悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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事件は続くよ①

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「ぐはっ!目がっ!!目が見えんっ!!」
 黒丸くんの闇に視界を塞がれたジャスティス王子は目を押さえ大きくよろめき後ろに下がった。重石が無くなり体が自由になった。

 チャンスです!黒丸くんありがとう!

「どいて下さい!」 
 私はベッドサイドに置いてあったランプを振りかざすと、渾身の力を込めて王子の頭に振り下ろした。バリンと割れる痛そうな音、呻き声をあげ王子が床に転がる。

「~っ!ヴ、ヴィヴィアンっ!!王子の俺に危害を加えてただで済むとおもうなよ~!!」

 強姦魔に同情するつもりはないです。怒鳴る王子を無視し、物置のドアノブをガチャガチャ回した。やっぱり開かない!扉を拳で叩いた。
 黒丸くん(闇魔法)が発動したから、私の危機は結婚指輪を介して旦那さまに伝わっている。旦那さまが助けに来るまで何とか持ちこたえないと。


「ミリヤ妃!開けて!!開けて下さい!!」
 必死に訴えると、扉の向こう側からミリヤ妃の声がした。 

「あら?ヴィヴィアンさん~。もうヤられてしまいましたの?王子は相変わらず早漏ですこと……まあこれで、公妾に成るしかありませんよね?王族の精を受け入れたんですから」 
 クスクスと楽そうな声に怒りしか沸いてこない。 

「ヤられてませんよ!
 ミリヤ妃は自分の愛しい旦那さまに他人を襲わせるなんて、頭おかしいんじゃないですか?」

「なんですって!わたしのどこがおかしいのよ?!」
 
 ヒステリックに喚くミリヤ妃。ドア越しでもキンキン耳に響くミリヤ妃に負けない大声で叫んだ。
 
「おかしいですよ!
 真実の愛でお互いを選んだのに、種無しだ!石女と相手を馬鹿にして罵りあって私をけしかけるなんて!お互いを尊重して夫婦二人で協力したらお子が出来るかも知れないじゃないですか?」  

「……知ったような口を利かないでよ」

「え?」
 低く、冷たく暗いミリヤ妃の声に怯む。 


「あは、協力しあっても無駄なのよ。
 ジャスティス王子はね……幼い頃高熱で寝込んで精巣が駄目になっちゃってて、本当にね~種無しなの」ねっとりと纏わりつく心底馬鹿にした蔑む言葉。 

 え、え?種無し?罵り言葉ではなく本当に?

「だからね……わたしがどんなに努力してもつまんない正妃教育受けても意味ないのよ」 

「…でも、子供が居なくても仲良く暮らす夫婦はたくさんいますよ。ジャスティス王子とミリヤ妃もそうなればいいだけですよ」
 ついつい襲われ中なのに慰めの言葉をかけてしまう。

「違う!俺は種無しじゃない!あの、検査はミリヤの偽りだ!……だから、証明してやるんだヴィヴィアンの腹を使ってな!」
 焦った様子のジャスティス王子が後ろから接近する気配がした。黒丸くんで視界を塞がれても、私とミリヤ妃の声のする方に這ってくる。

 胸元まで真っ黒に染まり、必死な鬼のような形相は怖さより憐れに見えて。
 その様子がミリヤ妃の言葉が真実なんだと突きつけた。ジャスティス王子は本当に種無しなんだ。あんなに威張り散らしてたのに、この人には最初から王位継承権はなかったんだ。可哀想に……。

 ふっと、疑問が浮かんだ。

 
「……ミリヤ妃。
 それじゃあ、尚更私がジャスティス王子に襲われる意味はないじゃないですか?」
 
「あら?意味はあるわよ。」

「え?」 

「獣人は嫉妬深くて臭いに敏感なの。きっと……ヴィヴィアンさんがジャスティス王子に襲われた貴女のこと嫌いになるわ~。
 今はただ、ヴィヴィアンさんがシオン様しか受け入れたことがないから特別に見えるだけなのよ」

「ええぇー?!」  
 何ですか?その独特の解釈は?いろいろ間違ってますよ。

「わたしはシオン様の目を醒まさせてあげたいだけなの……そうしたら間違いなくわたしを選んでくれるわ」
 うっとりと夢見るように言われても、内容は酷いです。私と旦那さまの仲を引き裂き、後釜に収まりたいだけですよね? 

「夫婦揃って馬鹿なんですかー!!わたしがジャスティス王子を選らばないように、旦那さまもミリヤ妃を選びませんよ!
 考えただけでゲロゲロしそうですけど、もしわたしがジャスティス王子に襲われても旦那さまはわたしのことを嫌いになったりしませんよーーーだ!!」

「ぜ、絶対に嫌いになるわ!わたしの方が女として魅力的ですもの」
 ミリヤ妃……その自信は何処からやってくるのでしょうか?

「ゲロ……だと、そんなに俺が嫌なのか?」
 ふらりと立ち上がった王子は、今さらショックですという顔をした。この夫婦まとめて穴掘って埋めてしまいたい。 
 

「はぁぁ、この状況でなぜ好かれてると思えるんですか?黒丸くんが発動したので直ぐ旦那さまが駆けつけてくれます!諦めてここを開けて下さい!
 私を襲う前に治療に専念した方が良いですよ。王さまや正妃は王子が子供を作れないと御存じなんですか?」 

 王さまや正妃さまは知らなそうです。知っていたらとっくに王太子候補から外されるはずだから。もしかして、ミリヤ妃が隠していたのかな?

