12 / 146
2章
4
しおりを挟む
■第11話『おやつ市と、はじめてのライバル?』
*
「これが……おやつ市の、出店申請書……」
雑貨屋のマダムに手伝ってもらいながら、リィナは机に広げられた書類と格闘していた。
「出店名は、“しろくま通りのピノ屋さん”でいいわね?」
「はい! ……あ、でも、ピノの名前を使ってもいいのかな?」
「使ってるわよ、もうずっと看板に」
「そっか……!」
マダムが横で笑いをこらえるなか、ピノはソファでくるっと丸まって寝返りを打った。
リィナは少し照れながら、申請用紙に自分の名前を書き込む。
前世では「外に出ること」さえままならなかった自分が――
今こうして、誰かに支えられて“おやつ屋さん”として一歩踏み出している。
「よーし……出店、決まりました」
「がんばってね、リィナちゃん。お客さん、たくさん来るわよ」
マダムの言葉に、嬉しいような、不安なような、
でも確かな“期待”が胸に広がった。
*
出店を決めた翌日。リィナは市場へ、新しい瓶とラッピング素材を探しに行った。
ゼリーを目に留めた人が、見た目でも「かわいい」と思ってくれるように。
ピノのように、ころんとしてて、まあるい幸せが詰まっているようなゼリーにしたい。
「……あ、このガラス瓶かわいい……」
丸くてちょっと平たい形。
ふたには花の模様が刻まれていて、どこか懐かしさとあたたかさを感じさせる。
抱えるように瓶を選んでいると――ふと、背後から声がした。
「それ、他にも目をつけてたのに。……先を越されたなぁ」
「えっ、ご、ごめんなさい!」
あわてて振り返ったリィナの前に立っていたのは、
栗色の髪をポニーテールに結った、活発そうな女の子だった。
エプロン姿に、両手は買い出し袋。
……どう見ても、自分と同じ“出店側”の雰囲気。
「あ、ううん、怒ってないって。びっくりしただけ」
にこっと笑ったその子は、リィナの腕に抱えられた瓶を見て言った。
「もしかして……おやつ市に出す人?」
「はい。……“しろくま通りのピノ屋さん”っていう、小さなお店で……」
「え! あの“プリンの”? 噂になってるよ! 子どもたちが“ぷるぷるぷりんのぴのやさん”って言ってた!」
「そ、そんな風に……!?」
「ふふ、うちも負けてられないなぁ。私は“はちみつ焼き”の屋台、“みつば堂”っていうの」
その子――エルナは、明るくて、気さくで、まっすぐな目をしていた。
敵対心なんて一切ないけれど、それでもリィナはちょっとだけドキドキしてしまう。
(わたし、こういう子……ちょっとまぶしい……)
「でも、ゼリーって珍しいし、見た目もかわいいし、絶対人気出ると思うよ」
「……ありがとう。エルナさんも、がんばってくださいね」
「うん! 会場で会えたら、ゼリーと焼き菓子交換しよ!」
元気に手を振って去っていったエルナを見送りながら、
リィナは、ほんのり心が温かくなるのを感じた。
競い合うというより、支え合う。
きっとそれが、この“おやつ市”の空気なんだ。
*
その夜。いつものようにプリンとゼリーを少しだけ仕込みながら、
リィナはピノにぽつりとつぶやいた。
「……私、今ちょっとだけ、“モブ”じゃない気がするよ」
「ぴ?」
「目立ちたいわけじゃないけど……誰かと関わって、誰かの記憶に残るのって、悪くないなって」
ピノはゆっくりとまばたきして、そっとリィナの足元に寄り添った。
「ありがとう、ピノ。……がんばってみるね」
そしてその夜――
しろくま通りの外れ、少し高い建物の屋上から、
誰かが小さな店を見下ろしていた。
「……ピノ屋、ね。なるほど……確かに、特別な匂いがする」
白いフードをかぶったその影は、風に消えるように姿を消した。
おやつ市に向けて、リィナの“ちいさな挑戦”が動き出す――。
*
「これが……おやつ市の、出店申請書……」
雑貨屋のマダムに手伝ってもらいながら、リィナは机に広げられた書類と格闘していた。
「出店名は、“しろくま通りのピノ屋さん”でいいわね?」
「はい! ……あ、でも、ピノの名前を使ってもいいのかな?」
「使ってるわよ、もうずっと看板に」
「そっか……!」
マダムが横で笑いをこらえるなか、ピノはソファでくるっと丸まって寝返りを打った。
リィナは少し照れながら、申請用紙に自分の名前を書き込む。
前世では「外に出ること」さえままならなかった自分が――
今こうして、誰かに支えられて“おやつ屋さん”として一歩踏み出している。
「よーし……出店、決まりました」
「がんばってね、リィナちゃん。お客さん、たくさん来るわよ」
