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第27話 スケスケっぽい
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エルフの里に着いた後、最初に出迎えてくれた女のエルフさんが、客用の部屋を用意してくれた。彼女の名前は、ルイーサさんというらしい。ハインツさんが教えてくれた。
いつもからかわれるお返しに、僕も、ハインツさんとルイーサさん関係を、『もしかして彼女ってやつですか?』なんて聞いてみたかったけど、どうも、そんなふうに軽く聞けるような雰囲気じゃなかった。
人に話したくないことは誰にでもある。本人から話してくれるまでは、こちらからは触れないようにしよう。
案内された部屋で休んでいると、ハインツさんがやって来た。久しぶりに帰省したようで、到着後は、エルフの人たちとずっと話をしていた。
「どうですか、エルフの里は」
「すごくきれいな場所ですね! この世界にこんなに美しい場所があるなんて知りませんでした」
「……。」
――――――あれ? ハインツさんの反応がないな。聞こえなかったのかな?
「気に入っていただけたようでよかったです」
あ、聞こえてたか。一瞬、間があったので、僕の声が聞こえなかったのかと思った。エルフの里に来てから、何となく、ハインツさんの様子がいつもと違うような気がするんだよな。
「皆さんのために、今夜、ささやかながら歓迎の宴を催すことになりました」
「え? そんな、気を使わないでください。ただでさえ、これから色々とお世話になるのに……」
「いいえ。私たちエルフは、ウィルたちを心から歓迎しています。ぜひ、遠慮なさらず、宴を楽しんでくださいね」
「わかりました。ありがとうございます、ハインツさん」
エルフの里に、異種族である僕たちを受け入れてくれるだけでも感謝なのに、歓迎の宴まで開いてくれるなんて、なんて優しい人たちなんだろう! ハインツさん以外のエルフの人たちとも話してみたいし、夜が楽しみだ。
馬に乗っている間、ルドとこれでもかというほど密着していたおかげで、僕の体調も回復していた。この調子なら、夜の宴では、歌を歌っても大丈夫かもしれない。
せっかく僕たちのために宴を開いてくれるのだ。僕も何かお返しをしたい。
「ハインツさん、もしよかったら、宴の席で何か歌わせてもらえませんか?」
「え! いいんですか? もちろん、ウィルが歌ってくれるなら、ぜひお願いしたいです!」
よし、ハインツさんの了承も得たことだし、夜までに何を歌うか考えておくことにしよう。
「嬉しそうだな」
「え? う、うん。そんなに顔に出てたかな?」
ルドに指摘されて、ちょっと恥ずかしくなる。
「ああ。ウィルは、歌を歌う時はとても楽しそうだ。城でもそんな顔をしているのは見たことがなかった。歌が好きだということが伝わってくる」
「そ、そっか。うん、歌は好き、かも」
「前から不思議だったんだが、リヒトリーベでは、娯楽は禁止されていた。ウィルは、どこであんなにたくさんの歌を覚えたんだ?」
「え?あ、えっと……」
そうだよね。ずっと一緒にいたルドが疑問に思うのは当然だ。僕に前世の記憶があることは、誰にも言ったことがない。ルドになら本当のことを伝えてもいいかもしれないと思う反面、今までずっと隠してきたことを知ったら、ルドはどう思うだろうと考えてしまい、結局、僕の秘密は明かさずに今日まできた。
最近は、少しずつ、ルドも僕を信用してくれていると思えることが増えてきたのに、ここで前世のことを打ち明ければ、気味悪がられたり、失望されたり、距離ができてしまったりするんじゃないだろうか。
「うん、どこで覚えたんだったかな? 小さい頃のことだから、僕もあんまりはっきりとは覚えてないんだよね」
「そうか」
あぁ……嘘をついてしまった。罪悪感を抱くくらいなら、本当のことを言ってしまえばいいのに。
「そうだ! せっかくなら、これを着て歌っていただくのはどうでしょう!」
ルドに嘘をついてしまって落ち込んでいると、ハインツさんが奥の部屋から、何かを持ってきた。
「エルフの里の祭りで歌姫役の者が着る衣装です」
「祭りですか?」
「ええ、エルフ族に伝わる伝承に登場する歌姫と闇の神をお祀りするために、十年に一度、伝承の内容を演じる催しを行っているんです」
「へぇ~! そうなんですね!」
この世界に転生して、初めて『祭り』という概念があったことを知る。リヒトリーベがどれだけ閉鎖された国だったかを改めて実感した。
「そういえば、以前、エルフ族に伝わる伝承があるって言ってましたね。どんな内容なんですか?」
「それを話すと長くなりますので、また次の機会にでもお話ししましょう。それより、ウィル、この衣装をぜひ来てください! きっと似合いますよ~!」
僕は、ハインツさんの闇魔法により、今もずっと女性の姿をしていた。エルフの里に着いたときに、元に戻してもらうことも考えたけど、万が一のことを考えて、女性の姿のままでいることにしたのだった。
「でも、お祭りで使う、大事な衣装なんじゃないんですか? 僕が着てしまってもいいんですかね」
「ウィルにだからこそ着てほしいんですよ! ね? いいですよね?」
「わ、わかりました」
お世話になることへの感謝の気持ちで歌を歌うんだ。ハインツさんがそうしてほしいというのなら、その衣装を着て歌うことにしよう。
「ところで、どんな服なんですか?」
「こちらです! すごく素敵でしょう?」
「なっ――――!」
ハインツさんが、手に持っている布を広げた瞬間、言葉を失った。
「貴様、ウィルにこれを着れというのか!?」
「そうですよ? 絶対に似合うと思いませんか?」
「わ~!! すごいキラキラスケスケしてるね!」
ルドとハインツさんとエタが、嚙み合わない会話をしている。
僕は正直、ルドの意見に賛成だった。だって、エタが言った通りスケスケなんだもん! こんなの着たら、身体が全部透けて見えてしまう!
