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第30話 様子がおかしいっぽい その2
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話を聞き終えたとき、夢で見た光景に似ていると思った。『闇の神』が、夢の中のルドに似た男で、『妖精』が僕と身体を共有していた人だとしたら、伝承と夢の内容が一致するように思えた。
「んっ……!」
話し終えたハインツさんが、突然、僕の脇腹を撫でた。
「貴方の身体には、伝承に出てくる『妖精』の力が宿っています。その力は、『歌姫の力』とされるもので、自身の生命力を代償に、あらゆるものを再生することができるといわれています」
「ハインツさん、やめ――」
話しながらも彼は、僕の身体を撫でることを止めない。
「貴方に初めて出会った日のことを覚えていますか? 私は鮮明に覚えています。とても驚きました。私はあの日、酷い怪我を負っていたのです。そんな中、貴方の歌声が聞こえてきたと思ったら、信じられないことに、怪我がみるみる治っていくではありませんか! 古くに失われたと考えられていた歌姫の力を持つかもしれない者が、目の前にいたのです。私は迷わず、貴方に近づきました」
そうか、ハインツさんは、初めから、僕に不思議な力があるかもしれないと考えて近づいてきたんだ。今まで僕たちと一緒に旅をしてくれたのは、僕の力を確かめるためだったんだ。そう考えると、やたらと僕に歌を歌わせようとしたこれまでの行動とも辻褄が合う。
「この身体に、歌姫の力が宿っているなんて! なんと素晴らしい!!」
「や、ハインツさん、やめてください――!」
身体を撫でるハインツさんの手に、だんだんと力が籠る。
「何度も貴方の力を確かめましたが、確信を得るには至らなかったのです。しかし今日、伝承に登場する歌姫をお祀りするための衣装を着せ、伝承歌を歌わせてみるとどうでしょう! まるで目の前に、伝説の歌姫がいるようでしたよ」
今までの話で、ハインツさんが僕に、『歌姫の力』を使わせたがっているのは分かった。でも、どうしてなのだろう。
「私が貴方と出会ったとき、怪我を負っていたと言いましたね。その理由を教えて差し上げましょう。それは、元を辿ると、貴方の父、ディアーク王のせいなんですよ」
――!? ディアーク陛下のせいだって!?
「ディアーク王は魔法がとてもお嫌いな方でしてね。エルフ族は、人間族よりも多く魔力を持っており、魔法の扱いにも長けた種族です。そんな私たちエルフ族を、貴方のお父様は疎ましく思ったのでしょう。滅ぼそうとなさったんですよ。」
「そんな、嘘だ――んんーっ!」
「行儀の悪い人ですね。話は最後まで聞きなさい」
「んんーっ!んんーっ!」
どうやら、ハインツさんの魔法で、口を閉じられてしまったようだ。言葉を発することができなくなってしまった。
「それ以上ウィルに何かしてみろ! 貴様のその――」
「主人が主人なら、下僕も下僕だ。うるさくて仕方ない」
ルドも、同じく、魔法で口を閉じられてしまったようだ。それでも、鋭い眼光でハインツさんを睨んでいる。
「十七年前の大火は、ディアーク王の命で、エルフの里に火が放たれたことが原因なのです。当時は私たちも自然災害だと思っていましたが、後で調査したところ、なんと、リヒトリーベ王国が裏で手を引いていたことがわかりました。貴方の父親のせいで、どれだけのエルフ族が命を失ったと思いますか? あんなに美しかった緑豊かな里が、王の身勝手な行いで、一瞬にして焼け野原になったのです。私たちは誓いました。必ず復讐を果たすと」
そんなことが本当に……? 父親とは言え、ディアーク陛下とはほとんど接点がなかった。まさか、そんなことするはずないと言い返したかったけれど、本当にそう言い切れるだろうか。僕はそこまで、ディアーク王のことを知っているわけではなかった。