「~~っ!!うるさい!!俺は種無しじゃない!言う必要はない!!いいから股を開け」
 逆切れした王子は私の二の腕を掴んだ。おもいっきり掴んだ腕を引っ張り、床に投げ飛ばした。

「きゃっ!うっ、」 
 背中を強打し、痛みに体を丸めた。再び覆い被さろうとする王子の胸に二匹目の黒丸くんを押し当てる。ちょうど心臓の上を「がっ!」と、呻き声をあげて王子の動きが止まった。時止めの魔法を使ったのだ。長くは持たない早く脱出しないと。
 
 痛みに耐え立ち上がる。 
 扉が開かないなら……くるりと部屋を見回すと三角の天窓があった。ここから出るしか道はなさそう。 
 置いてあった椅子を力一杯ぶつけるとバリンと鈍い音をたてて、ガラスが割れた。尖った破片に気を配り屋根伝いに上に登る。 

 ひいぃ~っ!!高いです! 

 連れて来られたのは、どうやら城の西棟の外れだったようです。 6階の高さに足がすくむ、風も強く斜面も急です。ゆっくりと慎重にお尻をついて進むと広い中庭が見えた。
 迷路状の生け垣を突っ切ってもの凄いスピードで駆けてくる人影が見えた。 
 余程焦って居るのか耳もしっぽの毛も逆立っていた。髪の毛はボサボサで所々に葉っぱが刺さってる。

 見間違えるはずもない。ああ、良かった!旦那さまが来てくれた!!

「旦那さまーー!!私はここですー!!」
 屋根の上から声を張り上げ手を振った。

「ヴィーっ!!遅れてすいません!!無事ですか? 
 今助けます……少し離れて下さい」 

「はい!」 
 
 旦那さまが地面に手をつけると地面から氷の柱が生え始めた。長さの異なる柱が次々に地面から表れ、地面から6階の屋根まで段々と連なった。
 
 まさしくキラキラ輝く氷の階段が出来上がった。

「側に行きます!」
 旦那さまは氷の階段を颯爽と駆け上がると、ぎゅうっと私を抱きしめた。 
 
「ヴィーっ!!」 
「旦那さま、旦那さま!」
 私も旦那さまに必死にしがみつく。暖かい、旦那さまのぬくもり、臭いに嬉しくて安心して涙が溢れた。旦那さまは震える私をそのままお姫様抱っこをし、今度は氷の階段を下りて行く。 

 
「まあ、おとぎ話のようです」
 中庭にいつの間にか集まった侍女の感嘆の声が聞こえた。慌てて兵士が城の中に走っていく。

「すいませんでした。くっ!ヴィーの頬が赤い……ジャスティス王子とミリヤ妃の仕業ですね?最近大人しいからと油断した私が馬鹿でした」 
 僅かに腫れた頬を何度も何度も撫でられる。

「旦那さまは悪くないです。ミリヤ妃を信用したわたしが悪いんです……それより、シリウスは見つかったんですか?」

「大丈夫です……シリウスは見つかりましたよ。ミリヤ妃が遠くに隠れるよう誘導したようです。今は正妃と一緒に居ます」


「良かったです~」
 シリウスが無事で、緊張が溶けた。私は旦那さまにもたれ掛かる。旦那さまは私の首元でピクピク鼻を動かした。

「…………私のヴィーからジャスティス王子の臭いがします………奴らは何処ですか?心臓まで凍らせます」 
 旦那さまは見たことのない笑顔を浮かべていた。足下から底冷えするような、異様な冷気が漂う。
怒りを通り越してしまった笑顔ですね。こ、怖いです。  

「旦那さま、わたしは無事なので落ち着いて下さ い!襲われてませんから、ちょっとおっぱい触られたぐらいですから」  
 旦那さまを王子殺害犯にはしたくない。絶対に止めないと。 

「お……おっぱい……っ」 
 絶望的に暗い声で旦那さまが呟いた。 

「クソっ!ヴィヴィアン!待てっ!王子の俺に怪我をさせてただで済むと思うなよ。 
 なっ?この氷はシオンか?貴様か居たなら話は早い、責任を取ってもらうぞ」
 なんと、タイミングの悪いことにジャスティス王子が私を追って氷の階段から下りて来てしまった。 

「ひぃぃ、火に油を注いでます~」 

「……どのような責任でしょうか?」 
 ゆらりと陽炎のように旦那さまが揺れた。 

「俺の女になるに決まっているだろう?」
 
  
 綺麗な弧を描いてジャスティス王子の巨体が空を舞う。ドガンと大きな音をたて氷の柱を数本破壊し、氷の中にめり込んだ。

 その顎には、旦那さまに殴られた拳の後が赤く、くっきり付いていた。 

 うわわ、痛そうです。顔が腫れて別人みたい。
 ………顎外れてるのかな?
 
 ちょっと首が変な風に曲がってるけど、多分生きてますよね王子?

  
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