしかして馬が合ったりするのかも。
◇◇
黒丸くんの研究の後は、旦那さまを騎士団詰所に送迎します。タスクさんが仕事を抱え待ち構えていそうですね~。
途中、仲良し夫婦アピールと騎士団員の差し入れを買うため町に寄ります。
今日はカンタさんリクエストの白猫堂のマドレーヌにしようかな?
丁寧に作られて素朴な味がクセになり、何個でも食べられる婦女子の敵な一品です!
二匹の猫がしっぽを絡み合う手作りの看板のこじんまりとした白猫堂は、優しい女将さんとムキムキな店長さんが作る美味しいパンとお菓子のお店です。
シリウスもここのお菓子が大好きなのでウキウキしています。
旦那さまとシリウスと手を繋ぎ仲良く入店する。直ぐに大きなお腹を揺らし、テキパキ働く女将さんのキリコさんに声を掛けられた。
「あらまあ~、シオン騎士団長様に奥様!シリウス様もいらっしゃいませ。ちょうど良い所に来て下さいました。実は、会わせたい人が居るのです」
「会わせたい人ですか?」
「そうなのです。半年ほど前にね隣国から引っ越してきた獣人のご婦人でして。可哀想に息子さんが行方不明で探して欲しいそうなのです」
キリコさんは話し終わると、シリウスにおまけにと『パンの耳のお砂糖揚げ』の入った袋を笑顔で手渡した。シリウスはお礼を言うと嬉しそうに袋を抱き締めた。体温でお砂糖溶けますよ?
「………行方不明者ですか?
町の防犯、治安維持は第二、第三騎士団の管轄です。騎士団にご相談はされたのですか?」
「……大きい声じゃ言えないんですけどね。第二騎士団に届けたら、行方不明なんて獣人には良くある話だからと訴えを聞いてさえもらえなかったそうなのよ」こそこそと耳打ちするキリコさんに、旦那さまは恐ろしく渋い顔をした。
え?困っているのに!良くある話で拒否するなんてどういうことですか?
私の疑問が顔に出ていたみたいで、旦那さまは吐き捨てるように言った。
「悲しいことですが……第二騎士団の中にも、ローベルハイム公爵と同じ獣人を蔑み排除を望む反獣人派がいるのです。訴えに耳を傾ける価値がないグランシアの国民と認めないと言いたいのでしょう」
「……そんな、同じ人なのに酷いです」
悲しくて唇を噛む、私の頭を旦那さまが優しく撫でた。
グランシア国には、第一から第三騎士団、それに旦那さまが率いる獣人騎士団が存在する。
第一騎士団は別名王宮騎士団と呼ばれ主に王城の日常の警備と守護、緊急時の防衛を行う。
最も重要な役割は王族、国賓などの身辺警護で、護衛騎士も第一騎士団に含まれる。
身分よりも人格や剣技、魔法力が重要視される。しかも難関な試験、実技を突破した優秀なエリートにしか成れないそうで。あの、ランディさんは実は凄い人だったんだ!
次の第二騎士団は主に上級貴族で第一騎士団の試験に見事落ちてしまい、行き場のない次男以下のお坊ちゃんが数多く在籍している。
彼らの仕事は平民や下級貴族の所属する第三騎士団と連携協力して、日本で云うところの警察のように治安維持や防犯、犯罪の抑制、市民の相談などなど……町の平和を守ること。
第三騎士団は第二騎士団の下請けのような立ち位置だそうで、プライドが高く傲慢。見映えの良い楽な仕事を選びがちな、第二騎士団から重労働を丸投げされるのが日常的らしい。
第三騎士団は、ちょっとかわいそうな立ち位置ですね。
もちろん王命があれば、この前の『魔物の吹き溜まり事件』のように、騎士団の垣根を越えて遠征や魔物討伐に派遣される。第二騎士団は討伐当日、体調不良者が続出したらしいけど………あれ?今回の事もあるし、もしかしてダメダメ部隊ですか?
旦那さまは、スタンピートの報酬に王様から垣根を越えて獣人対応に当たる事を許可されているそうで、キリコさんに本人を連れて来るようにお願いした。
キリコさんに案内されてお店に来た女の人は、疲れた表情で、酷くやつれていたけど、タスクさんと同じ狐獣人だった。
本来、もふもふで黄金色のはずの耳としっぽの毛皮は煤けてくたびれていた。
同じ獣人の旦那さまを見て安心したのか、ぎごちなく微笑む彼女は、ナージャさんと名乗った。
キリコさんにお礼を言い、差し入れのマドレーヌとお菓子を大量に購入すると詳細を聞くためナージャさんを馬車に乗せ、獣人騎士団詰所に急いだ。
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