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だが、断る!
しおりを挟む「シリウスが居なくなった?」
いつものように授業後のアリアナさまの客室。スージーさんも交えて三人で話に花を咲かせていると、正妃さま付き侍女が息を切らせ駆け込んできた。
今朝、王様に呼び出され一緒に登城したシリウスは、謁見後に正妃さまと庭園で大好きな虫取をして遊んでいたはず。侍女曰く、虫取りに飽きたシリウスが王妃さまにかくれんぼをしたいとねだったそうで。
遊び始め隠れたシリウスがの姿が一向に見つからない。
庭園の入り口に見張りの護衛騎士が配置されていたけど、シリウスは身体能力高い獣人の旦那さまの子。見張りの隙を付いたのか、はては垣根の隙間からこっそり抜け出したのか見つからない。城内の何処かに隠れていそうです。
急ぎ旦那さまに知らせると、総出で城内の捜索が始まった。
私とスージーさんとアリアナさま、三人で探していると、アリアナさまの気分が悪くなってしまった。
青白い顔で吐き気を抑え、それでも捜索に参加すると言うアリアナさまを医務室に連れていくようにスージーさんに頼んだ。
悪阻は病気じゃないけど、辛いと思う。
そう、アリアナさまは妊娠していた。知っているのは信用できる王族と一部の護衛騎士と王宮医者のみだそうです。
勘の良い旦那さまもとっくに気づいていた。だからモモサラ地方の魔物討伐を早急に終わらせて帰還したんだって。さすが思いやりのある優しい私の旦那さまです~!
責任感の強いアリアナさまは、悪阻で気分が悪くとも仕事を優先してしまう。
アリアナさまが、黒丸くんを解明して時止めの魔法を使役したかった本当の理由はお腹の子どもにあった。
アリアナさまが聖なる力を行使すると強すぎる光で胎児に負荷がかかっていた。強すぎる光の土地には影すら出来ない、何も育たないから。
結果、子ども生育に遅れが生じていた。
そこで、聖なる力の発動時には胎児の時を止めて、負担を最小限にしようと考えたみたい。
でも、アリアナさまに闇魔法は使えないので、先日スージーさんに助言された、聖なる力を押さえる練習をした。
スージーさん曰く日常的『目が潰れそうなぐらいただ漏れてる』聖なる力を抑えた結果、まだ小さめですが胎児の成長が改善されたそうです。
良かったですね!アリアナさま。
アリアナさまは16歳で結婚はしていない。
妊娠していると私とスージーさんに話してくれたけど、気になるお腹の子どもの父親は秘密だそうです。
「すいません、友人の二人にお教えできなくて。身分違いの人なんです。相手にご迷惑をかけたくありません。周囲にも内緒にしてくださいね」
うーん、誰ですかね?聖女を孕ませたと非難される、身分違いの人。貴族や王族なら祝福されそうですし、教会関係者は恐れ多くて手出ししなそうです。もしかして、平民出身の騎士とか商人さんとかですかね?
王さま王妃さまのみ、お相手を知っているそうです。聖女さまのお相手とっても気になります。
スージーさんと離れ慌ただしく人の行き交う城内でシリウスを探す。
何処に行ったのかなシリウス?一人で泣いていたら可哀想。早く探さないと!
「シリウス~!かくれんぼは終わりです!出て来て下さい~」
シリウスはカーテンにくるまるのが好きだから、赤いカーテンに居るのかな?
端からカーテンを捲っていると、遠くから名前を呼ばれた。
「ヴィヴィアンさん、こちらでシリウスさんを見かけましたわ!急いで下さい」
ヒラヒラと手を振り私を急かすのはミリヤ妃だった。シリウスが居なくなり冷静な判断が鈍る。焦っていた私は不覚にもノコノコとミリヤ妃に着いていった。
「……この部屋に入って行くのを見ました。奥の小部屋の方ですの」
指を差す部屋は城奥の屋根裏だった。物置のような部屋はいかにも子どもが隠れそうです。
「シリウス~!居ますか?ママですよ!」
扉を開け屋根裏の奥に入っていくと、そこに居たのは不敵に笑みを浮かべたジャスティス王子だった。
「ーーやっと来たか、待っていたぞヴィヴィアン。残念だが、獣の臭いガキはここにはいない」
「え?どうして……ジャスティス王子がっ?シリウスは居ないんですか?うそっ!!ミリヤ妃!」
しまった騙されたと後ろを振り返った時、ミリヤ妃の姿はなく。無情にも扉外から鍵の架かる鈍い音が聞こえた。
◇
「……まさかジャスティス王子とミリヤ妃がシリウスを隠したのですか?」
「フンッ、ガキはことは知らんな……それより」
ジャスティス王子が私の腕を強く掴む。そして、屋根裏部屋にそのままあったのか、持ち込まれたのかわからない簡素なベッドに乱暴に投げられた。
っ!~い、痛い。
背中に硬いマットレスの感触、上体を起こそうとする私にジャスティス王子がのし掛かる。
「おち、落ち着いて下さいっ、ジャスティス王子!私は、シリウスを探さないとなんです。
私は世継ぎの生母になんて望んでませんから!何度もお断りしていますよね?