マダムの言葉に、嬉しいような、不安なような、
でも確かな“期待”が胸に広がった。
*
出店を決めた翌日。リィナは市場へ、新しい瓶とラッピング素材を探しに行った。
ゼリーを目に留めた人が、見た目でも「かわいい」と思ってくれるように。
ピノのように、ころんとしてて、まあるい幸せが詰まっているようなゼリーにしたい。
「……あ、このガラス瓶かわいい……」
丸くてちょっと平たい形。
ふたには花の模様が刻まれていて、どこか懐かしさとあたたかさを感じさせる。
抱えるように瓶を選んでいると――ふと、背後から声がした。
「それ、他にも目をつけてたのに。……先を越されたなぁ」
「えっ、ご、ごめんなさい!」
あわてて振り返ったリィナの前に立っていたのは、
栗色の髪をポニーテールに結った、活発そうな女の子だった。
エプロン姿に、両手は買い出し袋。
……どう見ても、自分と同じ“出店側”の雰囲気。
「あ、ううん、怒ってないって。びっくりしただけ」
にこっと笑ったその子は、リィナの腕に抱えられた瓶を見て言った。
「もしかして……おやつ市に出す人?」
「はい。……“しろくま通りのピノ屋さん”っていう、小さなお店で……」
「え! あの“プリンの”? 噂になってるよ! 子どもたちが“ぷるぷるぷりんのぴのやさん”って言ってた!」
「そ、そんな風に……!?」
「ふふ、うちも負けてられないなぁ。私は“はちみつ焼き”の屋台、“みつば堂”っていうの」
その子――エルナは、明るくて、気さくで、まっすぐな目をしていた。
敵対心なんて一切ないけれど、それでもリィナはちょっとだけドキドキしてしまう。
(わたし、こういう子……ちょっとまぶしい……)
「でも、ゼリーって珍しいし、見た目もかわいいし、絶対人気出ると思うよ」
「……ありがとう。エルナさんも、がんばってくださいね」
「うん! 会場で会えたら、ゼリーと焼き菓子交換しよ!」
元気に手を振って去っていったエルナを見送りながら、
リィナは、ほんのり心が温かくなるのを感じた。
競い合うというより、支え合う。
きっとそれが、この“おやつ市”の空気なんだ。
*
その夜。いつものようにプリンとゼリーを少しだけ仕込みながら、
リィナはピノにぽつりとつぶやいた。
「……私、今ちょっとだけ、“モブ”じゃない気がするよ」
「ぴ?」
「目立ちたいわけじゃないけど……誰かと関わって、誰かの記憶に残るのって、悪くないなって」
ピノはゆっくりとまばたきして、そっとリィナの足元に寄り添った。
「ありがとう、ピノ。……がんばってみるね」
そしてその夜――
しろくま通りの外れ、少し高い建物の屋上から、
誰かが小さな店を見下ろしていた。
「……ピノ屋、ね。なるほど……確かに、特別な匂いがする」
白いフードをかぶったその影は、風に消えるように姿を消した。
おやつ市に向けて、リィナの“ちいさな挑戦”が動き出す――。
284
あなたにおすすめの小説
【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。
王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。
戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。
彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。
奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、
彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。
「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」
騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。
これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~
チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。
-----
感想送っていただいている皆様へ
たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。
成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる