『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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2章

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■第9話『こどもとゼリーと、静かな騎士』

 *

 朝、カウンターに並んだのは、ころんと丸いガラス瓶が三つ。

 《ピノのちいさなゼリー》
 タグにはそう書いて、リボンも一つひとつ丁寧に結んだ。

「ぴ」

 ピノが看板横で誇らしげに座る。
 まるで「これは私のゼリーです」とでも言いたげな様子だった。

 リィナは思わず微笑みながら、扉を開ける。

「よし、今日もいってみよう」

 *

 「こんにちはーっ!」

 その声とともに駆け込んできたのは、町に住む二人組の子どもたちだった。

 一人は赤毛の元気な男の子、もう一人はおさげ髪の女の子。
 どうやら近くのパン屋さんの子どもらしい。

「これが“ぴのゼリー”? 昨日、おばさんが食べてたの見たー!」

「まるくて、かわいい!」

 リィナが差し出すと、二人は目を輝かせながら瓶を抱え込んだ。
 ガラス越しにのぞくゼリーは、陽の光で金色に透けて見える。

「すごーい……これ、つるつるしてるー!」

「飲みものみたいなのに、食べられるって変なかんじ!」

 スプーンで一口食べた男の子が、目を丸くする。

「つめたくて……ふわふわ?」

「なんか、ピノみたい……!」

 リィナはくすくすと笑って、そっと一言だけ添えた。

「ピノをイメージして作ったから、そう言ってもらえると嬉しいな」

「ほんとに!? じゃあ、“ぴのぴのゼリー”って呼ぼーっと!」

「やだ、それちょっと言いにくいよ!」

 楽しげに騒ぐ子どもたちを見ながら、リィナは心の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。

 自分が作ったもので、誰かが笑ってくれる――
 それが、何より幸せだった。

 *

 「――……あっ」

 女の子が、空になったゼリー瓶をうっかり落としてしまった。

 ころん、と転がった瓶がカチンと石床に当たる音。
 思わずリィナが手を伸ばすよりも早く――

「気をつけて。割れものですから」

 誰かの手が、すっと瓶を拾い上げた。

 リィナが顔を上げると、そこにいたのは、やっぱり――

「……レオさん」

「こんにちは。今日も、癒しを求めてきました」

 いつもの笑み。でも、瓶を拾ったその手つきは、騎士のように迷いがなく正確だった。

「ぴ……」

 ピノが、わずかに身構える。
 ――ピノはずっと、この人を警戒している。

(でも、悪い人には見えないのに)

 「ゼリーもあるんですね。新作ですか?」

「はい。ピノのために作ってみました」

「そうですか。……“誰かのために作るもの”は、きっと長く愛されますよ」

 静かな口調でそう言うレオは、やっぱりどこか遠い場所を見ているようだった。

「ぴぴ……」

 ピノがくちばしを鳴らす。
 その音に、レオが一瞬だけ表情をゆるめた気がした。

「また、来てもいいですか?」

「……はい。よければ、いつでも」

 レオはゼリーの瓶をそっと受け取り、そして――
 店の扉を静かに閉じて去っていった。

 *

 夕暮れ、子どもたちが帰ったあとの静けさの中。

 リィナは空になったゼリー瓶を洗いながら、ふと思った。

「……“誰かのために”って、いい言葉だね」

 ピノがキッチンに入ってきて、ぽすんと足元に座る。

「ぴ?」

「ううん、なんでもない。ちょっとだけ、嬉しくなっただけ」

 リィナはノートを開いて、今日の記録を書く。

《ピノのちいさなゼリー》
《瓶は割れやすいので注意。子どもたちの手でも持ちやすい形を探す?》

 新しい一歩は、小さなゼリーのように――ころんと、透明で、まぶしい。
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