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騒動の顛末②
しおりを挟むこれは旦那さまに聞いたお話。
家令ヤトさんの、ローベルハイム公爵に対する忠誠心は高く岩のように硬く。
彼は仕事を斡旋すると町で獣人を騙しニセ獣人騎士団に仕立てあげたのは全て自分の独断で、ローベルハイム公爵の預かり知らないことだと自供したそうです。
廃坑の北の山を根城にするなんて一家令の権限と財力で到底出来ることでない。
獣人騎士団の調査の結果、採掘した魔石は巧妙に何ヵ所か経由したのち、ローベルハイム公爵家に全部流れていたんだって。
到底無関係との自供の信憑性は低く、タスクさんが根気強く取り調べを行っている。
それでも……歯痛の痛みに耐えながら、ヤトさんは頑として口を割らない。
うう……やっぱり地味に歯が痛くなる呪いが効いてるみたいです。忠誠心が強いほど痛いのかも。
ヤトさんに悪いことにをしたと思うけど、解除の方法が解らない。
ローベルハイム公爵はヤトさんの面会にも来ない。勝手なことをしたと、知らぬ存ぜぬで全ての罪をヤトさんに押し付けている。尽くしたのに酷いです。ヤトさんは1日でも早く忠誠心を捨てて本当の事を話して欲しいです。そうしたら歯痛も無くなるはずですから!
そんな……頑ななヤトさんの心を解きほぐしたのは、マクガイヤ家の家令シャーリングさんでした。
シャーリングさんは内戦でヤトさんと同じ年頃の息子さんを亡くしていて、他人事だと思えなかったようです。
顔色の優れないヤトさんを心配し暇を作っては、面会に差し入れにと取調室に押しかけたようです。
戸惑っていたタスクさんも自分が尋問するより上手くいくかもとシャーリングさんの面会を容認してくれました。
もちろんヤトさんは自分に口を割らせるつもりだと初めのうちは警戒していたんだけど。
シャーリングが事件の話題に触れず一方的に日常話をして嬉しそうに帰る様子に毒気が抜かれたようで、少しずつシャーリングと話をするようになったそうです。
無愛想な使用人への接し方、ワインの産地、こだわりの茶器など、日常的ななわいもない会話を繰り返すうちにヤトさんは自身の事を語り初めました。
今にも倒れそうな真っ白な顔で、懺悔のように懐かしむように。
平民出身のヤトさんはお姉さんのお母さんビクトリアさんがローベルハイム公爵に嫁ぐ際に隣国ヘラルドから同行してきた使用人の一人。
ビクトリアさんに心酔し、夫であるローベルハイム公爵にも忠誠を誓い、その勤勉ぶりが評価され、若くして家令に抜擢されたそうです。
「公爵は毎日、ただの平民の私に珍しいお茶を淹れてくれます。そして……こう言うのです。
『忠義な家令を持てて私も妻も幸せだと』……だから、私は……公爵家を裏切れません。たとえシャーリング殿が私を気にかけて良くしてくれてもです」
「ホ、ホッ、私は貴方に公爵家を裏切れとは言いませんよ。それより、珍しいお茶の話を聞かせて下さい」
追及されないと安心したヤトさんはシャーリングさんに促され珍しいお茶の詳細を語ったそうです。
ビクトリアさんが懇意にする遥か東国エリンジアからわざわざ取り寄せていた。
エリンジアにしか咲かない青紫色の花弁を紅茶にしたもので、飲むと胸のつかえが取れて頭がスッキリするそうです。
不信に思ったシャーリングさんとタスクさんが伝手を使い調べた結果。その青紫色の花弁は古くからエリンジアで使用された強心薬だったのそうです。
健康な人がこれを内服すると常に心臓が全速力で走っている状態になり、寝なくても平気な興奮状態で元気になるそうです。一種の栄養ドリンクみたいですね。
でも、毎日常備してしまうと常に心臓に負荷がかかり空回り状態になってしまう。血液が早く回り過ぎて苦しくなる。
しかも、その状態で徐々に量を減らすのではなくピタリと内服を止めてしまうと心臓が停止する危険もあるという。
調べた結果に驚きお医者さんの診察にかかった時には、時すでに遅くーーー。
ヤトさんの心臓は薬で既にズタボロで、今動いているのが不思議なほど。
ローベルハイム公爵は最初から使い捨てにするつもりでヤトさんにお茶を飲ませていたようです。
なんて、酷いです。鬼畜すぎます!
シャーリングさんから真実を聞き、もう、長くは生きられないと悟ったヤトさん。
それでも泣き言一つ言わず胸を押さえ言ったそうです。
「……やはり、そうでしたか。
シャーリングさん死に行く私が、最後にローベルハイム公爵家に出来ることがありますか?」
「出来ますよ。今までローベルハイム公爵家に献身的に支えてきた貴方にしか出来ないことです」
シャーリングさんは労るようにそっと笑ったという。
◇◇
国王さま肝いりで異例の早さでローベルハイム公爵家の裁判が行われた。
建国祭の前に決着を付けて反獣人派を牽制するそうです。
古くから国王に仕えた由緒ある貴族の裁判は、貴族をはじめ国民の大注目を集めています。
苦々しい顔で被告人席に座る二人の男女。
あれれ、初めて見ました。神経質そうな顔立ちの白髪の多いお爺さんぽい人がローベルハイム公爵。
その隣りに座る少しふくよかな場違いに着飾ったご婦人が公爵夫人のビクトリアさん。
お姉さんに似ていますが、少し垂れ目で目元に色っぽい黒子がありますね。
銀色の髪の毛はホイップくりーむみたいに巻かれ、貫くように華美な金の細工の簪が刺さっています。
うわあ、ドレスも簪も高そうです。
一様身内の私も伴侶の旦那さまも傍聴席で見学者しています。
シリウスも一緒に来たいと騒いだけど、もちろんお留守番です。祖父が自分を殺そうとしたなんて聞かせたくないですもの。
壇上に上がったヤトさんは睨みつけるローベルハイム公爵を真っ直ぐ見つめて。
「これが……私に出来る。最後の献身です…」
そして、一連の事件は全てローベルハイム公爵の命令で行ったことだと自供した。
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