『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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2章

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■第8話『ピノのゼリーと、ころんとガラスの器』

 *

「……やっぱり、ゼリーを作ってみたいな」

 プリンの評判が広がるにつれ、リィナの心にはひとつの想いが生まれていた。

 “ピノのために、何かを作りたい。”

 冷たいものが好きなピノは、プリンよりも水分の多い食べ物のほうが嬉しそうに見える。
 それに――夏に向けて、さっぱりとしたおやつも必要になる。

「フルーツがあれば、甘くてきれいなゼリーができるかも。お砂糖と……あとは、ゼラチンの代わりになるものが……」

 リィナはレシピノートを開きながら、棚に残っていた果物を取り出す。
 市場で買ったばかりの、琥珀色の小さな柑橘。ほんのり甘酸っぱい香りがする。

 *

 魔力をほんの少しだけ使って、火加減を調整しながら果汁を煮詰めていく。
 この世界では「凝固草の樹液」がゼラチンの代用になることを思い出し、少しずつ加えて試す。

「……これで、固まってくれたらいいんだけど」

 透明なガラスの小瓶に、金色の液体をそっと流し込む。
 そして冷やしているあいだ――ピノが、くんくんと香りをかぎながら横で見守っていた。

「ぴ?」

「うん、もうすぐできるよ」

 リィナは、ふと思いついて、小瓶のふちに小さなリボンを巻いた。

 細い麻紐に、ベージュの布で作った小さな蝶結び。
 ほんのひと手間で、“売り物”じゃなくて“贈り物”のように見える。

「……よし、かわいい」

 ころん、としたガラスの丸い瓶に、金色のゼリーと、リボン。
 まるで、ピノそのもののような形だった。

「名前、どうしようか」

 そう呟くと、ピノがぺたりと机に座り込んで、小さく鳴いた。

「“ピノのちいさなゼリー”……なんて、どう?」

 ぴっ。

 ピノが、くちばしで瓶をちょんとつついた。
 まるで「それで決まり」と言ってくれたみたいだった。

 *

 その午後、ひとつだけ作ったゼリーを試食してみる。

 果汁の甘さと、ほどよいぷるぷる感。
 冷たくて、でも優しい。口に入れると、すっと溶けて消える。

「……うん、おいしい。これは、夏の定番になれるかも」

 カラメルの香ばしいプリンとはまた違う、すっきりとした甘さ。

「これ、ピノも食べる?」

「ぴぴ!」

 小さなスプーンにほんの少しだけすくって差し出すと、ピノは嬉しそうにぺろりと舐めた。
 そして――羽をばたばたと動かして、ころころと転がるように回り始める。

「ふふ……気に入ってくれた?」

 ゼリーは、“はじまりのプリン”に次ぐ、看板商品になりそうだった。

 *

 次の日。瓶詰めにしたゼリーを三つだけ、カウンターに並べてみた。

 《ピノのちいさなゼリー》――金色の札と、リボンつきの瓶。

 それは、ただのお菓子じゃなくて、
 リィナの“ありがとう”を形にしたようなものだった。
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