悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

文字の大きさ
68 / 74

騒動の顛末① 旦那さま視点 

しおりを挟む
 
 
 ヴィヴィアンを戦闘には参加させませんが、危険のない範囲でのお迎えを許可しました。
 愛する家族が家で待っているだけで騎士の精神的な支えになると説明すると納得してくれました。

 疲れて眠るシリウスをヴィヴィアンの変わりに背負うと帰路に着きました。馬車のなかで、小さい手はたえずヴィヴィアンと繋がれ、少しでも離れるとぐずり泣く。そのたびに彼女はあやし続けました。
 
 見慣れた屋敷にヴィヴィアンが安心したのか表情を緩め、獣人騎士団から報せを受けた屋敷の使用人、侍女が総出で出迎えて下さいました。

 
 ヴィヴィアンから離れると火が付いたように泣く 小さなシリウス。抱き締めて眠るヴィヴィアンの顔は穏やかです。
 
 残念ですが……彼女も疲れています。ジャスティン王子に触れられた場所のお清めは明日以降にしましょう。 


 
 ◇◇ 


 北の山のくぼんだ奥地のさらに先、上空からは見ることの叶わない茂みの奥に大扉はひっそりと存在しました。 

 フードを深く被り耳を長いマント尾を隠した獣人騎士団の精鋭は重く硬い扉を叩いた。 

「………」
 無言ですが中から人の動く気配。どうやら警戒しているようですね。

「第三騎士団です。頼まれていた荷物を運んで来ました」 

 声を掛け暫く待っていると重い扉が鈍い音をたて開いた。

「ご苦労様、扉の前に置いて帰ってくれ」

 僅かに空いた隙間から押し殺した男の声。
 此処で帰るわけありませんよ。
 その僅かな隙間に力自慢の熊獣人アイクが丸太を差し込んだ。これで扉は閉じられません。

「何をしているんだ!?」
 
 戸惑う声を無視し、アイクはテコの原理を使い大きく扉を開いた。 

「だ、第三騎士団ではないのか?侵入者だ押し返せ!!」
 
「させません!」
 
 閉じようとする扉を地面から凍らせる。凍結しびくとも動かない扉。開いた隙間から獣人騎士団が中に雪崩れ込んだ。

 中は天井の高い古い採掘場だった。取り尽くされ所々凸凹していますが思ったより整備されていた。
 
「なんだ?山賊か?」
「くそう、倒すぞ」
「早く!みんな出てこいっ!!」
 
 左右の横穴から次々と獣人たちがぞろぞろと出てきた。彼らの服は一様に焦げ、所々穴が空きボロボロでした。町で騙され連れてこられた獣人たちのようです。ざっと見ても20人は居るでしょうか。
 
 手にはそれぞれ武器を持ち私たちを睨み付けています。
 

「私たちは本物の獣人騎士団です。私は隊長のシオン・マクガイヤ。
 ここに我が息子シリウスを誘拐しようとした不届きなニセ獣人を探しに来ました……貴方がたで間違いないですか?」
 
 フードとマントを取り払い獣人騎士団であることを示した。
 スッと剣を突きつけると、獣人たちの顔色が悪くなった。

「あ、あんたが隊長?
 ちょっと待ってくれ!ニセ者?ち、違うぜ。俺たちは本物に成れると聞いた!」

「そうだぜ!
 隊長の息子は誘拐じゃなくて王城から北の山まで護衛しろって獣人騎士団の代理の人間に命令されたんだ」

「代理人が隊長が北の山で騎士団として体を鍛えろって命令をしてるって。だから鍛練の一貫として足らない軍費用を賄う魔石を掘らされてるんだ!」 
 
「俺たちは代理の人間なんて雇ってない。それはさ、あんたたち獣人を都合よく使う為の嘘だよー。 
 でもさ………少しでも怪しいと思わなかったのかい?」タスクが肩を竦め、呆れるように言った。

「そんな、怪しいなんて……ちっとも」
「騙すなんて、酷い……」 
「……おっ母に…なんて話せばいいんだ?」
 力なく項垂れる獣人たち。


「……確かに騙されていた貴方たちは被害者です」

「じゃあ!」

「騙されていたとしても、獣人騎士団を名乗りシリウスを危険な目に遇わせたことをお忘れなく」
 冷ややかな目で獣人たちを睨み付けた。冷気でピキピキと地面が凍っていく。「ひっ」と悲鳴をあげて数名が尻餅をついた。  

「まあ、シオン隊長落ち着いてよ。彼らは騙されていたんだしさー。あんたら代理人捕まえる協力してよ。悪いようにはしないからさー」
 タスクが人当たりの良い笑顔で提案すると、間髪入れず獣人たちは頷いた。

「貴方たちは……自分で物事を考え、自分で良し悪しを判断しなさい。簡単に目先の甘言に飛び付ついしまうから、騙されて都合よく使われてしまうんですよ?同じ獣人として忠告します。同族こそ気をつけて下さい」
 騙されて知らなかったでは済まないことがあります。

「……シオン隊長って俺に思うところでもあるの?」タスクが物言いたげな視線を私に向けた。

 
 
 ◇

 
 ニセ獣人騎士団に扮した獣人騎士団は様子を確認しに来た代理人を捕縛した。手足を拘束されて床に転がる男。

「あれ?この人……確か、ローベルハイム公爵家の?」

「……やはり……シリウスを誘拐し殺そうとしたのですね?」 

 憎悪で顔を歪めるのはローベルハイム公爵家の家令ヤトだった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい

狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。 ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

処理中です...