33 / 88
おさとうごさじ
3.
しおりを挟む
ちゅう、とかわいらしい音が鳴って、胸があまく痺れてしまった。
ああ、まずいなあ。
遼雅さん、すごく、すきになってしまいそうだ。すきになってしまう。どうしたら、いいですか?
「ゆずはさんなら、怒られてみたいです」
「それは……、変わった趣味です」
「かわいい奥さんなら、どんな表情でも見たいでしょう」
「うーん……? じゃあ、怒りましょうか?」
なおもすこし屈んでくれている人を、撫でながら提案するようなことじゃない。
遼雅さんも同じことを思ったのか、小さく笑って頷いて見せてくれた。
まさか求められるとは思わずに、すこし考えてみる。その束の間に、ちゅう、と唇に熱が乗せられた。
「な、んでするんですか」
「あはは、考えている柚葉さんも可愛いから、つい」
「あまやかしすぎです」
「そう? 俺は結構自重してます」
「えっ」
喋りながら顔のあちこちにキスをされて、とうとう遼雅さんの唇を手で隠した。
掌をぺろりと舐められて「だめです」と睨みつけたら、いつものように、うれしそうな人が首をかしげていた。
「おこること、思い浮かびました」
言うまで仕掛けられ続けてしまうのはよくわかっている。
ようやく思いついて告げれば、すこし残念そうな遼雅さんが私の手首に触れて、あっけなく自分の口から引きはがしてしまった。
「はい、聞きます」
囚われた手は、なぜか遼雅さんの綺麗な指先に絡んでしまっている。
遼雅さんは恋人みたいに手をつなぐのが好きだと思う。それは、私がすきだから、そうしてくれているのかもしれないけれども。
「……寝てください」
「うん?」
「だから! 寝てください。私のことは、あまやかさなくていいので……、すぐにベッドに入って眠ってください」
お風呂に入って、すぐにあたたかいベッドで眠ってほしい。私の体温ではあまりベッドは温まらないけれど、ふかふかなのは間違いないから、ぐっすり眠れるはずだ。
ぐっと睨んで、ぽかんとしている遼雅さんと目が合う。
「……それは、おこってるの?」
「はい?」
「柚葉さん、今の怒ったんですか」
「えええ? 怒ってます」
どうして怒っているのか確認されているのだろう。
困惑していれば、遼雅さんがしばらくしてからまた、楽しそうに笑い声をあげてしまった。
「遼雅さん?」
「あはは、ごめんね。まさか、そんな可愛い怒り方だとは、思わなくて」
「可愛くはなかったと思うんですが……」
「無自覚なら、なおさら可愛くて俺は心配です」
反論をする暇もなく、もう一度リップノイズが唇の上に鳴らされてしまう。
もう、キスをされると、私が何も考えられなくなってしまうことを知っているのだろうか。
困り果てて、屈んでくれている人を見つめたら、「俺も怒っていいですか」と囁かれてしまった。
「え、何かしてましたか? ごめんなさい」
「はは、まだ怒ってないのに」
至らないところはかなり多いから、思わず身構えてしまった。けれど、遼雅さんがあまりにもやさしい瞳をしているから、声に詰まってしまう。
はやく、ゆっくりしてほしいのに。
「聞きます。それで、はやくお風呂に入って、ゆっくり休んでくださいね?」
「うーん?」
「約束です」
「かわいい」
脈絡がなさ過ぎて、とうとう絶句してしまった。
言葉を失っている私の頬を撫でて、遼雅さんが言う。
「柚葉さんは、もう、俺のものです」
「……は、い?」
「もう、佐藤じゃない」
「うん、と?」
「さっき、佐藤って言ってました。訂正してください。もう、俺のつまです」
『はい、今日も一日偉いです。佐藤はわかってます。でも、頑張りすぎは心配なので、今日ははやく眠ってください』
「あ、ええ? そんな、ことですか?」
たしかに言ったと思う。けれど、社内では当然佐藤と呼ばれているし、とくに気にしたこともなかった。
ああ、まずいなあ。
遼雅さん、すごく、すきになってしまいそうだ。すきになってしまう。どうしたら、いいですか?
