【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの

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壁ドン

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「武闘会が無事に終わりましたのはみなさんのおかげです。それでは乾杯」
「乾杯!」

 テーブルの長辺の端、いわゆるお誕生日席に座ったジョージ王太子がグラスを持ち上げると、それに合わせて生徒会のメンバーがグラスを突き上げた。
 今夜は食堂の個室で打ち上げだ。普段は先生たちの会食に使われているそうで少しインテリアがリッチな感じがする。
 それにしても、さすが、ゲームの世界。前世の飲み会と雰囲気は変わらない。ヴィオラはジュースを一口飲むと拍手した。ただ、前世と違うのはこの世界の飲酒年齢が低いこと。高等部のメンバーは当たり前のようにワインだ。なぜか、ビールはない。
 パリ、パリリ。
 ポテトチップスを上品に食べているのはジョセフィン。
 ポテトチップスは転生者のレシピの定番。ヴィオラがシェフにレシピを渡して作ってもらった。

「これ、困りますわ。やめられません。太ったら、ヴィオラのせいですわ」

 ジョセフィンが片手を頬につけた。その隙に給仕がポテトチップスが減った皿に追加を入れていく。

「ヴィオラのせいにできたらいいけど。我慢ができない自分のせいなんですよね」

 アネモネ様はつまんだポテトチップスとにらめっこしてから、結局、パクリと食べた。
 ヴィオラはもっと、お腹にたまりそうなお肉に狙いを定めた。ローストビーフのようなものが薔薇のように盛り付けられている。二、三枚まとめてフォークで刺すと、口に放り込む。

「お行儀が悪いですわよ」

 早速、ジョセフィンから注意される。

「ひょうだけは許ひて」

 口いっぱいに頬張ったまま、お願いすると、ジョセフィンはしぶしぶ、うなずいた。

「何だか、お腹がよく空くの」

 そう言うと、ブランがすり寄ってきた。

「ごめん、僕が魔力をもらってるからかも」
「ううん、気にしなくていいから。おかげで太る心配はないし」

 ジョセフィンが自分の従魔のマオルにたずねる。

「今の本当? それなら、今日、ちょっと、食べ過ぎても余分は魔力としてもらってくれます?」

 ジョセフィンの迫力にマオルはうんうんとうなずいた。
 それを確認して、ジョセフィンはまた、ポテトチップスに手を伸ばした。

「一度、私の家に遊びに来なさい。あなたが食べたこともないような料理をご馳走してあげる。……別にポテトチップスのお礼じゃないからね」

 ジョセフィンが誘ってくれた。少し顔が赤くなっているのが可愛い。ツンデレだ。

「ああ、幸せ」

 ヴィオラはつぶやいた。学校で友達と一緒に頑張って、終わったら、一緒に打ち上げして。それに友達が家に誘ってくれるなんて、初めて。母様が私にして欲しいと言っていた経験が何か、やっと、わかったような気がする。
 他のメンバーとも喋ろうかなと思って、まわりを見渡すと、ワインが足りていない? ちょうど、給仕の人もいないから、ちょっとお願いしに行こう。
 ヴィオラは部屋を出て、厨房にゆっくりと向かった。
 廊下に誰もいないなあと思っていたら、いきなり、後ろからぐいっと引っ張られた。そのまま、小部屋に押し込まれる。
 自分の実力に自信を持っているヴィオラは声も上げなかった。不届者なら背景を探ってから捕まえればいい。のんきにそんなことを考えた。
 押し込まれた部屋はテーブルクロスなどを置いているリネン部屋のようだ。

「ずいぶん、落ち着いているんだね」

 にこやかに言ったのはジョージ王太子だった。

「あ、あの、何かご用でしょうか」
「君と二人っきりになりたかったんだ」

 ドキッ。
 完璧な王子様からそんなこと言われるなんて。いや、こんなお子ちゃまに恋愛要素はないよね。

「武闘会の時、治癒してくれたんだろう。ありがとう」

 きょ、距離が近い。
 思わず、後ずさると、ジョージは近寄ってくる。
 一歩近寄られ、ヴィオラは一歩下がった。
 一歩、また、一歩。
 壁際に追い詰められる。
 ドン。
 ジョージ王太子がヴィオラの顔の横に手をついた。
 か、壁ドンだ。顔が近い。キラキラして見える。ファンなら気絶してしまいそう。

「ヴィオラ、ねえ、呼び捨てにしてもいい?」

 ひー。色気がすごい。何なの、この人。

「ひゃ、ひゃい」
「ヴィオラ」

 声もいいなんて、反則だ。

「私のこと、好き?」
「そ、尊敬しております」
「ふーん。それだけ?」

 ジョージは不満そうだ。

「お、お美しく、お強く、何もかも完璧で……」
「それなのにライルの方が上なんだね」

 え、だって、弟子だし。でも、弟子っていうのは内緒だし。

「あ、あの」
「ねえ、君のことが知りたいんだ」

 壁ドンしていない右手で王太子はヴィオラの髪を一房取って、もてあそんだ。
 お、乙女ゲーム過ぎる。どうしたらいい。
 ヴィオラが悩むと王太子がふっと笑った。色気のある笑いではなく、黒い笑い。

「君が何者か教えてもらおうか。誰の派閥だ。ライルを使って私を負かしてどうするつもりだった」

 ジョージ王太子の声から甘さは消えていた。
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