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しおりを挟むひんやりとした気持ちいい冷たさが額に当てられたのに気づいて目を開けた。
状況が分からず、手を伸ばして額に手をやると、濡れたタオルに触れる。
「大丈夫か?」
心配そうに覗き込まれ、慌てて体を起こそうとすると、光彦は首を振ってもう少し寝ているようにと告げた。
「…オレ、どうしたんでしょうか…」
予想はついていたが、光彦に尋ねかける。
「突然倒れて…かなり驚いた」
「…すみません…なんか……やっぱりあのことは辛くて……」
あの静寂と闇の教室で初めて自分に行われた事を思い出して、葉人は小さく震えた。
「嫌なことを思い出させたな…」
「……起こってしまったことに怯えても、しかたないことなのは分かってるんですが…」
「もし、あいつらが誰かわかったら…小田切はどうする?」
その問いかけに、葉人の思考は止まってしまった。
何か返事を返さなくては…と唇を動かしたが、声は出てこない。
「その………そいつらに対して、バカなことを考えるんじゃないかと…思って」
言いにくそうに言う光彦に、首を振って見せる。
「オレは………………謝って……謝ってもらいたいです………あのことが……始まりだったから…」
あの日教室でのことがなければ、脅されることもなかった。
あのことがなければ、平穏でいられた。
「オレの体を…元には……戻せないです。母に知られたくないから、訴えたりも…できないです。だから…」
「謝って欲しい?」
うなずいて、流れた涙をぬぐった。
「謝って…もう関わらないで欲しい……」
どこか宙を見つめながら、葉人ははっきりと言った。
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