【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ

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第30話 様子がおかしいっぽい その3

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「さあ、もう一度歌いなさい。今度はちゃんと最後まで歌いきってくださいね。そうだ。特別に、あの護衛と最後の言葉を交わさせてあげましょう」
 そう言うと、ハインツさんは、僕たちにかけていた魔法を解除したようだ。言葉を発することができるようになる。
「ウィル! 絶対にそいつの言うとおりにするな! そんなことをしたらお前の命まで――」
「そこまでです。まったく、貴方の飼い犬は躾が全くできていませんね。何かと絡んできて鬱陶しいったらありませんでした」
 ハインツさんが再び魔法を発動したせいで、ルドの言葉は最後まで聞くことができかなったが、僕が歌うことを必死に止めようとしているようだった。僕が歌姫の力を使えば、死ぬかもしれないんだ。ルドがそれを止めようとしてくれただけでも嬉しかった。
 だけど、もし自分にできることが、少しでもハインツさんの救いになるのなら、やってみたいと思った。今まで正体を隠されていたことはショックだったし、僕が知っているハインツさんは、すべて演技だったんだって考えると悲しくなるけれど、それでも、彼と出会って旅をしたこと自体が嘘になるわけではない。僕は楽しかったし、彼と会えてよかったと思っているのだから、それでいいじゃないか。
「わかりました、もう一度歌います。ただ、これだけは分かってほしいです。父のしたことはもちろん弁解の余地もないほど酷いことです。だけど、僕は、父のしたことに責任を感じて歌うのではなく、ハインツさんのことが好きだから、ハインツさんの力になりたいから、歌います」
「何を言って――」
「嘘だったとしても、ハインツさんと過ごした時間はとても楽しかったです。ありがとうございました」
 最後に、ルドとエタの顔を見た。もうこれで最後かもしれない。その姿を目に焼き付けよう。エタはぐったりしながらも、今までの会話を聞いて、状況を理解しているのだろう。大きな瞳から涙がポロポロとこぼしている。
「ウィル、嫌だよ……死んだりしないよね……?」
 約束はできない。だから僕は何も言えず、ただ微笑んだ。
「――っ!!――っ!!」
 ルドはハインツさんの魔法で声を出すことができない。それでも、何を言っているのかは伝わって来た。こちらの世界に転生してから、今までずっと僕を護ってくれてありがとう。
 言葉を交わすと、決心が鈍りそうだから、ただじっと二人の姿を見つめ、そして僕は大きく息を吸い込んだ。
「~♪~~♪」
 大量の力が身体から溢れ出ていく。何度も意識を失いそうになるが、今度は最後まで歌わなければならない。
「~♪~~♪~~~♪♪」
 歌いながら、これまでの出来事が浮かんでは消えていった。きっと歌い終えたら、僕は死ぬのだろう。結局、前世の父を見つけることはできなかったが、もし、ハインツさんが前世の父ならば、エルフの里を再生することで、罪を償ったことにはならないだろうか。
 ハインツさんはきっと、僕が役目を果たしたら、ルドとエタの命まで奪うことはしないと思った。逆に、ルドがハインツさんに何かしてしまいそうな気がする。僕が死ぬこと自体は、正直どうでも良かった。ただ、この世界に残していく皆のことが心配だった。
 歌も終盤に差し掛かり、意識がどんどん遠のいていくのがわかった。いよいよ生命が尽きかけているんだ。浮かんでは消える走馬灯は、最後はどれも、ルドとの思い出ばかりだった。ああ、これはあの夢で感じた気持ちと同じだ。そうか、僕は、ルドを――――
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