幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫

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第31話 食事の準備

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 厨房に戻る時も、シルヴァード様はわたしについてきた。彼に荷物持ちのような扱いをさせてしまうのは申し訳がなかったが、彼がどうしてもと譲らなかったので、彼にたくさんの野菜を持たせてしまっている。

「あれ、騎士様。どうされたのですか?」
「セレフィアの見守り。君達の邪魔はしないから、安心してね」

 料理長はシルヴァード様を一瞥し、すぐに料理に目を戻した。フードを被っている彼の正体は誰にも知られていないようなので、騒ぎになることはない。彼はじっとわたしの手元を見ていたが、かなりの至近距離で落ち着かなかったので、料理が完成するまでは外で待っていてくださいと何度も何度もお願いした。十回目くらいで、彼が折れてくれた。



 完成した料理を食事所に運ぶ。わたしが手伝えたのは少しだけだったけれど、子どもたちはとても喜んでくれた。子どもたちが座る机より少し離れた場所で、シルヴァード様とラティウス様、そして他の騎士様たちが座っている。

「セレフィア!」

 シルヴァード様はわたしの姿を見るなり立ち上がって、わたしの元へ歩み寄ってきた。とりあえず料理を子どもたちの机の上に並べて、彼に向き合う。

「シル……騎士様。これからお料理をお持ちしますね」
「セレフィアも一緒に食べよう。僕、セレフィアと一緒に食べたい。セレフィアと一緒に食べたら、初めてごはんが美味しいって思えたんだ」

 彼はわたしの手をそっと持ち上げて、少し力を込める。そう言ってもらえることはとても嬉しい。しかし、わたしは料理を食べるのではなく提供するお手伝いがしたいのだけれど……。

 ちらり、とラティウス様に目を向ける。わたしの視線に気が付いたのか、彼はこちらを見て、両手を合わせる仕草をした。彼の目が、「シルヴァードが迷惑をかけてすみません」と言っている気がする。

(もっと詳しい話を聞きたいですが……早く返事をしないといけませんね)

 わたしは笑みを浮かべ、彼に握られている手に力を込めた。彼の手が、一瞬だけ震える。

「分かりました。一緒にごはんを食べましょう。あなたには、美味しく食事をしてもらいたいですから」
「ありがとう、セレフィア」

 シルヴァード様はそう言って両手を広げた。何をされるのか予想がついたので、わたしは早めに彼から距離をとって頭を下げる。こんな、子どもたちの目がある場所で抱きしめられるのは、流石に恥ずかしい。騎士様にも見られているし、シルヴァード様にとってもあまりよくないだろう。

「ですが、まずは準備が先です。ごめんなさい、少し待っていただけますか?」
「……うん。あ、僕も手伝うよ」

 彼の申し出を断ることはできなかった。




 すべての料理を運び終えた時、料理長に呼び止められた。

「セレフィア様。よければこれ、騎士様とご一緒にどうぞ。家の後ろを少し進むと、景色の良い花畑があります。そちらでピクニックでもいかがですか?」
「よろしいのですか? ありがとうございます、とても嬉しいです」

 料理長はとても優しい人だ。時々子どもたちに手作りお菓子を先生たちに内緒であげて、怒られているらしい。彼からお弁当箱を受け取ると、彼はにかりと明るい笑みを浮かべた。つられて笑みが零れてしまうような笑顔。

「感謝する」

 わたしの隣に立っていたシルヴァード様は、小さく頭を下げた。料理長はにこにこ笑いながら、「セレフィア様と仲良くな、騎士様」と言った。これは多分、シルヴァード様がわたしの恋人かなにかと勘違いされている。訂正の必要性を感じられなかったので、曖昧に微笑むだけにしておいた。

「ラティウス様に、場所を移動することをお伝えした方がよろしいでしょうか? シルヴァード様は、お仕事中ではありませんか」
「ラティウスのことなんて気にしないで。それに、これは僕の仕事じゃないから」

(シルヴァード様のお仕事ではない……?)

 疑問に感じたが、シルヴァード様が自然な流れでわたしの腰を抱き寄せたので、それ以上考えることはできなかった。
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