『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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2章

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■第11話『おやつ市と、はじめてのライバル?』

 *

 「これが……おやつ市の、出店申請書……」

 雑貨屋のマダムに手伝ってもらいながら、リィナは机に広げられた書類と格闘していた。

「出店名は、“しろくま通りのピノ屋さん”でいいわね?」
「はい! ……あ、でも、ピノの名前を使ってもいいのかな?」
「使ってるわよ、もうずっと看板に」

「そっか……!」

 マダムが横で笑いをこらえるなか、ピノはソファでくるっと丸まって寝返りを打った。

 リィナは少し照れながら、申請用紙に自分の名前を書き込む。
 前世では「外に出ること」さえままならなかった自分が――
 今こうして、誰かに支えられて“おやつ屋さん”として一歩踏み出している。

「よーし……出店、決まりました」

「がんばってね、リィナちゃん。お客さん、たくさん来るわよ」

 マダムの言葉に、嬉しいような、不安なような、
 でも確かな“期待”が胸に広がった。

 *

 出店を決めた翌日。リィナは市場へ、新しい瓶とラッピング素材を探しに行った。

 ゼリーを目に留めた人が、見た目でも「かわいい」と思ってくれるように。
 ピノのように、ころんとしてて、まあるい幸せが詰まっているようなゼリーにしたい。

「……あ、このガラス瓶かわいい……」

 丸くてちょっと平たい形。
 ふたには花の模様が刻まれていて、どこか懐かしさとあたたかさを感じさせる。

 抱えるように瓶を選んでいると――ふと、背後から声がした。

「それ、他にも目をつけてたのに。……先を越されたなぁ」

「えっ、ご、ごめんなさい!」

 あわてて振り返ったリィナの前に立っていたのは、
 栗色の髪をポニーテールに結った、活発そうな女の子だった。

 エプロン姿に、両手は買い出し袋。
 ……どう見ても、自分と同じ“出店側”の雰囲気。

「あ、ううん、怒ってないって。びっくりしただけ」

 にこっと笑ったその子は、リィナの腕に抱えられた瓶を見て言った。

「もしかして……おやつ市に出す人?」

「はい。……“しろくま通りのピノ屋さん”っていう、小さなお店で……」

「え! あの“プリンの”? 噂になってるよ! 子どもたちが“ぷるぷるぷりんのぴのやさん”って言ってた!」

「そ、そんな風に……!?」

「ふふ、うちも負けてられないなぁ。私は“はちみつ焼き”の屋台、“みつば堂”っていうの」

 その子――エルナは、明るくて、気さくで、まっすぐな目をしていた。
 敵対心なんて一切ないけれど、それでもリィナはちょっとだけドキドキしてしまう。

(わたし、こういう子……ちょっとまぶしい……)

「でも、ゼリーって珍しいし、見た目もかわいいし、絶対人気出ると思うよ」

「……ありがとう。エルナさんも、がんばってくださいね」

「うん! 会場で会えたら、ゼリーと焼き菓子交換しよ!」

 元気に手を振って去っていったエルナを見送りながら、
 リィナは、ほんのり心が温かくなるのを感じた。

 競い合うというより、支え合う。
 きっとそれが、この“おやつ市”の空気なんだ。

 *

 その夜。いつものようにプリンとゼリーを少しだけ仕込みながら、
 リィナはピノにぽつりとつぶやいた。

「……私、今ちょっとだけ、“モブ”じゃない気がするよ」

「ぴ?」

「目立ちたいわけじゃないけど……誰かと関わって、誰かの記憶に残るのって、悪くないなって」

 ピノはゆっくりとまばたきして、そっとリィナの足元に寄り添った。

「ありがとう、ピノ。……がんばってみるね」

 そしてその夜――

 しろくま通りの外れ、少し高い建物の屋上から、
 誰かが小さな店を見下ろしていた。

「……ピノ屋、ね。なるほど……確かに、特別な匂いがする」

 白いフードをかぶったその影は、風に消えるように姿を消した。

 おやつ市に向けて、リィナの“ちいさな挑戦”が動き出す――。
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