猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰

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世界動物図鑑

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    何がどうなったのか分からない
が 転生前の姿に戻った。 
どういう事なのかとご主人様を見ると笑っている。それも口角を思い切り上がて。こんな風に笑うのは初めてだ。何だか嫌な予感がする。何を言う気なの?
笑えば笑うほど怖くなる。本能的に仰け反った。
「最初に言っておきたいのは、これは一時の事で またザブマギウムに戻る」
「えっ?」
また猫の姿に戻っちゃうの? 
だったら、どうして期待させるようなことをしたの? ずっと人間でいられると思ったのに。
持ち上げてから 下ろすなんて残酷過ぎる。

   拒絶するように 腕組みしてご主人様を睨みつける。
人をからかうにも ほどがある。
「どうして、こんなことをするんですか?」
そう言うとご主人様が目を伏せた。
「話したかったから……」
「っ」 
「リサの事を もっと知りたいと言ったら困るかい?」
「くっ」 
伏せていた目が私に向かって開けられる。その私の機嫌を伺うような、不安そうな瞳で見られたら完全にノックアウト。
 (何でも聞いてください!)

「それに、人間の顔も見たかったし」
そう言ってじっくり見ようと顔を近づけてくる。ちっ、近い!
目を逸らすしては駄目だと思っても、ドキドキしてそっぽを向いてしまう。
「可愛いね」
「ううっ」 
褒められ慣れていない 私には、耐えられない。自分でも分かるぐらい頬が熱い。
「熟れたトマトみたいだ」
そう言うと私の髪を一房 掴んで口づけした。漫画で見たことある。
実際やられると ヒロインと同じく胸がキュンとする。 さらに火照った頬を冷まそうパタパタと手で扇ぐ。

   「しっ、知りたい事があると言ってませんでしたか?」
「ああ そうだった」
「何が知りたいんですか?」
「そうだね……本当の年齢とか、家族のこととか、色々。リサの事なら全部」
私に微笑みかける顔に見とれていたいが、コホンと咳払いすると 分かりましたと自分の話をした。
「今年で24歳です」
「えっ!?  私の三つしか 違わないのか?」
「えっ?  ご主人様は二十七歳ですか?」
ゆっくりと頷く ご主人様を見て驚くと同時に、こっちの世界は結婚が早いんだと思った。 
(価値観の違う世界に来たんだ)

***

  高くもなく、低くもない リサの声音は耳に心地よくて ずっと聞いていたい。
「それじゃあ 貴族はいないのかい?」
「そうですね…… 居ることは居ますけど、こっちで言う 貴族は居ないです。でも、その代わりになる人たちはいます」
知れば知るほど不思議な世界だ。
話は続いているが、どうしてもリサの胸の谷間に目が行く。見るつもりはなくても身長差があるから しかない。これではミイラ取りがミイラだ。誘惑したはずが誘惑されている。
「きゃっ!」
リサの驚いた声で自分が何をしたのが自覚した。無意識に太ももの上に乗せていた。柔らかく、暖かく、程よい重さ。
「済まない。猫の時の癖で」
「えっ? あっ……ああ……」
見開かれた瞳。上気した頬。これだけの事で驚くなんて……。
(初そうだ)
「そうだ。好き嫌いはないのかい?」
「そうですねぇ……」
顎を指で叩きながら考え出した。(私から下りようとは しないんだね)
更に 近くなった胸の谷間を見下ろす。






「それで私は 営業……物売り……の……あっ」
突然の刺激に漏れた声にハッとして、胸を見るとご主人様が 後ろからシャツ越しに胸を揉んでいた。逃げるべきのに、止めさせるべきなのに、体が反応してしまう。
親指と人差し指の間に乳首が挟まれた状態で揉まれている。
それが繰り返されるたびにビリビリとしたものが胸を使って 密やかな場所に集まる。 硬くなった乳首
の先をトントンと指でリズミカに叩かれると、ぴったりと閉じていたはずの太ももが緩んでしまう。
「あっ、はぁ~ん」
何処から聞こえてくる いやらしい声が自分の声だと気づいて慌てて口を塞ぐ。自分が こんな声を出すとは思わなかった。

   かあーっと顔が赤くなる。ううっ、どうして猫じゃないのよ。
(猫だったら、顔が毛むくじゃらで赤くなっても分からないのに)
恥ずかしさに逃げようとした途端、目の前がシーツに変わる。
えっ? 驚いて周りを見るとシーツでぐるりと囲まれていた。
あれ? 体が小さくなっている? 手を見ると猫の前肢に戻っている。どうなっているの? 理由は分からない。時間切れ?
「あれ? 元に戻っちゃったね」
頭上からの声に上を見るとご主人様が覘き込んでいた。
(良かった……)
「続きは また今度だね」
その言葉に 次があるんだと喜んだ。そんな自分に気付いて恥ずかしい。だって、話しより別の事に
期待しているから。


