30 / 32
第30話 見回り
しおりを挟む子どもたちの健康診断を行ったり、孤児院の先生たちに子どもたちの様子を伺ったりするなど、一通りするべきことを終えた後。
「セレフィア様。もしよろしければ、お昼ご飯をご一緒にどうですか?」
「いいですね。ちょうどお腹が空いてきたので、子どもたちと食べましょう。お手伝いしますよ」
ルーミさんの提案で、わたしは昼食作りの手伝いをすることになった。厨房に立つのは久しぶりだ。
(そういえば……シルヴァード様に、手料理をふるまうと約束をしていましたね。あれは、いつにしましょうか……)
エプロンを付けながら考える。シルヴァード様とあのような約束をしたものの、本格的な料理は作れないので簡単なお菓子を作ろうかと思いつつ、実際に作れてはいない。
準備を整えていると、廊下の方が何やら騒がしいことに気が付いた。わたしが気にしていると、孤児院の厨房を管理している料理長が声をかけてくれた。
「騎士様が見回りに来てくださったのだろうね。子どもらは騎士様が大好きだから。大きくなったら騎士様になりたいって言ってる子も多いんだよ」
俺にも、騎士になりたいって言ってた時期があったなぁ、と料理長は呟いた。確かに、騎士という仕事は皆の憧れである。実際は十分な魔力の量と運動神経など沢山の技術が必要になってくるので、騎士になれる人は少ない。
何をすればいいか聞き、外に置かれているという野菜を取りに行く。大きな大根を持ち上げようとすると、突然背後から抱きしめられた。突然のことすぎて、悲鳴が出る。
子どもたちではない。わたしよりも大きい体の人だ。少なくとも、わたしに害を加えようとする人ではないことは分かる。逃れようと体を動かすが、ちっとも動かせない。この人は、とても強い力を持っているようだ。
「セレフィア……」
「ひゃあ!」
今度は、突然耳元で囁かれた。吐息のような声で、全身に奇妙な感覚が走る。体から力が抜けて座り込みそうになったが、必死で足に力を込めた。
「し、シルヴァード様……ですか?」
「そうだよ。セレフィア、可愛い声。もっと聞きたいな」
顔が熱くなる。とにかく恥ずかしい。シルヴァード様に耳を撫でられて、また変な声が出そうになるのを必死で抑えた。
「シルヴァード様。わたしはこれからお料理のお手伝いをしますので、離していただけますか?」
「ええ……」
平静を装いながら離れてほしいと言うと、とても不満そうな声が返ってきた。しかし、わたしも引くわけにはいかない。誰かに見られてしまっては大変だ。
「お願いです、シルヴァード様」
「……じゃあ、また別の日に、セレフィアを抱きしめる」
(対価としてはいかがなものでしょうか……。わたしたちは、抱きしめ合う関係でもありませんし……)
シルヴァード様との婚約の話を受けなかった場合は、とふと考えてしまい、もっと顔が熱くなってきた。彼にわたしの熱が伝わってしまうのかもしれないと思うほどに熱い。
何度か彼にお願いしていると、ようやく離れてもらえた。大きく息をしながら彼と距離をとろうと動くが、何故か彼との距離は近づく。どうやらわたしが離れた二倍分彼が近づいているようだ。
「あ、あの! わたしは、そちらの野菜たちを運ばないといけないのです!」
「セレフィア、料理をするの?」
「はい。お手伝いになりますけれど……」
手を掴まれてそれ以上動けなくなっていると、シルヴァード様は首を傾げた。彼は変わらずフードを被っているが、黒髪が覗いて見える。
「僕も食べる。セレフィアの作るごはんは僕だけが食べたい」
「シルヴァード様はお忙しいのではないのですか?」
「セレフィア以上に大事なことはないよ」
彼は握っているわたしの手に指を絡めながらそう言った。フードの下で、彼はにこにこと笑っているのだろうか。
……彼の顔が見えなくてよかった。もし見えていたら、わたしは恥ずかしくて耐え切れなかったかもしれなかったから。
218
あなたにおすすめの小説
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる