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映像
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しおりを挟む『わっ…わ…………ぁっぶ…ぇ…ほ……ケガす………ほどけ…、今なら……ずら…済ましてやるから……………』
パソコンから自分の声が漏れてきた瞬間、葉人は思わず耳を塞いで固く目を瞑る。
それでもどこかから、あの時の自分の声が聞こえて来るような気がしてしゃがみこんで息を止めた。
「…っ……!」
耳の中でこだまする脈拍を、すがるように数え続けていると、光彦に肩を叩かれて顔を上げた。
「もう終わったよ」
思わず眼鏡の奥の瞳に、軽蔑や、それに近いものがないか探ろうとした葉人の頭を、光彦は優しく撫でた。
「見せたくなんか…なかったよな」
「う…ぅうん…そんなこと…」
ないとはっきり言えない自分がいることに気づいていた。
光彦はパソコンからUSBメモリを抜き取ると、苦い顔をして葉人に向き直る。
「何か…正体掴めそうなこと…ありました?」
動機の激しい胸を押さえながら尋ねたが、光彦は申し訳なさそうに首を振った。
「そう…ですか……」
葉人に送られてきた映像を見たら、何かフェネクスの手がかりが掴めるんじゃないか…と言う光彦の提案で、捨てるに捨てられず、どうしようもないまま持ち歩いていたUSBメモリを見てみることにしたが、結果は何も得られず、ただ嫌な記憶を思い起こすだけとなった。
「なにを…考えてるんでしょうか……オレにあんなことして、映像にまで撮って…」
パソコンの花の壁紙を睨み付けながら言う葉人に、光彦は言いにくそうに言葉をかけた。
「別人だ」
「…え?」
「違うかったら、すまんな。小田切は、…教室でのやつと映像を撮った奴が同じだと思ってないか?」
言われてドキリとした。
手振れで始まった映像の事を思い出して、すぅ…と血の気が引いた。
なぜその事に気づかなかったのか、頭の中がぐわんぐわんと音をたて始める。
「…カメラを用意して、小田切にあんなことをしたんじゃない。襲われているのを見て、それを撮影したのがフェネクスだ」
葉人の様子をちらりと見て、迷った後に言葉を続ける。
「撮り方からしたら…教室の奴はフェネクスの事は知らないと思う。仲間なら、堂々と撮ればいいんだからな」
頭の中の音が、一際大きく鳴ったような気がした。
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