イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~

テヅカミユーキ

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第2章・七人の侍編

44・巌流の本気

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「ダメだ! 何度言えば分かる! お前の剣には殺気がまるでない!」

 巌流による一二三の特訓は、今日も続いている。

「でも……。竹刀も力も、これが限界で……」
「だから言ってるんだ! 竹刀に頼るな! 力で押すな!」

 鬼がいればこんな形相ぎょうそうだろうという顔で、巌流が一二三を睨む。
「だったら……どうすれば。これが僕の精一杯なんです。これ以上、期待されても……」

 一二三は竹刀を地に下ろして項垂うなだれる。剣士が剣を地につけるという気弱なその姿がさらにしゃくさわったか、

「分かった。お前は今日から竹刀を捨てろ」
「捨てるって――?」
「素手だ。今日からは素手だけでこの大樹たいじゅを叩け。拳とは言わん。手のひらで、その根元から折り倒すつもりで叩け。一発ずつ、渾身こんしんの力で叩け」

 それだけ言うと、巌流は腰に刀を携えて斜面を上がっていった。振り返りもせず。それが小さく見えるまで、一二三は立ち尽くすしかなかった。


「それで、そのザマかよ。弟子も師匠もバカじゃねえのか。こんなデカい木が、素手で倒れるかっていうんだよ」

 両手のひらを血だらけにして倒れ込んでいる一二三に対して、ベルモットは冷ややかだ。ただし、一緒に現れたシュルケンは言うことが違った。

「ヒフミ殿。ガンリュウ殿が申すのは、心の持ちようの話でござる。誰も、このような大木を素手で倒せる訳がないのでござるよ。確かに人はそう考えまする。しかしそれは強敵を目の前にして『倒せるはずがない』と考えてしまう心と同じ。だが『倒せる』という、その心を以てして、鍛錬たんれんに励めと――」

 そこでシュルケンが言葉を止めたのは、河原に戻ってきた巌流が目に入ったからだ。

 もう薄闇という時刻、その影は憤然ふんぜんとした何かに満ちていた。両目が赤く燃えている。一二三はようやく、そこで理解した。本当の『殺気』というものを。

「見ていろ――」

 誰に言うでもなかった。巌流はそのまま一二三が倒れ込んだ場所まで近づき、大木に向かって掌打を打ち始めた。いきなり目の前で深夜工事が始まったような、凄まじい音が響き始める。

 ズン……!!

 まずは、木にとまっていた小鳥がけたたましい鳴き声と共に、何十羽と飛び去った。三度目の掌打で大木が鈍い音を立てた。四度目には明らかに何かの軋む音が聞こえ――。

「があああぁっ!!」

 巌流が四方数キロまで届かんばかりの雄たけびを上げると――、

 メリっ――! メリメリっ――!!

 湿った、鈍い音が聞こえる。

「おい……ウソだろ……」

 ベルモットが思わず飛びのいた。巌流が、もう一度叫ぶ。

「はあああぁっ!!!!!」

 メキメキっ――という、誰もがどこかで聞き知っている巨木の倒れる音だった。が、それはただ映画やアニメの効果音であり、なのに今はそれが目の前の現実として、そのままの光景を見せた。

 巌流が肩を上下に揺すって両腕をだらりと垂らせば、その大木――直径80センチを越えようという大木は、敗北を認めたかのように激しい音を立てながら、ゆっくりと倒れた。ぐしゃりばさりと枝が折れて潰れる音が止めば、あとは千切れた木の葉が風に舞うだけだった。

「ヒフミ。次はお前の番だ。ベル、この木を戻しておいてくれ」

 シュルケンまでもが腰を抜かした光景の中で、倒れたままの一二三が微かに目を開けた。
 その目が見つめる先には遠い一番星が見える。しかし一二三は、その遠い星に指の一本だけでも触れなければならなくなった。

 誰も動けない。動かない。
 ベルモットだけが、

「またオレかよ……」

 まだ身を包む恐怖から逃れるように呟くだけだった。



 その数日後、シュルケンだけが聞いた話だったが、
 ――「道場破りの場所がなくなってイライラしていただけ」
 だったらしい。




~新年2度目の投稿でした。ストックのある限り、週1では投稿してゆきたいと思います。
 よろしくです~
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