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騒動の顛末③
しおりを挟むローベルハイム公爵はニセ獣人騎士団にシリウスの誘拐、北の山で魔石を採掘させるだけでなく、本物の獣人騎士団にスパイとして送り込み、重要な情報を盗んだり、偽の情報を握らせて失敗させ騎士団の評価を下げる計画を自供された。
あわよくば隙をみて旦那さまを暗殺させるつもりだったみたい。
「……私は、私兵を集めろと言ったが、まさか獣人騎士団を偽装しろなどと命令しておらん。
ましては獣人騎士団に仇なすことなの望んでいないのだ。
ヤト……お前は良くできた家令だ。マクガイヤ家に嫁いだヴィヴィアンが虐げられ記憶を無くしたことを怒ってくれていたな?
産まれた孫に一度も会えない私を哀れんでいた。だから、今回の事件を起こしたのだろう?」
ヤトさんを諭すような優しいローベルハイム公爵の声に、ヤトさんの体がびくりと震えた。
「……私は」
ヤトさんは下を向き項垂れた。
「……すまなかった。ヤトがそこまで思い詰めていたなど知らず。全て私の監督不足のいたすところだ。
だがな、私に命令されたなどと嘘八百をならべるのは良くない。事件はヤトが単独でしたこと、そうであろう?」
優しい口調だけど有無を言わさない。
いつもこうやして、ヤトさんを自分の意のままに操ってきたようです。
そうそう、シャーリングさんに教わりましたが、この国で私兵を持つのは国王の許可が必要です。ただ獣人たちを私兵にして、報告を忘れたと後日に回したとしても罰金くらいにしか罪は問われないそうです。
まあ、今回のように集めた私兵が犯罪を犯した場合は別ですが。
ローベルハイム公爵はヤトさんが捕まり取り調べ中に、薬入りの紅茶を飲まないことで直ぐに亡くなると踏んでいた。全ての罪を死んだヤトさんに押し付けるつもりだった。ひどい人たちですね!
「ヤト……平民の貴公を取り立てた、わたくしへの恩を忘れたと言うのですか?
のうのうとこの様な場所に顔を晒し意見を述べるなんて、この痴れ者が!」
ビクトリアさんが口許を隠していた雅な扇をへし折り、ヤトさんの足元に投げつけた。
二人ともヤトさんに罪を被せようと必死ですね。
「由緒正しい公爵家の人々は見苦しいな……毎日彼に珍しい紅茶と偽って心臓の薬を飲ませていたことも解ってるんだよ?」
獣人騎士団を代表してタスクさんが証言台に立った。タスクさんに促され元公爵家で働いていた使用人数名が紅茶を淹れる公爵と飲むタスクさんを見たと証言した。心臓の薬を扱っていた商人からの注文書を突きつけた。王宮医師がヤトさんの診断結果と病状を説明した。
公爵が罪の隠蔽に家令を殺そうとした事実に聴取席がざわついています。
「違う!これは……そうだっ。獣人騎士団の捏造だっ!」
「そうよ!捏造ですわ」
「捏造ね?まだ……証人は居るんだけどねー」
タスクさんはへらりと笑うと青白い顔の騎士を証言台に連れて来ました。
顔に怪我をしている彼は第二騎士団団長のスミスさんと言うそうです。
国王直属の第一騎士団から特別な聴取を受けたスミスさんは、公爵から賄賂を受け取る見返りに北の山に物資を運ぶ仕事を請け負っていたこと。
町で獣人が嫌われるようにわざと犯罪を犯させ、第二騎士団に捕縛させる計画を暴露した。
第二騎士団は捕縛数が増えて評価が上がり、ローベルハイム公爵も獣人を追い出そうとする反獣人派を増やすことが出来て一石二鳥を狙ったようです。
本物に早くニセ騎士団を捕縛出来て良かったです。
次々に罪が明るみになり、顔を歪める公爵。真っ赤な顔で奇声をあげるビクトリアさん。
ここまでの、罪状を数えたらキリがなさそうですね?
仕事を斡旋すると獣人を騙したこと。
不当な魔石採掘。ニセ獣人騎士団を王宮の奥、正妃様のお部屋に不法侵入させたこと。そして、シリウス誘拐未遂。それにヤトさん殺人未遂……あとは計画の段階だけど罪に問われるでしょう。
マルセルさんの時と違い、公爵は今度は逃げられません。ローベルハイム公爵家は終わりですね。
「…ヴィヴィアン大丈夫ですか?」
私の肩を抱き、旦那さまが心配そうに声をかけてくれました。
「大丈夫です」
きっと中身のお姉さんなら、胸に迫るものがあたのかも知れませんが……私にとってはローベルハイム公爵と夫人は初め会う人、なんの情も沸きませんよ。
ただ、旦那さまと別れてマルセルさんと結婚させようとしたり、シリウスを誘拐しようとした非常識な人枠ですから!
ぶつぶつ囁いていた公爵は、ふっと気づいたように傍聴席に座る私を見た。そして、安心したように笑った。
ん?なんですか?嫌な予感しかしませんよ。
「そこにいたのかヴィヴィアンっ!我が愛しい娘」
ローベルハイム公爵、芝居かかった大声で私に話かけてきてますよ?いきなりどーしたんですか?
「え?ええ!」
「いくら国王の命令だとして国母に成るため王家に捧げた8年間を蔑ろにされた。
目に入れても痛くない我が愛しい娘が、毛嫌いする獣人に嫁ぎ、辛酸を舐め記憶を無くした。そんなヴィヴィアンが不憫でならなかった。無くした記憶を呼びさますため我が家に帰るのが一番だと思ったのだが、シオン・マクガイヤが娘を洗脳し離さない。だから、今回の事件を起こした。獣人騎士団に対抗するには獣人騎士団しかいない。私は、ただ孫と娘を保護しようとしただけなんだ」
さも良い父親の顔で、涙をこぼし聴取に語りかける公爵の変わり身の速さに驚きます。
「……そう来ましたか」
忌々しそうに旦那さまが舌打ちしました。
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