**

  「まだ勉強中かな?」
ドアの隙間に前肢を押し込んで開けると、マーカスは分厚い本を熱心に読んでいた。
部屋の中は白で統一されている。キョロキョロと部屋の中を探索してみたが、子供の屋と言うより私設の図書館だ。
おもちゃの類は無い。本ばかり。
ベッドな無ければ、そう勘違いしてもおかしくない。
(マーカスって勉強が好きなんだ……)
私が入ってきたのに気づいてない。真剣な表情に、難しい本を読んでいるのか気になって、机の上にひょいと飛び乗る。すると、私に気付いたマーカスが私を自分の膝の上に乗せた。
「リサ。遊びに来たの?」
『にゃあ』(そうだよ)
本は本でも図鑑だった。子供って、こういうの好きだよね。私も花とか昆虫の図鑑を買って貰ったものだ。
「そうだ。僕が大好きな本、『世界動物図鑑』に リサの事が書いてあるんだ。このページを見て」
そう言って読んでいた本を机の立てて指を指した。
「これがザブマギウムだよ」
言われるがまま図鑑を覘き込む。
見るには見たが、見た事の無い文字にお手上げだ。
何と書いてあるか分からないが、挿し絵は分かる。
「ドミニク・トラウトって言う博士が書いたんだ」
自分のことのように自慢げに言うマーカスの姿はヒーローに憧れる子供だ。

    だけど……ザブマギウムは、どう見ても猫だ。つまり奇跡の猫と言うより、希少種の猫で良いのかな? そう思って マーカスを見た時には本に没頭した。
そんなマーカスを残して何の気なしに他の図鑑も置いてあったので見ていると、植物図鑑を発見した。前脚と鼻を使ってあの酸っぱい木の実を探す。

見つけた。
絵なのに自然と唾液が溜まる。普通に食べていたが、食用だったんだろうか?気になってマーカスの腕を前肢で押して気を引く。
「何?」
酸っぱい実の絵を前肢でトントンと叩く。
「ああ、ケッチャル。森に自生しているよ」
それは知っていると頷くと、説明文を読んで欲しいと文字のところを前肢で示す。すると、マーカスが不思議そうに私を見つめる。どんな物か聞くのはおかしい事だろうか? 首を傾げていると、ハッとしたように私を見つめ直す。
「もしかしてリサは、この木の実食べたの?」
それが主食だった。
そうだとコクコクと頷く。
「えー! 酸っぱいんだよ」
余程驚いのか声が裏返ってる。身を持って知っている。
(そんな事言われても……)
この感じからしてレモンを丸かじりしている相手に向ける態度だ。
生で食べる人は居ないらしい。
それほど酸っぱくて有名なんだ。
「普通はジャムとかパイにして食べるんだよ。火を通すと甘くなるから……」
よく食べられたねと同情されてしまった。調理法からすると林檎の紅玉のような木の実らしい。

(そっか……)
ガクンと項垂れる。すると、慰めるように肩をトントンとマーカスが叩いた。
「こっちのヒヨルールを食べれば良かったのに。バナナみたいに甘くて美味しんだから」
そう言われて図鑑を見た。
それは、そのグロい見た目で敬遠していた木の実だった。だけど、仕方ない。白くてブヨブヨしていて、キノコみたいな見た目だ。
あの木の実を食べようとは思わない。最初に食べた人を尊敬する。




   ドミニクはインク壺にペンを付けるとカリカリとペンを走らせる。
「新・世界動物図鑑」を執筆している最中だ。
私の本業は研究者。発明などに時間を取られるより、こう言う書き物をしている方が有意義だ。
コンコン
ところが、ドアをノックする音にペンが止まる。
(筆が乘っていたのに……)
しかし、無視することも出来ない。つまらない理由でノックをしたら殴られると分かっている。それでもゲイルがノックするなら、そう言う事だ。
「入れ」
「ドミニク様。報告があります」
私の執筆の邪魔をするほどの内容でないなら、どうなるか分かるだろうなとギロリとゲイルを睨みつける。しかし、ゲイルはビックとしたが目を逸らさなかった。
(ほう……)
これは余程の内容のようだ。ドミニクはペンを置くと机の上に組んだ手を乗せた。
「言ってみろ」
「バンドールの家ですがペットを飼ったようです。ですが、 八百屋の主人が言うには ある日突然やってきたそうです」
ペット? リチャードが産まれる前から、あの家のことは知っている。私の知る限りバンドール家では今迄ペットを飼ったことがない。知り合いに頼まれたなら分かるが、自らペットを……。
「種類は何だ。どんな見た目をしている?」
「種類は猫。毛の色は白。目は黒。またはこげ茶。推定年齢は二歳くらいです」
そう言うとゲイルが懐から紐で括った丸めた紙を差し出す。
拙い絵で挿し絵が描かれている。
猫か…… 。もしかしたら ザブマギウム かもしれない。
それなら飼うのは解る。あの家は それを目的として森を管理しているから。

   しかし、子供が幼いから本物の猫を飼ったのかもしれない。
う~ん。
紙を丸めるとポンポンと手に打ち付ける。無視するには怪しい情報だ。本物か、どうか確かめる方法は幾つかあるが、見せてくれと言って見せてくれる男じゃない。外部の人間が確かめられる方法は一つ。瞳の反射の有無を確かめること。私自ら赴きたいが、要注意人物に特定されているから、そうもいかない。


   ゲイルは考え事を始めたドミニクを見ながら出て行っていいかどうか悩んでいた。
出て行ったら行ったで怒るし、居たら居たで怒鳴られる。要は気分次第だ。
 (だけど、怒鳴られるのは好きじゃない)
つま先を見ながら、どうやったら
穏便に出て行けるか方法を考えていた。
「ゲイル」
「はい」
ドミニクの声に顔をあげると、
「ザブマギウムか調べて来い」
珍しく怒鳴らずに 指示を出した。
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