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第28話 歓迎されてないっぽい
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ハインツさんが宴の準備をすると言って退室した後、再び部屋で待機していると、ルドが口を開いた。
「ウィル、ちょっといいか?」
「ん? 何?」
「誕生日おめでとう」
「えっ?」
そうか、今日は僕の誕生日だ。こちらの世界に転生してから、もう十七年経ったということか。長かったような、あっという間だったような、複雑な気持ちだ。
前世では、十七歳といえば、すでに親元を離れ、東京で一人暮らしをしていた。十六歳の時にスカウトされて、モデルの仕事をするため、上京したのだった。
だから、未成年とはいえ、自分のことは自分でできたし、仕事もあったので、自分で稼いだお金で生活していた。
だけど今世ではどうだ。一人では何もできない甘ちゃんだ。そう考えると、ちょっと落ち込んでしまう。
「今回はこんな状況だから、祝いの品を用意することができなかった。だから、代わりにこれを」
そういってルドが差し出したのは、ずっと彼が身につけていたペンダントだった。
「え!? いいよ、そんな! これって、ルドがずっとつけていたペンダントだよね? そんな大切なもの貰えないよ!」
「いや、ウィルだからこそ、これを受け取ってほしい」
「え、僕だからこそ……?」
それはどういう意味なのだろうか。だけど、ルドが答えてくれる様子はない。
「でも――」
僕には思い当たる理由がなくて、受け取るのを戸惑っていると、ルドがやや強引に、持っていたペンダントを僕の首につけた。
「ちょ、ちょっとルド……!」
無理やりつけられてしまった。こうなったルドは誰にも止めることができないのは知っていた。僕も人のことは言えないけど、ルドはとても頑固なんだ。
「わ~! ウィル、すごくキレイ!」
ペンダントをつけた僕を見たエタが、無邪気に褒めてくれる。
「あ、ありがとう」
何も話してくれないルドに若干腹を立てていたが、エタの笑顔に毒気を抜かれてしまった。
「ああ、良く似合っている。綺麗だ」
「――――っ!」
絶対あとで理由を問い詰めてやると思っていたのに、ルドにまでそんなふうに優しく褒められると、何も言えなくなってしまうじゃないか。
うぅ~胸が苦しい。近頃なんだか身体の調子がおかしい。歌を歌った後に体調が悪くなるのは分かっているけど、最近は、突然、こんなふうに胸がぎゅっと苦しくなったり、心臓がドキドキしたりすることがある。変な病気とかでなければいいんだけど……。
***
その夜、ハインツさんたちが用意してくれた宴の席に、僕たちは座っていた。
部屋で休んでいると、ルイーサさんが、呼びに来てくれた。家々が立ち並んだ集落の中心に、集会や、今夜のような宴をするときに使うという、少し大きめの建物があり、そこに案内された。
こちらの世界では、今まで、椅子に座って食事をするのが普通だったけど、エルフの里では、床に座り、食事をとるらしい。目の前には、お膳のような台が置かれ、たくさんの料理が並んでいる。
そして僕は、約束通り、ハインツさんが着てほしいと言っていた衣装を着ていた。
透け感が半端ないその服を一枚で着るのは何とか回避できたものの、ハインツさんが下に着るものとして用意したのが、ビキニタイプの水着のようなものだったので、やはり身体のラインが丸分かりで、僕は今羞恥の極みにいる! 羞恥のせいで、せっかく用意してくれた食事も味がしない。
「ウィル、寒くはないか?」
「う、うん、それは大丈夫……」
ルドが先ほどから心配して声をかけてくれるが、いつもと違い、目を合わせない。チラチラ視線を感じても、こちらがルドの方を見ると、目を逸らされる。もしかすると、女性に慣れていないルドには、この格好は刺激が強すぎるのかも。
本当は、エルフの皆さんとも話してみたいと思っていたけれど、僕が想像していた宴とは全然違って、皆黙々と食事をしていた。カルチャーショックだ。人間族とエルフ族の『宴』は、こんなにも違うのか。
「どうですか? エルフの食事はお口に合いますか?」
「は、はい。美味しいです」
ハインツさんに尋ねられ、まさか、味がしないとは言えず、無難に答える。
「そうですか、それは良かったです」
「ウィル、これ美味しいよ!」
「これ? わぁ~キレイな色だね。よかったら僕の分も食べる?」
「え! いいの? ありがとう!」
エタが楽しそうにしているのを見て、ちょっとだけ和んだ。ぱっと見は果物のような綺麗な色をした丸い何かを、エタのお皿に移してあげる。
この場の雰囲気を気にせず、楽しそうにしているのはエタだけだった。もしかして、エルフの皆さんは僕たちのこと歓迎していないのだろうか。あまりにも無言なので、そんな気さえしてくる。
こんなアウェイな感じの中で歌を歌うことになるのか。そう思うと、緊張してきた。
前世でステージに立つときは、僕のことが見たくて集まってくれた人たちばかりだったので、アンチの前でパフォーマンスをする経験なんてなかった。緊張で喉が渇き、さっきから、用意された果実水ばかり飲んでしまう。
「ウィル、そろそろよろしいでしょうか」
「は、はい」
きた~!あぁ…ついに……この中で歌うのか。
ハインツさんに合図され、緊張しつつも、部屋の奥にある壇上に移動する。
「は、はじめまして。ウィルといいます。わたしたちのような人間族を、このエルフの里に迎え入れてくれたこと、とても感謝しています。それと、本日は、わたしたちのために、このような宴席を設けていただき、ありがとうございます。お礼になるかはわかりませんが、少しでも皆さんの厚意にお返ししたくて、今日は、歌を歌います」
なんとか挨拶を済ませ、一礼する。今夜歌う歌は、ハインツさんのリクエストで、エルフ族の間で伝えられてきた歌を歌うことになっていた。
歌姫の衣装を渡したあと、下に着る服を持って、ハインツさんが再び部屋に来たときにお願いされたのだった。十年に一度のお祭りのときに、歌姫役が歌う歌らしい。歌姫役をしたことがあるというルイーサさんに、その歌を教えてもらって覚えたのだった。
ついさっき覚えた歌をこの雰囲気の中で歌うのだから、緊張する。ただ、少しでも感謝の気持ちが伝わるよう、心を込めて歌うつもりだ。
そう決意し、息を吸い込んだ。
「~~♪~~~~♪」
歌い始めた瞬間、今まで感じたことのない感覚を覚えた。身体中から何かが引っ張られて出ていくようなそんな感覚だ。だけど、途中でやめるわけにはいかない。僕はそのまま歌い続けた。
「ウィル、ちょっといいか?」
「ん? 何?」
「誕生日おめでとう」
「えっ?」
そうか、今日は僕の誕生日だ。こちらの世界に転生してから、もう十七年経ったということか。長かったような、あっという間だったような、複雑な気持ちだ。
前世では、十七歳といえば、すでに親元を離れ、東京で一人暮らしをしていた。十六歳の時にスカウトされて、モデルの仕事をするため、上京したのだった。
だから、未成年とはいえ、自分のことは自分でできたし、仕事もあったので、自分で稼いだお金で生活していた。
だけど今世ではどうだ。一人では何もできない甘ちゃんだ。そう考えると、ちょっと落ち込んでしまう。
「今回はこんな状況だから、祝いの品を用意することができなかった。だから、代わりにこれを」
そういってルドが差し出したのは、ずっと彼が身につけていたペンダントだった。
「え!? いいよ、そんな! これって、ルドがずっとつけていたペンダントだよね? そんな大切なもの貰えないよ!」
「いや、ウィルだからこそ、これを受け取ってほしい」
「え、僕だからこそ……?」
それはどういう意味なのだろうか。だけど、ルドが答えてくれる様子はない。
「でも――」
僕には思い当たる理由がなくて、受け取るのを戸惑っていると、ルドがやや強引に、持っていたペンダントを僕の首につけた。
「ちょ、ちょっとルド……!」
無理やりつけられてしまった。こうなったルドは誰にも止めることができないのは知っていた。僕も人のことは言えないけど、ルドはとても頑固なんだ。
「わ~! ウィル、すごくキレイ!」
ペンダントをつけた僕を見たエタが、無邪気に褒めてくれる。
「あ、ありがとう」
何も話してくれないルドに若干腹を立てていたが、エタの笑顔に毒気を抜かれてしまった。
「ああ、良く似合っている。綺麗だ」
「――――っ!」
絶対あとで理由を問い詰めてやると思っていたのに、ルドにまでそんなふうに優しく褒められると、何も言えなくなってしまうじゃないか。
うぅ~胸が苦しい。近頃なんだか身体の調子がおかしい。歌を歌った後に体調が悪くなるのは分かっているけど、最近は、突然、こんなふうに胸がぎゅっと苦しくなったり、心臓がドキドキしたりすることがある。変な病気とかでなければいいんだけど……。
***
その夜、ハインツさんたちが用意してくれた宴の席に、僕たちは座っていた。
部屋で休んでいると、ルイーサさんが、呼びに来てくれた。家々が立ち並んだ集落の中心に、集会や、今夜のような宴をするときに使うという、少し大きめの建物があり、そこに案内された。
こちらの世界では、今まで、椅子に座って食事をするのが普通だったけど、エルフの里では、床に座り、食事をとるらしい。目の前には、お膳のような台が置かれ、たくさんの料理が並んでいる。
そして僕は、約束通り、ハインツさんが着てほしいと言っていた衣装を着ていた。
透け感が半端ないその服を一枚で着るのは何とか回避できたものの、ハインツさんが下に着るものとして用意したのが、ビキニタイプの水着のようなものだったので、やはり身体のラインが丸分かりで、僕は今羞恥の極みにいる! 羞恥のせいで、せっかく用意してくれた食事も味がしない。
「ウィル、寒くはないか?」
「う、うん、それは大丈夫……」
ルドが先ほどから心配して声をかけてくれるが、いつもと違い、目を合わせない。チラチラ視線を感じても、こちらがルドの方を見ると、目を逸らされる。もしかすると、女性に慣れていないルドには、この格好は刺激が強すぎるのかも。
本当は、エルフの皆さんとも話してみたいと思っていたけれど、僕が想像していた宴とは全然違って、皆黙々と食事をしていた。カルチャーショックだ。人間族とエルフ族の『宴』は、こんなにも違うのか。
「どうですか? エルフの食事はお口に合いますか?」
「は、はい。美味しいです」
ハインツさんに尋ねられ、まさか、味がしないとは言えず、無難に答える。
「そうですか、それは良かったです」
「ウィル、これ美味しいよ!」
「これ? わぁ~キレイな色だね。よかったら僕の分も食べる?」
「え! いいの? ありがとう!」
エタが楽しそうにしているのを見て、ちょっとだけ和んだ。ぱっと見は果物のような綺麗な色をした丸い何かを、エタのお皿に移してあげる。
この場の雰囲気を気にせず、楽しそうにしているのはエタだけだった。もしかして、エルフの皆さんは僕たちのこと歓迎していないのだろうか。あまりにも無言なので、そんな気さえしてくる。
こんなアウェイな感じの中で歌を歌うことになるのか。そう思うと、緊張してきた。
前世でステージに立つときは、僕のことが見たくて集まってくれた人たちばかりだったので、アンチの前でパフォーマンスをする経験なんてなかった。緊張で喉が渇き、さっきから、用意された果実水ばかり飲んでしまう。
「ウィル、そろそろよろしいでしょうか」
「は、はい」
きた~!あぁ…ついに……この中で歌うのか。
ハインツさんに合図され、緊張しつつも、部屋の奥にある壇上に移動する。
「は、はじめまして。ウィルといいます。わたしたちのような人間族を、このエルフの里に迎え入れてくれたこと、とても感謝しています。それと、本日は、わたしたちのために、このような宴席を設けていただき、ありがとうございます。お礼になるかはわかりませんが、少しでも皆さんの厚意にお返ししたくて、今日は、歌を歌います」
なんとか挨拶を済ませ、一礼する。今夜歌う歌は、ハインツさんのリクエストで、エルフ族の間で伝えられてきた歌を歌うことになっていた。
歌姫の衣装を渡したあと、下に着る服を持って、ハインツさんが再び部屋に来たときにお願いされたのだった。十年に一度のお祭りのときに、歌姫役が歌う歌らしい。歌姫役をしたことがあるというルイーサさんに、その歌を教えてもらって覚えたのだった。
ついさっき覚えた歌をこの雰囲気の中で歌うのだから、緊張する。ただ、少しでも感謝の気持ちが伝わるよう、心を込めて歌うつもりだ。
そう決意し、息を吸い込んだ。
「~~♪~~~~♪」
歌い始めた瞬間、今まで感じたことのない感覚を覚えた。身体中から何かが引っ張られて出ていくようなそんな感覚だ。だけど、途中でやめるわけにはいかない。僕はそのまま歌い続けた。
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