ほら、私より真実の愛で結ばれた愛しい妻のミリヤ妃に産んでもらってください」
何とか私とジャスティス王子の体の間に隙間を作ろうと、手足を動かし暴れた。
「そんなに恥ずかしがるな……ん?ミリヤに嫉妬か?」
はあぁ?とんだ勘違い男ですね?一ミリも嫉妬なんしませんよ!
王子の大きく膨らんだ鼻の穴からの興奮した鼻息が耳に吹きかかった。口から蒸せそうなほどお酒の臭い。最近は真面目に仕事してると思っていましたが、違ったようです。昼間から飲んだくれていたんですね?
「心配するな、あいつは駄目な女だ。自分が孕まないのが悪いんだ。その癖、石女の分際でこの俺を種無しと罵倒した。馬鹿な女だ。まあ、生意気なその面を叩いて黙らせてやったがな!」
「えっ?暴力ですか?最低ですよ!」
口づけしようと近づく顔を精一杯腕を突っぱね防ぐ。
勘違い発言に暴力、暴言、仕事もしないジャスティス王子良いところ一つもないですね?
「生意気なっ!ヴィヴィアンまで俺を否定するのか?」ギロリとジャスティス王子の瞳孔赤く憎しみ血走る。
「……否定なんて、しませんっ」
「ふっ、そうか。やはり俺の元婚約者だ。獣より俺を受け入れるな?ミリヤに嫉妬しなくていいようにたっぷり愛してやる」
ジャスティス王子が私の頬を撫でた。
「……否定するほどの価値もないです。
私も旦那さまもジャスティス王子に関わりたくない。家族三人で幸せになるんですから私たちのことは、ほっといて下さい!
ミリヤ妃に嫉妬?しませんよ。
たっぷり愛してやる?毎夜旦那さまにたっぷり愛されてます。私は旦那さまが大好きなんです、旦那さましか受け入れません!」
沸き立つ怒りに頬を撫でた王子の手を振り払う。王子相手に不遜だとか、そんなことは頭から飛んでいた。
私の余りの剣幕に驚いた王子は叩かれた手を呆然と見つめた。
「ジャスティス王子なんかとエッチなんて死んでも嫌です。勘違い凄いし自分本意で気持ち悪い!重いしアルコール臭いし、最低です。早く離れて下さい!」
言いたいことを大声で叫び、おもいっきり王子の胸を押した。
「~~っ!!下手に出てやれば付け上がりやがって!生意気な女だ!俺が一からしつけてやるっ!」
王子は激怒した。顔色が赤を通り越して土気色変貌した。
「シオンだけが愛され幸せになることなど許せるかっ!!あいつより俺のほうが優れているんだ!お前は俺のだ。俺の幸せのため、俺の子を産むんだ!!」口から泡を飛ばし怒鳴り散らした。
「お断りします!」
「いい気になるなよ!」
バァンっつ!!!
ジャスティス王子は私の頬を平手打ちした。
強い衝撃に頭が揺れた、一瞬意識が遠のく。頬が焼けるように痛い。口のなかに血の味が滲んだ。
「ーっあっ、うっ。」
「はっ、いい様だな」
初めての痛み、叩かれたショックで頬を抑え動けない私を嘲け笑う。
王子は私の胸に手を伸ばしわし掴むーーその瞬間、胸と胸の間から黒丸くんが滑り出た。
「なっ!」
黒丸くんは驚くジャスティス王子の顔前でぐしゃりと弾け飛んだ。
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