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2章
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■第10話『やさしいゼリーと、ちょっと天然なわたし』
*
「……あれ? ゼリー、ゆるすぎた?」
リィナはスプーンでそっとすくいながら、やや首を傾げた。
新しく試してみたのは“とろけるゼリー”。
口の中でさらりとほどけるような食感にしようと、凝固草の量を微調整したのだ。
見た目はいい。香りもいい。けれど――
「……スプーンで持ち上げると、すぐに逃げちゃう……」
スルンッ!
ぴちゃ、と流れるゼリー。
「……もしかして、これ、飲み物?」
「ぴ……」
ピノが、明らかに“呆れと笑い”の中間の顔をしてこちらを見ている。
「でも、味はいいんだよ?」
言い訳のように一口食べてみると、ピノもため息をつきながら一口。
「ぴっ」
「うん……“おいしいけど形にならない”って感じ、だね……」
ゼリー作りは、今日も試行錯誤の連続だった。
*
その午後。開店準備をしていると、雑貨屋のマダムがふらりと現れた。
「あなたのゼリー、今度の町の“おやつ市”に出してみたらどうかしら?」
「……おやつ市?」
「そうよ。町の小さなお店が、お菓子やパンを出して競うお祭りみたいなもの。
賞なんてどうでもいいけど、知ってもらうきっかけにはなると思うわよ」
リィナはぽかんとしながら聞いていた。
「……でも、わたし、お店屋さんはじめたばかりだし……その、“市”って、免許とか要りますか?」
「……免許? いえ、屋台の出店登録だけよ?」
「そっか……よかった。免許証持ってないから出られないかと思って」
「……この世界に“免許証”なんてないわよ、リィナちゃん」
そう言ってマダムは笑いながら、肩をすくめた。
ピノが、机の下で軽く頭をぶつけてコツンと音を立てた。
それがなんだか、「またか……」とつぶやいているようで、リィナは顔を赤らめる。
「……前の世界の、クセ……」
*
その日の夕方。扉を叩く音に気づいて顔を上げると、やっぱり――
「こんにちは。また新しい香りですね」
「……あ、はい、ちょっと“飲めるゼリー”になっちゃいました」
「飲めるゼリー……それはそれで、ありかもしれませんね」
レオは微笑みながら、店内に入ってきた。
「おやつ市」の話をぽろりと漏らすと、レオはスプーンを手にしながら、優しく一言。
「無理に目立つ必要はありません。……でも、あなたの味が広がるのは、悪くないと思います」
「……ありがとうございます。なんか、ちょっと怖いけど、がんばってみようかな」
ピノは、レオとリィナを交互に見ながら、ふっと小さく羽を揺らした。
(やれやれ、と言いたげ……でも、ちょっと嬉しそう)
そんな様子を見て、リィナはふと思った。
「……あの、“おやつ市”って、仮装とかした方がいいのかな?
お祭りって、たいてい仮装あるよね?」
「……いえ、たぶん普通の屋台で大丈夫ですよ」
「そっか……じゃあ、うっかりピノにマントつけて出すところだった……」
「ぴぴ!?」
ピノが大きく羽を広げて抗議の姿勢を見せる。
レオは、そんな光景を見ながら、いつもの笑みを浮かべた。
その視線の奥にあるものは――やっぱりまだ、リィナには見えない。
*
「……あれ? ゼリー、ゆるすぎた?」
リィナはスプーンでそっとすくいながら、やや首を傾げた。
新しく試してみたのは“とろけるゼリー”。
口の中でさらりとほどけるような食感にしようと、凝固草の量を微調整したのだ。
見た目はいい。香りもいい。けれど――
「……スプーンで持ち上げると、すぐに逃げちゃう……」
スルンッ!
ぴちゃ、と流れるゼリー。
「……もしかして、これ、飲み物?」
「ぴ……」
ピノが、明らかに“呆れと笑い”の中間の顔をしてこちらを見ている。
「でも、味はいいんだよ?」
言い訳のように一口食べてみると、ピノもため息をつきながら一口。
「ぴっ」
「うん……“おいしいけど形にならない”って感じ、だね……」
ゼリー作りは、今日も試行錯誤の連続だった。
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その午後。開店準備をしていると、雑貨屋のマダムがふらりと現れた。
「あなたのゼリー、今度の町の“おやつ市”に出してみたらどうかしら?」
「……おやつ市?」
「そうよ。町の小さなお店が、お菓子やパンを出して競うお祭りみたいなもの。
賞なんてどうでもいいけど、知ってもらうきっかけにはなると思うわよ」
リィナはぽかんとしながら聞いていた。
「……でも、わたし、お店屋さんはじめたばかりだし……その、“市”って、免許とか要りますか?」
「……免許? いえ、屋台の出店登録だけよ?」
「そっか……よかった。免許証持ってないから出られないかと思って」
「……この世界に“免許証”なんてないわよ、リィナちゃん」
そう言ってマダムは笑いながら、肩をすくめた。
ピノが、机の下で軽く頭をぶつけてコツンと音を立てた。
それがなんだか、「またか……」とつぶやいているようで、リィナは顔を赤らめる。
「……前の世界の、クセ……」
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その日の夕方。扉を叩く音に気づいて顔を上げると、やっぱり――
「こんにちは。また新しい香りですね」
「……あ、はい、ちょっと“飲めるゼリー”になっちゃいました」
「飲めるゼリー……それはそれで、ありかもしれませんね」
レオは微笑みながら、店内に入ってきた。
「おやつ市」の話をぽろりと漏らすと、レオはスプーンを手にしながら、優しく一言。
「無理に目立つ必要はありません。……でも、あなたの味が広がるのは、悪くないと思います」
「……ありがとうございます。なんか、ちょっと怖いけど、がんばってみようかな」
ピノは、レオとリィナを交互に見ながら、ふっと小さく羽を揺らした。
(やれやれ、と言いたげ……でも、ちょっと嬉しそう)
そんな様子を見て、リィナはふと思った。
「……あの、“おやつ市”って、仮装とかした方がいいのかな?
お祭りって、たいてい仮装あるよね?」
「……いえ、たぶん普通の屋台で大丈夫ですよ」
「そっか……じゃあ、うっかりピノにマントつけて出すところだった……」
「ぴぴ!?」
ピノが大きく羽を広げて抗議の姿勢を見せる。
レオは、そんな光景を見ながら、いつもの笑みを浮かべた。
その視線の奥にあるものは――やっぱりまだ、リィナには見えない。
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