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第2章・七人の侍編
45・初陣(ういじん)
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10月の1日――午前7時。その戦いは始まった。香月の巡らしていたシステムから駅前経由の警報が響き渡っていた。袂別れした卜伝たちが助成に来るはずもない。
「急ぐぞ――!」
いつ寝ているのやら寝起きの早い巌流が叫ぶと、出てきたのは慌て顔の香月と眠そうなベルモット。
シュルケンは真っ先に向かっていた。ならば残りは巌流とベルモットが向かうしかない。しかし、香月もテントで待っているだけでは悔しさが募るだけだった。
「ユルエさんには――そのスマホにラルプログラムを同期しましたんで、情報があれば何でもいいです! 逐一私に教えてください!」
「おー。。。で、そのラリルレロがよく分かんないんだけどぉ」
香月が駆けつけた駅前では、すでに死闘が繰り広げられていた――――。
「いるヤツだけでどうにかするしかねえだろ!!」
火炎球を手のひらから連発するベルモットを、崩れかかってきたビルの壁が襲う。紙一重で躱した彼女は必死の声を上げる。
「ベル! 俺はとにかく化け物の弱みを見つける!! シュルケン! 貴様も目くらましでいいから手裏剣を投げまくれ!!」
朝の通勤通学時間だった。白と黒だけの不気味な世界で、狂乱する人々が逃げまどっている。男女構わず、ビルの狭間に追いやられて逃げ出せなくなった人々もいた。ビジネスマン、通学生、ランドセルを背負った幼女まで。
「もういいシュルケン!! ここからは一般人を避難させるのが命令だ! 死者を出すな! 化け物が群衆へ向かわんように誘導しろ! 香月! お前はケガ人の治療に回れ!」
「はいっ!」
「仕った!」
シュルケンは華奢な身体を自在に飛び回らせて、巨大モンスターを翻弄する。
「しっかしよぉガンリュウ! アンタはどうするってんだ! 引き止めてくれてんのはいいが、そのままじゃ決着がつかねえぞ!」
「いや! どうにかなる! その剣氏が今、ここへ向かっている」
「剣士って……おめえ! だって、ありゃまだ――」
そこへ息を切らして、期待の少年剣士が緊迫した顔で現れた。
「ガンリュウさん! 間に合いました! コイツの弱点が見えましたか!」
白い練習胴着を着た一二三は、フットワークをメインに据えた。とても重い防具をつけたままで闘える相手ではない。
「ヒフミ! まずは襲ってくる化け物に背を向けるな。まずは真っ直ぐに竹刀を構えろ!」
そんな巌流が刀一本で押さえこんでいるのは、立ち上がれば高さ15メートル級の大ムカデだった。そのムカデが、攻撃相手を一二三へと変更した。その並々ならぬ迫力に、しかし一二三は震えない。しっかりと地につけた裸足で踏ん張り、分厚く腫れあがった手のひらで、竹刀を真っすぐに構えている。
「ベル! お前はサポートしてくれ。瓦礫を寄せ集めて投げ飛ばしてもいい!」
「残ってねえよ、そんな力。あとは弟子に任せる話だったじゃねえのか」
ベルモットがマントの中から小さな黒玉を取りだして思いきりスウィングした。
「おいヒフミてめえ! 打ち返せ!」
「はい!」
迫る速球に一二三が竹刀を構える。野球が上手いだの下手だのは、この世界ではもう関係ない。ただひたすら根性だけで竹刀を振り抜くだけだ。
「せいやあっ!」
ビシイィッ! という竹刀のしなる音が見事に黒玉へ命中した。弾けたのは青白い炎。ムカデの動きが一瞬止まった。
「ヒフミ! 見極めろ! そいつが一瞬隠した場所を! そこだけ狙え!」
「はいっ!!」
大ムカデに敢然と向かってゆく一二三を心配げに見ているのは香月だ。
「ヒフミさん、無茶だけは……」
宙高く跳ねる一二三の身体は決して身体能力向上の成果ではない。ムカデの攻撃を利用したもので、せり上がってくる瓦礫とアスファルトを素早く駆け上がっただけだ。瓦礫の一つひとつが親切な階段に見えた。彼自身、それほどまでに冷静になれている自分が不思議でもあった。
「ガンリュウさん! 見えました! 右前足の一本、根本だけ色が違います!」
「おう! そこに突きたてろ! 練習通りだ!!」
一二三は跳ねた身体をねじり、竹刀のひと刺しを完全にそこへ突き立てた。が――、
「ぐはっ……ああっ!!」
弾かれたのは一二三の方だった。
「ヒフミ殿! 一時撤退でござる!」
が、一二三は宙に飛ばされた身体をもう一度ひねり、落下途中で宙に浮かぶ瓦礫を強く蹴ると、もう一度攻撃を追加した。刺さったままの竹刀の束へ向かって、
「がああぁっ!!」
渾身の掌打を打ち込んだのだ。すでに豆が何度も破れてガチガチに固まった手のひらで――。
ギイやあああっ!!
モンスターの叫び声の中、まだ落下中だった一二三の身体は、
「オブジェクト!」
ベルモットの練成したスプリングに跳ねて、地上へ降りた。
「すごかったでござるよ。さすが巌流殿の一番弟子でござるな」
シュルケンと地上へ立降り立った一二三へ、心配していた香月が駆け寄ってくる。
「ヒフミさん! あんな無茶して――!!」
「いえ……無茶はしてませんよ。師匠の前で、カッコ悪いところは見せられなかったんで……。でもまあ、ちょっと疲れたんで休みます」
照れ笑いを浮かべると、一二三は、ゆっくりと座り込んだ。
「でも……よかったです……」
「ええ、立派でござった」
一二三の、一騎討での初勝利。大団円を迎えるはずだったシーンに、しかし戦場は甘くない。
最後の抵抗か、倒したはずの大ムカデの長い爪が、香月の背中に向かって矢のように飛んでくる。
「カヅキ殿!!」
赤黒い爪は、彼女をかばったシュルケンの背中へ刺さる。彼の黒装束は瞬時にして、その身体を上下に斬り離されて転がった。
「シュルケンさん――!!」
青ざめる香月と、状況が飲み込めない一二三。
すぐに巌流がモンスターにとどめを刺しに行った。
「そ……そんな、シュルケンさん。私、すぐに治療します! 大丈夫です! 絶対に助けますから!」
決意した彼女に、現実は残酷だった。その『治療すべき相手』が地に倒れたまま、霧のように消えてゆくのだ。
「どうして……。シュルケンさん! どこですか! どこに……」
力なく跪く彼女へ、一二三が駆け寄る。
「カヅキさん! おかしいんです! まだモノクロームワールドが消えてません!」
「そ……そんなことより! シュルケンさんが!」
その騒ぎも見なかったように、ベルモットがフードを外してブロンドの髪を下すと後ろで縛った。彼女の最上級の戦闘スタイル――。それはまた、新手のモンスターの予感を示していた。
「グダグダ言ったり嘆いたりしてるうちに、また死人が増えるぜ――。とにかく構えろ!」
「急ぐぞ――!」
いつ寝ているのやら寝起きの早い巌流が叫ぶと、出てきたのは慌て顔の香月と眠そうなベルモット。
シュルケンは真っ先に向かっていた。ならば残りは巌流とベルモットが向かうしかない。しかし、香月もテントで待っているだけでは悔しさが募るだけだった。
「ユルエさんには――そのスマホにラルプログラムを同期しましたんで、情報があれば何でもいいです! 逐一私に教えてください!」
「おー。。。で、そのラリルレロがよく分かんないんだけどぉ」
香月が駆けつけた駅前では、すでに死闘が繰り広げられていた――――。
「いるヤツだけでどうにかするしかねえだろ!!」
火炎球を手のひらから連発するベルモットを、崩れかかってきたビルの壁が襲う。紙一重で躱した彼女は必死の声を上げる。
「ベル! 俺はとにかく化け物の弱みを見つける!! シュルケン! 貴様も目くらましでいいから手裏剣を投げまくれ!!」
朝の通勤通学時間だった。白と黒だけの不気味な世界で、狂乱する人々が逃げまどっている。男女構わず、ビルの狭間に追いやられて逃げ出せなくなった人々もいた。ビジネスマン、通学生、ランドセルを背負った幼女まで。
「もういいシュルケン!! ここからは一般人を避難させるのが命令だ! 死者を出すな! 化け物が群衆へ向かわんように誘導しろ! 香月! お前はケガ人の治療に回れ!」
「はいっ!」
「仕った!」
シュルケンは華奢な身体を自在に飛び回らせて、巨大モンスターを翻弄する。
「しっかしよぉガンリュウ! アンタはどうするってんだ! 引き止めてくれてんのはいいが、そのままじゃ決着がつかねえぞ!」
「いや! どうにかなる! その剣氏が今、ここへ向かっている」
「剣士って……おめえ! だって、ありゃまだ――」
そこへ息を切らして、期待の少年剣士が緊迫した顔で現れた。
「ガンリュウさん! 間に合いました! コイツの弱点が見えましたか!」
白い練習胴着を着た一二三は、フットワークをメインに据えた。とても重い防具をつけたままで闘える相手ではない。
「ヒフミ! まずは襲ってくる化け物に背を向けるな。まずは真っ直ぐに竹刀を構えろ!」