「この里に入ったとき、どう思いましたか? 美しかったでしょう? 貴方には少しずつ復興していると言いましたが、全て嘘です。焦土となった森を、たった十七年で、あそこまで復興できると、本気でお思いですか? あれは、私の魔法で、そのように見せていただけで、本当は今もまだ、荒れ果てた野原が広がるだけの土地なのですよ。周りをよくご覧なさい」
そう言われ、改めて、あたりを見渡すと、ハインツさんの言う通り、最初に見た湖や、色とりどりの花や生き物はなく、草ひとつ生えていない土地が広がっていた。その光景を見て、きっと、ハインツさんの言ったことは、全部本当なのだろうと思った。
「私たちは、第一王子の成人の儀で、王と王子二人を暗殺する計画を立てていました。しかし、王が第一王子の王位継承権剥奪を発表したせいで、忌々しいことに、第一王子がディアーク王を殺してしまいました。この手でディアーク王の息の根を止めることを夢見ていたのに、まさか暗殺対象の第一王子に手柄を奪われるとは不覚でした。せめて、その混乱に乗じて、二人の王子を暗殺しようと試みましたが、第一王子は何人もの取り巻きに守られ、貴方にはあの憎らしい護衛がついていました。長い年月をかけて綿密に立てた計画は失敗し、クーデターに巻き込まれて怪我を負った私たちは、一度撤退することにしたのです。そしてその翌日、活動拠点にしていたフライハルトに戻ってみると、偶然貴方を見つけました。暗殺対象の方からこちらへやってきてくれるとは、私は神に感謝しました。近くには護衛もおらず、暗殺を実行するには好都合でした。しかし、貴方の歌の力を目の当たりにして、その力を、エルフの里の再生に使わせようと思いついたのです。いかがです? 今の話を聞いて、貴方にはその力を使う義務があると思いませんか?」
――――僕は、ハインツさんの考えが理解できた。誰かのせいで大切なものを失ったとき、その原因となった人を恨むきもちはよくわかる。僕が、前世の父を轢いた車の運転手を恨んだように、母と弟が、その原因をつくった僕を恨んだように。
「んっ……!」
話し終えたハインツさんが、突然、僕の脇腹を撫でた。
「貴方の身体には、伝承に出てくる『妖精』の力が宿っています。その力は、『歌姫の力』とされるもので、自身の生命力を代償に、あらゆるものを再生することができるといわれています」
「ハインツさん、やめ――」
話しながらも彼は、僕の身体を撫でることを止めない。
「貴方に初めて出会った日のことを覚えていますか? 私は鮮明に覚えています。とても驚きました。私はあの日、酷い怪我を負っていたのです。そんな中、貴方の歌声が聞こえてきたと思ったら、信じられないことに、怪我がみるみる治っていくではありませんか! 古くに失われたと考えられていた歌姫の力を持つかもしれない者が、目の前にいたのです。私は迷わず、貴方に近づきました」
そうか、ハインツさんは、初めから、僕に不思議な力があるかもしれないと考えて近づいてきたんだ。今まで僕たちと一緒に旅をしてくれたのは、僕の力を確かめるためだったんだ。そう考えると、やたらと僕に歌を歌わせようとしたこれまでの行動とも辻褄が合う。
「この身体に、歌姫の力が宿っているなんて! なんと素晴らしい!!」
「や、ハインツさん、やめてください――!」
身体を撫でるハインツさんの手に、だんだんと力が籠る。
「何度も貴方の力を確かめましたが、確信を得るには至らなかったのです。しかし今日、伝承に登場する歌姫をお祀りするための衣装を着せ、伝承歌を歌わせてみるとどうでしょう! まるで目の前に、伝説の歌姫がいるようでしたよ」
今までの話で、ハインツさんが僕に、『歌姫の力』を使わせたがっているのは分かった。でも、どうしてなのだろう。
「私が貴方と出会ったとき、怪我を負っていたと言いましたね。その理由を教えて差し上げましょう。それは、元を辿ると、貴方の父、ディアーク王のせいなんですよ」
――!? ディアーク陛下のせいだって!?
「ディアーク王は魔法がとてもお嫌いな方でしてね。エルフ族は、人間族よりも多く魔力を持っており、魔法の扱いにも長けた種族です。そんな私たちエルフ族を、貴方のお父様は疎ましく思ったのでしょう。滅ぼそうとなさったんですよ。」
「そんな、嘘だ――んんーっ!」
「行儀の悪い人ですね。話は最後まで聞きなさい」
「んんーっ!んんーっ!」
どうやら、ハインツさんの魔法で、口を閉じられてしまったようだ。言葉を発することができなくなってしまった。
「それ以上ウィルに何かしてみろ! 貴様のその――」
「主人が主人なら、下僕も下僕だ。うるさくて仕方ない」
ルドも、同じく、魔法で口を閉じられてしまったようだ。それでも、鋭い眼光でハインツさんを睨んでいる。
「十七年前の大火は、ディアーク王の命で、エルフの里に火が放たれたことが原因なのです。当時は私たちも自然災害だと思っていましたが、後で調査したところ、なんと、リヒトリーベ王国が裏で手を引いていたことがわかりました。貴方の父親のせいで、どれだけのエルフ族が命を失ったと思いますか? あんなに美しかった緑豊かな里が、王の身勝手な行いで、一瞬にして焼け野原になったのです。私たちは誓いました。必ず復讐を果たすと」
そんなことが本当に……? 父親とは言え、ディアーク陛下とはほとんど接点がなかった。まさか、そんなことするはずないと言い返したかったけれど、本当にそう言い切れるだろうか。僕はそこまで、ディアーク王のことを知っているわけではなかった。
「この里に入ったとき、どう思いましたか? 美しかったでしょう? 貴方には少しずつ復興していると言いましたが、全て嘘です。焦土となった森を、たった十七年で、あそこまで復興できると、本気でお思いですか? あれは、私の魔法で、そのように見せていただけで、本当は今もまだ、荒れ果てた野原が広がるだけの土地なのですよ。周りをよくご覧なさい」
そう言われ、改めて、あたりを見渡すと、ハインツさんの言う通り、最初に見た湖や、色とりどりの花や生き物はなく、草ひとつ生えていない土地が広がっていた。その光景を見て、きっと、ハインツさんの言ったことは、全部本当なのだろうと思った。
「私たちは、第一王子の成人の儀で、王と王子二人を暗殺する計画を立てていました。しかし、王が第一王子の王位継承権剥奪を発表したせいで、忌々しいことに、第一王子がディアーク王を殺してしまいました。この手でディアーク王の息の根を止めることを夢見ていたのに、まさか暗殺対象の第一王子に手柄を奪われるとは不覚でした。せめて、その混乱に乗じて、二人の王子を暗殺しようと試みましたが、第一王子は何人もの取り巻きに守られ、貴方にはあの憎らしい護衛がついていました。長い年月をかけて綿密に立てた計画は失敗し、クーデターに巻き込まれて怪我を負った私たちは、一度撤退することにしたのです。そしてその翌日、活動拠点にしていたフライハルトに戻ってみると、偶然貴方を見つけました。暗殺対象の方からこちらへやってきてくれるとは、私は神に感謝しました。近くには護衛もおらず、暗殺を実行するには好都合でした。しかし、貴方の歌の力を目の当たりにして、その力を、エルフの里の再生に使わせようと思いついたのです。いかがです? 今の話を聞いて、貴方にはその力を使う義務があると思いませんか?」
――――僕は、ハインツさんの考えが理解できた。誰かのせいで大切なものを失ったとき、その原因となった人を恨むきもちはよくわかる。僕が、前世の父を轢いた車の運転手を恨んだように、母と弟が、その原因をつくった僕を恨んだように。
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