月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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三人で囲む食卓

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そのまま黙っていると少しの焦げ臭さと同時に、妹さんが慌ててこちらにやって来てフライ返しを棚から出してハンバーグをひっくり返した。
「料理で火を使う時は危ないですから、傍を離れたりしないで下さい」
「ごめん。でも先に話しかけたのは妹さんの方だと思うけど}
僕らは言い合いをしながら、焼き上がったハンバーグを皿に乗せていく。
そんな様子を、いつのまにか後ろから見ていた彼女が笑って見ていた。
「二人ともすっかり仲良くなってくれて良かったよ」
「仲良く無い!」
彼女の言葉に、即座に妹さんが言い返す。
それを横目に見ながら、僕は見てたならもっと早く助けてくれてもいいのにという非難を込めて彼女に聞く。
「それで君はいつから見ていたの?」
さあ、いつからでしょう? そんな事よりお昼にしない?」
そう言って、僕の質問ははぐらかされてしまった。
彼女の表情からは何も読み取れず、僕は諦めて彼女の言う通りお昼の準備を手伝う。
三人で昼食を食べている間は、主に彼女が話題を振って僕と妹さんが答える感じで進んでいった。
結局食事の間に妹さんの言っていた事の意味を聞く事は出来なかった。 
一つだけわかったのは、妹さんが僕を嫌っている事とその理由がさっきの事が関係していることだけだった。
食後に食器を台所に下げて、洗い物を手伝おうとしたら食洗機に入れるだけだから平気という事で断られてしまった。
少し休んでから、昨日と同じように二階の彼女の部屋で一緒にテスト勉強を始める。
教科書や課題を開くけど、妹さんの言っていた事が気になって、あまり集中出来ず頭の中に疑問が渦巻いては消えていく。
その答えを彼女に聞いてしまうと、今の日常が壊れてしまいそうな気がして言葉に出来ない。
「あまり課題が進んでないけど、何かわからない所でもある?」
さっきからあまり課題の進んでいない僕を見かねて声をかけてくれる彼女に、少し迷ってから気になっていた事を尋ねる事にした。
「わからないのは、課題じゃなくて、妹さんに嫌われているみたいだから何でかなって思って」
核心を聞くのが怖くて、当たらずも遠からず疑問を彼女に聞いてみる。
「そもそも何で嫌われているって思っているの?」
逆に彼女に理由を聞かれて、昼食を作っている時に姉と思って挨拶したら僕がキッチンで調理をしていた事を不審がられて嫌われた事を話す。
真面目な顏で僕の言い分を聞き終えた彼女は、一人で納得すると笑いだしてしまった。
急に笑いだした彼女を困ったように見ていると彼女は悪いと思ったのか、理由を教えてくれた。
「ごめんね。篁君がそんな風に気にしてくれると思ってなかったから」
僕は彼女が何を言いたいのか分からず、黙って聞いていると、懐かしむように出会った頃の事を話し始めた。
「ほら、初めて出会った頃って天邪鬼で捻くれていたから素直に悩み事を言ってくれるとは思わなくて、それに人にどう思われても興味無さそうだったのに少しずつ人に興味を持ってくれているのかなって」
そう言って笑う彼女の表情は、さっきまでとは違う穏やかな笑顔だった。
それとね、夏織の事はそんなに気にしなくても大丈夫だと思うよ、今日は面識の無い人が突然居て驚いただけだし、元々女子校に通っていて慣れてないだけだから何度も会ってるうちにお互いに慣れてくるって」
「それなら良いけど」
言ってから慣れる以前の問題で彼女の妹と今後もそんなに会う機会がないだろうからずっとこのままだろうと漠然と思った。
それからは夕方まで時折雑談を挟みながら、無事テスト範囲を終える事が出来た。
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