「あの、ハインツさん、これって、この服一枚で着るんですか?」
「ええ、そうですが?」
何か問題でも? みたいな顔をしているハインツさんに、思わずワンパンくらわせたくなる。
「あの、お祭りではそうなのかもしれませんが、せめて、衣装の下に何か着たいです。そうじゃないと、身体が、その……」
「全部見えますね?」
「え、あの、もしかして、エルフの皆さんて、普段裸で暮らしているとか……?」
「いいえ?」
この衣装の透け具合があまりにも普通のことみたいに言うので、エルフ族の常識が人間族の常識と違うのかもしれないと思ったが、違うらしい。
「じゃあ、やっぱりこの服を一枚で着るのはちょっと……」
「本来は歌姫の役を演じる者が着る衣装なので、伝承に登場する歌姫が着ていたとされる服を再現したものなのですが、ウィルがそう言うなら仕方ありませんね。下に着るものも用意しましょう」
よかった。何とかスケスケは回避した! それにしても、ハインツさんが暴走すると、いつも真っ先に抗議してくれるルドが、今回は大人しかったような……? そう思い、ルドの顔を見ると、目を逸らされた。何故だ。
いつもからかわれるお返しに、僕も、ハインツさんとルイーサさん関係を、『もしかして彼女ってやつですか?』なんて聞いてみたかったけど、どうも、そんなふうに軽く聞けるような雰囲気じゃなかった。
人に話したくないことは誰にでもある。本人から話してくれるまでは、こちらからは触れないようにしよう。
案内された部屋で休んでいると、ハインツさんがやって来た。久しぶりに帰省したようで、到着後は、エルフの人たちとずっと話をしていた。
「どうですか、エルフの里は」
「すごくきれいな場所ですね! この世界にこんなに美しい場所があるなんて知りませんでした」
「……。」
――――――あれ? ハインツさんの反応がないな。聞こえなかったのかな?
