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1章
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■第2話『はじめまして、ピノ』
*
暖炉に火を入れ、湯を沸かして、古いソファに毛布をかけて。
魔物の体は人間の子どもより小さいけれど、どこか体温を感じさせた。
「氷魔属性……なのかな? 冷たいけど、まだ温かい。よかった……」
擦りむいたような傷、羽に小さな裂け目。
なにかに追われたのか、それとも捨てられたのか。
この世界に来てから何度か魔物を見たことはあったけれど、
目の前のペンギンのような魔物は、どこか異質だった。
私は台所にあったボウルにぬるま湯を張り、そこにタオルを浸してから固く絞る。
ふわふわの毛並みを傷つけないように、そっと撫でるように拭ってやると、魔物はうっすらと目を開けた。
「……ぴ、ぴ」
「目、覚めた?」
ゆっくりとまばたきをして、魔物は私の顔をじっと見つめてくる。
――観察されている。そんな気がした。
でもそれは敵意のあるものではなく、
まるで「この人は大丈夫か」をじっくり見極めているような、そんな目。
「私はリィナ。ここで暮らすの。……ごめんね、何もできないけど」
ふっと、小さな鼻息が返ってくる。
「……ぴの」
「……え?」
私は思わず耳を疑った。
「いま、“ピノ”って……」
「ぴ、の」
確かに聞こえた。ぴの。
小さな声で、自分の名前を名乗るように。
「……ピノ。うん、ぴったりだね」
私は微笑んだ。
誰かと“名前を交わす”なんて、どれくらいぶりだろう。
家族にすら、名前で呼ばれた記憶なんて数えるほどしかなかった。
「よろしくね、ピノ。しばらく、ここでゆっくりしていいよ」
小さく、小さく――ピノがうなずいた。
*
その夜、私は古びたキッチンに立って、鍋を温めながら考えていた。
お菓子を作るには、道具も、材料も、まだまだ足りない。
でも、前世で見た“憧れ”は、この手の中にまだ残っている。
私は病室の中で、いつか誰かにお菓子を作って、笑ってもらうことを夢見ていた。
ピノが私の足元で丸くなる。
その小さな寝息を聞きながら、私は心の中で、そっと決意した。
「――ここで、お菓子屋さんをやろう」
それは小さな願い。
でも、私にとっては、たしかな“はじまり”だった。
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暖炉に火を入れ、湯を沸かして、古いソファに毛布をかけて。
魔物の体は人間の子どもより小さいけれど、どこか体温を感じさせた。
「氷魔属性……なのかな? 冷たいけど、まだ温かい。よかった……」
擦りむいたような傷、羽に小さな裂け目。
なにかに追われたのか、それとも捨てられたのか。
この世界に来てから何度か魔物を見たことはあったけれど、
目の前のペンギンのような魔物は、どこか異質だった。
私は台所にあったボウルにぬるま湯を張り、そこにタオルを浸してから固く絞る。
ふわふわの毛並みを傷つけないように、そっと撫でるように拭ってやると、魔物はうっすらと目を開けた。
「……ぴ、ぴ」
「目、覚めた?」
ゆっくりとまばたきをして、魔物は私の顔をじっと見つめてくる。
――観察されている。そんな気がした。
でもそれは敵意のあるものではなく、
まるで「この人は大丈夫か」をじっくり見極めているような、そんな目。
「私はリィナ。ここで暮らすの。……ごめんね、何もできないけど」
ふっと、小さな鼻息が返ってくる。
「……ぴの」
「……え?」
私は思わず耳を疑った。
「いま、“ピノ”って……」
「ぴ、の」
確かに聞こえた。ぴの。
小さな声で、自分の名前を名乗るように。
「……ピノ。うん、ぴったりだね」
私は微笑んだ。
誰かと“名前を交わす”なんて、どれくらいぶりだろう。
家族にすら、名前で呼ばれた記憶なんて数えるほどしかなかった。
「よろしくね、ピノ。しばらく、ここでゆっくりしていいよ」
小さく、小さく――ピノがうなずいた。
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その夜、私は古びたキッチンに立って、鍋を温めながら考えていた。
お菓子を作るには、道具も、材料も、まだまだ足りない。
でも、前世で見た“憧れ”は、この手の中にまだ残っている。
私は病室の中で、いつか誰かにお菓子を作って、笑ってもらうことを夢見ていた。
ピノが私の足元で丸くなる。
その小さな寝息を聞きながら、私は心の中で、そっと決意した。
「――ここで、お菓子屋さんをやろう」
それは小さな願い。
でも、私にとっては、たしかな“はじまり”だった。
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