『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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■第3話『レシピノートと、魔力で動く泡立て器』

 *

 朝のしろくま通りは、思った以上ににぎやかだった。

 石畳を踏む馬車の音、八百屋のおばさんの元気な声、
 焼きたてのパンの匂い――
 久しぶりに“生きてる”ことを実感できる、そんな空気。

「さて、と……今日の目標は、道具とノート」

 お菓子を作るには、材料はもちろん、型やボウル、泡立て器にヘラ……。
 最低限の道具がそろわないと、何も始まらない。

 お店の区画を抜けて、道具屋と文具店が並ぶ通りへ足を運ぶ。
 中でも気になったのは、小さな魔導道具専門店のウィンドウに並ぶ道具たち。

(魔法で動く泡立て器……!)

 その中のひとつ、小ぶりな泡立て器が目を引いた。
 “微魔力起動型”と書かれた札がついている。

 この世界の人たちは「属性魔法」や「戦闘魔法」に意識が向きがちだけど、
 生活の中で使われている道具のほとんどは、“微々たる魔力”で動くものが多い。

 私の魔力量は少なめらしいけれど、点火系の初歩魔法はかろうじて扱えた。
 これくらいなら、たぶん問題ないはず。

「……ください、この泡立て器と、木ベラと、焼き型もひとつ」

 お店の人はちょっと意外そうな顔をしながらも、てきぱきと包んでくれた。

 そのあと立ち寄った文具店では、羊皮紙のノートと、魔力インクのペンを購入。
 少し高かったけれど、これはどうしても譲れなかった。

「……これに、書こう」

 まだお店の看板すらないけれど、私はこのノートを“はじまり”にしようと思った。

 *

 帰り道、ピノ用におやつ代わりの小魚入りパンを買って帰宅すると、
 古家の中はまだひんやりと静かだった。

「ただいま、ピノ」

「……ぴ」

 ちょこんと玄関まで出てきたピノにパンを渡しながら、
 私は机にノートを広げ、ペンを手に取った。

 ゆっくりと――でも確かな手つきで、最初の1行を書き出す。



■リィナの書くノートの冒頭(描写)

 《基本のカスタードプリン》
 ・卵 ・牛乳 ・砂糖
 ・バニラエッセンス(こっちの世界にあるかな?)
 → 湯煎でじっくり焼く。固めが好き。



「……うん、こんな感じ。ちゃんと覚えてる」

 思い出すたびに、病室のテレビと、図書室のレシピ本が浮かぶ。
 それが、今この世界で生きる“糧”になるなんて、思いもしなかった。

 ふと、ピノがノートを覗き込んでくる。

「ぴ?」

「うん、プリンだよ。……もう少しだけ、準備したら作れるかも」

 新しいページをめくる音が、静かな家に心地よく響いた。
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