「気に入っていただけたようでよかったです」
あ、聞こえてたか。一瞬、間があったので、僕の声が聞こえなかったのかと思った。エルフの里に来てから、何となく、ハインツさんの様子がいつもと違うような気がするんだよな。
「皆さんのために、今夜、ささやかながら歓迎の宴を催すことになりました」
「え? そんな、気を使わないでください。ただでさえ、これから色々とお世話になるのに……」
「いいえ。私たちエルフは、ウィルたちを心から歓迎しています。ぜひ、遠慮なさらず、宴を楽しんでくださいね」
「わかりました。ありがとうございます、ハインツさん」
エルフの里に、異種族である僕たちを受け入れてくれるだけでも感謝なのに、歓迎の宴まで開いてくれるなんて、なんて優しい人たちなんだろう! ハインツさん以外のエルフの人たちとも話してみたいし、夜が楽しみだ。
馬に乗っている間、ルドとこれでもかというほど密着していたおかげで、僕の体調も回復していた。この調子なら、夜の宴では、歌を歌っても大丈夫かもしれない。
せっかく僕たちのために宴を開いてくれるのだ。僕も何かお返しをしたい。
「ハインツさん、もしよかったら、宴の席で何か歌わせてもらえませんか?」
「え! いいんですか? もちろん、ウィルが歌ってくれるなら、ぜひお願いしたいです!」
よし、ハインツさんの了承も得たことだし、夜までに何を歌うか考えておくことにしよう。
「嬉しそうだな」
「え? う、うん。そんなに顔に出てたかな?」
ルドに指摘されて、ちょっと恥ずかしくなる。
「ああ。ウィルは、歌を歌う時はとても楽しそうだ。城でもそんな顔をしているのは見たことがなかった。歌が好きだということが伝わってくる」
「そ、そっか。うん、歌は好き、かも」
「前から不思議だったんだが、リヒトリーベでは、娯楽は禁止されていた。ウィルは、どこであんなにたくさんの歌を覚えたんだ?」
「え?あ、えっと……」
そうだよね。ずっと一緒にいたルドが疑問に思うのは当然だ。僕に前世の記憶があることは、誰にも言ったことがない。ルドになら本当のことを伝えてもいいかもしれないと思う反面、今までずっと隠してきたことを知ったら、ルドはどう思うだろうと考えてしまい、結局、僕の秘密は明かさずに今日まできた。
最近は、少しずつ、ルドも僕を信用してくれていると思えることが増えてきたのに、ここで前世のことを打ち明ければ、気味悪がられたり、失望されたり、距離ができてしまったりするんじゃないだろうか。
「うん、どこで覚えたんだったかな? 小さい頃のことだから、僕もあんまりはっきりとは覚えてないんだよね」
「そうか」
あぁ……嘘をついてしまった。罪悪感を抱くくらいなら、本当のことを言ってしまえばいいのに。
「そうだ! せっかくなら、これを着て歌っていただくのはどうでしょう!」
ルドに嘘をついてしまって落ち込んでいると、ハインツさんが奥の部屋から、何かを持ってきた。
「エルフの里の祭りで歌姫役の者が着る衣装です」
「祭りですか?」
「ええ、エルフ族に伝わる伝承に登場する歌姫と闇の神をお祀りするために、十年に一度、伝承の内容を演じる催しを行っているんです」
「へぇ~! そうなんですね!」
この世界に転生して、初めて『祭り』という概念があったことを知る。リヒトリーベがどれだけ閉鎖された国だったかを改めて実感した。
「そういえば、以前、エルフ族に伝わる伝承があるって言ってましたね。どんな内容なんですか?」
「それを話すと長くなりますので、また次の機会にでもお話ししましょう。それより、ウィル、この衣装をぜひ来てください! きっと似合いますよ~!」
僕は、ハインツさんの闇魔法により、今もずっと女性の姿をしていた。エルフの里に着いたときに、元に戻してもらうことも考えたけど、万が一のことを考えて、女性の姿のままでいることにしたのだった。
「でも、お祭りで使う、大事な衣装なんじゃないんですか? 僕が着てしまってもいいんですかね」
「ウィルにだからこそ着てほしいんですよ! ね? いいですよね?」
「わ、わかりました」
お世話になることへの感謝の気持ちで歌を歌うんだ。ハインツさんがそうしてほしいというのなら、その衣装を着て歌うことにしよう。
「ところで、どんな服なんですか?」
「こちらです! すごく素敵でしょう?」
「なっ――――!」
ハインツさんが、手に持っている布を広げた瞬間、言葉を失った。
「貴様、ウィルにこれを着れというのか!?」
「そうですよ? 絶対に似合うと思いませんか?」
「わ~!! すごいキラキラスケスケしてるね!」
ルドとハインツさんとエタが、嚙み合わない会話をしている。
僕は正直、ルドの意見に賛成だった。だって、エタが言った通りスケスケなんだもん! こんなの着たら、身体が全部透けて見えてしまう!
「あの、ハインツさん、これって、この服一枚で着るんですか?」
「ええ、そうですが?」
何か問題でも? みたいな顔をしているハインツさんに、思わずワンパンくらわせたくなる。
「あの、お祭りではそうなのかもしれませんが、せめて、衣装の下に何か着たいです。そうじゃないと、身体が、その……」
「全部見えますね?」
「え、あの、もしかして、エルフの皆さんて、普段裸で暮らしているとか……?」
「いいえ?」
この衣装の透け具合があまりにも普通のことみたいに言うので、エルフ族の常識が人間族の常識と違うのかもしれないと思ったが、違うらしい。
「じゃあ、やっぱりこの服を一枚で着るのはちょっと……」
「本来は歌姫の役を演じる者が着る衣装なので、伝承に登場する歌姫が着ていたとされる服を再現したものなのですが、ウィルがそう言うなら仕方ありませんね。下に着るものも用意しましょう」
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