そんな巌流が刀一本で押さえこんでいるのは、立ち上がれば高さ15メートル級の大ムカデだった。そのムカデが、攻撃相手を一二三へと変更した。その並々ならぬ迫力に、しかし一二三は震えない。しっかりと地につけた裸足で踏ん張り、分厚く腫れあがった手のひらで、竹刀を真っすぐに構えている。
「ベル! お前はサポートしてくれ。瓦礫を寄せ集めて投げ飛ばしてもいい!」
「残ってねえよ、そんな力。あとは弟子に任せる話だったじゃねえのか」
ベルモットがマントの中から小さな黒玉を取りだして思いきりスウィングした。
「おいヒフミてめえ! 打ち返せ!」
「はい!」
迫る速球に一二三が竹刀を構える。野球が上手いだの下手だのは、この世界ではもう関係ない。ただひたすら根性だけで竹刀を振り抜くだけだ。
「せいやあっ!」
ビシイィッ! という竹刀のしなる音が見事に黒玉へ命中した。弾けたのは青白い炎。ムカデの動きが一瞬止まった。
「ヒフミ! 見極めろ! そいつが一瞬隠した場所を! そこだけ狙え!」
「はいっ!!」
大ムカデに敢然と向かってゆく一二三を心配げに見ているのは香月だ。
「ヒフミさん、無茶だけは……」
宙高く跳ねる一二三の身体は決して身体能力向上の成果ではない。ムカデの攻撃を利用したもので、せり上がってくる瓦礫とアスファルトを素早く駆け上がっただけだ。瓦礫の一つひとつが親切な階段に見えた。彼自身、それほどまでに冷静になれている自分が不思議でもあった。
「ガンリュウさん! 見えました! 右前足の一本、根本だけ色が違います!」
「おう! そこに突きたてろ! 練習通りだ!!」
一二三は跳ねた身体をねじり、竹刀のひと刺しを完全にそこへ突き立てた。が――、
「ぐはっ……ああっ!!」
弾かれたのは一二三の方だった。
「ヒフミ殿! 一時撤退でござる!」
が、一二三は宙に飛ばされた身体をもう一度ひねり、落下途中で宙に浮かぶ瓦礫を強く蹴ると、もう一度攻撃を追加した。刺さったままの竹刀の束へ向かって、
「がああぁっ!!」
渾身の掌打を打ち込んだのだ。すでに豆が何度も破れてガチガチに固まった手のひらで――。
ギイやあああっ!!
モンスターの叫び声の中、まだ落下中だった一二三の身体は、
「オブジェクト!」
ベルモットの練成したスプリングに跳ねて、地上へ降りた。
「すごかったでござるよ。さすが巌流殿の一番弟子でござるな」
シュルケンと地上へ立降り立った一二三へ、心配していた香月が駆け寄ってくる。
「ヒフミさん! あんな無茶して――!!」
「いえ……無茶はしてませんよ。師匠の前で、カッコ悪いところは見せられなかったんで……。でもまあ、ちょっと疲れたんで休みます」
照れ笑いを浮かべると、一二三は、ゆっくりと座り込んだ。
「でも……よかったです……」
「ええ、立派でござった」
一二三の、一騎討での初勝利。大団円を迎えるはずだったシーンに、しかし戦場は甘くない。
最後の抵抗か、倒したはずの大ムカデの長い爪が、香月の背中に向かって矢のように飛んでくる。
「カヅキ殿!!」
赤黒い爪は、彼女をかばったシュルケンの背中へ刺さる。彼の黒装束は瞬時にして、その身体を上下に斬り離されて転がった。
「シュルケンさん――!!」
青ざめる香月と、状況が飲み込めない一二三。
すぐに巌流がモンスターにとどめを刺しに行った。
「そ……そんな、シュルケンさん。私、すぐに治療します! 大丈夫です! 絶対に助けますから!」
決意した彼女に、現実は残酷だった。その『治療すべき相手』が地に倒れたまま、霧のように消えてゆくのだ。
「どうして……。シュルケンさん! どこですか! どこに……」
力なく跪く彼女へ、一二三が駆け寄る。
「カヅキさん! おかしいんです! まだモノクロームワールドが消えてません!」
「そ……そんなことより! シュルケンさんが!」
その騒ぎも見なかったように、ベルモットがフードを外してブロンドの髪を下すと後ろで縛った。彼女の最上級の戦闘スタイル――。それはまた、新手のモンスターの予感を示していた。
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