「ゆずはさんなら、怒られてみたいです」
「それは……、変わった趣味です」
「かわいい奥さんなら、どんな表情でも見たいでしょう」
「うーん……? じゃあ、怒りましょうか?」
なおもすこし屈んでくれている人を、撫でながら提案するようなことじゃない。
遼雅さんも同じことを思ったのか、小さく笑って頷いて見せてくれた。
まさか求められるとは思わずに、すこし考えてみる。その束の間に、ちゅう、と唇に熱が乗せられた。
「な、んでするんですか」
「あはは、考えている柚葉さんも可愛いから、つい」
「あまやかしすぎです」
「そう? 俺は結構自重してます」
「えっ」
喋りながら顔のあちこちにキスをされて、とうとう遼雅さんの唇を手で隠した。
掌をぺろりと舐められて「だめです」と睨みつけたら、いつものように、うれしそうな人が首をかしげていた。
「おこること、思い浮かびました」
言うまで仕掛けられ続けてしまうのはよくわかっている。
ようやく思いついて告げれば、すこし残念そうな遼雅さんが私の手首に触れて、あっけなく自分の口から引きはがしてしまった。
「はい、聞きます」
囚われた手は、なぜか遼雅さんの綺麗な指先に絡んでしまっている。
遼雅さんは恋人みたいに手をつなぐのが好きだと思う。それは、私がすきだから、そうしてくれているのかもしれないけれども。
「……寝てください」
「うん?」
「だから! 寝てください。私のことは、あまやかさなくていいので……、すぐにベッドに入って眠ってください」
お風呂に入って、すぐにあたたかいベッドで眠ってほしい。私の体温ではあまりベッドは温まらないけれど、ふかふかなのは間違いないから、ぐっすり眠れるはずだ。
ぐっと睨んで、ぽかんとしている遼雅さんと目が合う。
「……それは、おこってるの?」
「はい?」
「柚葉さん、今の怒ったんですか」
「えええ? 怒ってます」
どうして怒っているのか確認されているのだろう。
困惑していれば、遼雅さんがしばらくしてからまた、楽しそうに笑い声をあげてしまった。
「遼雅さん?」
「あはは、ごめんね。まさか、そんな可愛い怒り方だとは、思わなくて」
「可愛くはなかったと思うんですが……」
「無自覚なら、なおさら可愛くて俺は心配です」
反論をする暇もなく、もう一度リップノイズが唇の上に鳴らされてしまう。
もう、キスをされると、私が何も考えられなくなってしまうことを知っているのだろうか。
困り果てて、屈んでくれている人を見つめたら、「俺も怒っていいですか」と囁かれてしまった。
「え、何かしてましたか? ごめんなさい」
「はは、まだ怒ってないのに」
至らないところはかなり多いから、思わず身構えてしまった。けれど、遼雅さんがあまりにもやさしい瞳をしているから、声に詰まってしまう。
はやく、ゆっくりしてほしいのに。
「聞きます。それで、はやくお風呂に入って、ゆっくり休んでくださいね?」
「うーん?」
「約束です」
「かわいい」
脈絡がなさ過ぎて、とうとう絶句してしまった。
言葉を失っている私の頬を撫でて、遼雅さんが言う。
「柚葉さんは、もう、俺のものです」
「……は、い?」
「もう、佐藤じゃない」
「うん、と?」
「さっき、佐藤って言ってました。訂正してください。もう、俺のつまです」
『はい、今日も一日偉いです。佐藤はわかってます。でも、頑張りすぎは心配なので、今日ははやく眠ってください』
「あ、ええ? そんな、ことですか?」
たしかに言ったと思う。けれど、社内では当然佐藤と呼ばれているし、とくに気にしたこともなかった。
5
あなたにおすすめの小説
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる