猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰

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一定の条件

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   ザムマギウムと言うことで 新しく付けるのではなく、人間のときと同じ名前を使う事になった。
その方法と言うのは、こっちで言う『あいうえお』の音を一つずつ言って、当てはまるモノがあったら教えると言うものだった。


   場所をマーカスの勉強部屋に移すと、マーカスがカードのような物を私の前に並べる。
「じゃあ、始めるよ」
コクリと頷いて返事をする。
マーカスがカードを一枚一枚、私に見せながら発音する。
しかし、何とも時間が掛かる方法だ。私の名前は二文字だけど、もしシャーロットとか六文字もあったらお互いに大変なのに。内心そんな事を思いながらも付き合う。


   こうして机に並べられた二枚のカードの順番を動かして"リサ"と自分の名前を作る。
「……リサで良いのかな?」
『にゃあ』(そうだよ)
三十分掛かって私の名前がリサだと伝わった。
「へー、リサか可愛らしい名前だね」
『にゃ~』(ありがとう)
ニッコリと笑うと、ご主人様が大きな手で、ワシャワシャと私の頭を撫でる。
「僕はマーカスよろしくね、リサ」
さっそく私の名前を呼んで マーカスがご主人様と同じように撫でまくる。
「それじゃあ 戻ろう」
ご主人様が立ち上がると、
「リサ。おいで」
ご主人様がそう言って両手を広げる。
『にゃ~ん』(は~い)
名前を呼んでもらえるのって、こんなに嬉しいんだ。
ぴょんとその胸に飛び込んだが、そこでハタと気付いた。体を捻ってカードが置いてある机に飛び下りる。
「どうした?」
肝心のご主人様の名前を知らない。カードの山をご主人様に向かって鼻を使って押しやる。
「リサ?」
「このガードが気に入ったの?」
違う、違うと、首を横に振る。こんな時 喋れないのがもどかしい。
ご主人様とマーカスが互いに顔を見合わせて首を捻る。
自分の名前のカードを前肢でトントントンと叩いてから、自分の胸に前肢を押し付ける。それから前肢でトントンとカードを叩いてから、ご主人様に向かって片肢を向ける。
『にゃにゃ!』(名前を教えて!)
マーカスがハッとしたように私を見た。ご主人様はピンと来てないようだけど、マーカスは気付いてくれたようだ。
「父上、大事な事を忘れているよ」
「何だい」
「自分の名前を言ってないよ」
コクコクと頷く。
「ああそうだったな」
微笑みながらご主人様が私を抱き上げると片手でカードを並べる。
「私の名前は、リチャードだ」
素敵な名前だ。品があるし、似合ってる。

   こうして名前の件も一件落着して、前世と同じ"リサ"で生きて行く事になった。
別の人生を生きると思っていたのに、同じ名前で呼ばれると 続きの人生みたいだ。

****

   リチャードは今回の件でリサともっと親しくなりたい。その気持ちが強くなった。
名前だけでなく、年齢や家族。好きな食べ物や どんな子供時代を過ごしたのか。どんな事も知りたい。しかし、リサを人間にすると言っても一筋縄にはいかない。
ザブマギウムと言っても今の姿は猫。
「………」
トントンと組んだ腕を指で叩きながら 今迄のリサの行動を思い返してみる。
(人間の姿に変わったのは……)
一回目は私が着替えいるとき。
二回目はお風呂場……。
となれば答えは一つ。私の性的魅力に誘惑されて人間の姿になったんだ。つまり、裸を見せればいい。ニヤリと笑うと計画を練った。


****

   ベッドでうつ伏せになってご主人様を待っていた。
(何時になったら来るんだろう)
私の寝床が決まる迄は ご主人様と同じベッドを使う事になっている。ふわ~と欠伸をすると前肢を投げだしてお尻を持ち上げて伸びをする。

カチャ

ドアの開く音に出迎えようと座り直した。しかし、首が四十五度傾く。ご主人様が来るには来たが……。
お風呂に行ったはずなのにパジャマじゃ無くて おめかししている。
(この前みたいに、パーティーがあるのかな?)
何時ものラフな格好と違って やっぱりスーツを着ると魅力がアップする。広い肩、厚い胸板、引き締まったお腹。そして、スラリと伸びた足。
(足、長っ!)
本当に俳優みたいにキラキラしている。そんな人を一人占め出来るなんて……。
眼福だと喜んで見ていたが、ご主人様がドアに鍵を掛けた。ガチャッと言う音にドキリとする。
何で鍵をかけるの? 何で? 

   そわそわと落ち着かない気持ちなのに、その中に何かを待っている気持ちも混じって、何か不思議な気持ちになる。
ちょこんと香箱座りで何をする気なのかとご主人様を興味津々で見る。すると、着替えたはずなのにシャツのボタンを一つずつ外して脱ぎだした。謎の行動だ。

   意図が分からす眉間にシワを寄せた。そんな私の目の前でシャツのボタンを全部外すとシャツを外へ引っ張り出した。
(他のシャツに着替えるのかな?)
その為とはいえ 上半身裸になるのかと思うと想像しただけで顔が熱くなる。確かに猫だけど思考は人間だ。そう言うのは困る。
見ないようにそっぽを向く。
それなのに音を拾おうと耳がピンと立つ。すると、何かを放り投げた音がして 猫の本能で目で追うと
ご主人様のシャツが弧を描く。
パサリと床に落ちたシャツに釘付けになる。
(と言う事は……)
恐る恐る視線を向けると上半身裸のご主人様が立っていた。
これってまるで私に見せつけているみたい。
(私猫だし違うよね)

   チラ見した事はあったが、ここまで間近で見たのは初めてだ。
ゴクリと唾を飲み込む。触ってみたいと言う欲望が頭をもたげてくる。それをダメダメと首を振って追い払う。男好きだと思われる。
だけど、その一挙手一投足に目が離せない。
我慢している私をもっと誘惑しようとしているかのように、ご主人様が カチャカチャと音をさせてベルトを外す。そしてその手がファスナーに掛かる。
(ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待って!)
何する気なの? 私が居るのに目の前で脱ぐの?

   ファスナーが下ろされてグレーの下着で作られた、逆三角地帯が出来る。
心臓がドキドキする。
頭に血が上ってくらくらする。それを押し下げたら風呂場で見たアレが出てくる。 
目を逸らしたいのに魔法に掛かったみたいに動けない。
見たいのか、見たくないのか、自分でも分からない。
『はぁ、はぁ』
荒い息遣いにハッとした。私、興奮している。何て事なの。
火照った頬に両手を当てて俯く。これ以上、続けられたらどうなるか分からない。
初めて感じる性的衝動に、襲ってしまいたいのか、襲って欲しいのか、欲望に飲み込まれそうだ。
どうしよう……。どうしたらいいの?   このまま流れたに身を任せる?   でも……。相手はご主人様、少しくらいなら……。
気持ちが揺らぐ。どうしよう……。
「よし、これで話が出来る」
(えっ!?)
ご主人様の一言に、冷や水を浴びせられたみたいに現実に戻された。
話?……ただの着替えだった……。
まったく、穴があったら入りたい。変な事を考えた自分が恥ずかしい。そう思っていると、ご主人様がシーツを掛けた。と思ったらグルグル巻きにされた。

   そしてそのままご主人様が、自分の膝の上に抱っこした。
(あれ?)
見上げていたはずなのに今は視線が合う。何時もと感覚が違う。どうして猫目線じゃないの? どうなっているの? 急に大きくなったの?   訳が分からずキョロキョロしているとご主人様が私の両手を掴む。
「リサ、驚かないで欲しい事がある」
「うん」
ゴクリと喉を鳴らして返事をする。何かとても大きな事が私の知らないところで起きている。それだけは分かる。何を言うのかと身構えていると、ふっとご主人様が笑みを浮かべた。
「気付いていないかも知れないけど 、今 人間の姿になっているんだよ」
「えっ?………」
人間? ハテと首を傾げる。本当に、本当に、人間に戻れたの?
そう言われても信じられない。
だけど、ご主人様の真剣な目を見ると本当だと思える。期待と 不安と興奮が心臓を激しく叩く。

   「信じられないなら確かめたらいい」
そう言うと ご主人様の視線が下に移る。釣られて自分も下を見ると、見慣れた人間の胸がそこにあった。
(これ……私の胸だ)
これはどういう状態なの?
確かめようとシーツから腕を引っ張り出す。その腕は毛が無くてつるつるだ。ぐーぱー、するとそのまま手も動く。握っている感覚がある。クルクルと手をひっくり返しながらよく見る。私の手だ。
その証拠に人差し指に小四のときカッターで切った傷跡がある。
新しい体じゃ無くて元の体だ。
やはり、召喚されたんだ。
自分の顔をペタペタ触れてみる。目も耳も唇も人間のモノだ。
これは夢じゃない。余りにもリアルだもの。
でも、どう言う事? ほんの数分前は確かに猫だった。
何故か知らないが人間の体に戻ってる。ご主人様がシャツを拾い上げると ふわりと私の肩に掛けた。
掛けられたシャツからは ご主人様
の匂いがする。
袖を通すと指先まで隠れる。これが俗にいう彼シャツ。
「ふふっ」
嬉し恥ずかし、そんな気分になる。


「じゃあ、私、人間になったんですね?」
そう聞くと、そうだと頷いた。
「最初に、言っておきたいのは、
ザブマギウムは一定の条件を満たすと人間になれるんだ」
一定の条件? 時間とか? アイテムとか? 何だろう……クエストクリアとか?
ちょっと思いつかない。何だろうと、左手で支えた右手を頬に押し付けて首を左右に振って考えて、いると、リチャードが顔を近付けてきた。
その目がキラリと光る。
(なっ、なっ、何?)
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