『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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2章

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■第13話『おやつ市、開幕!』

 *

 朝の陽ざしが、しろくま通りを眩しく照らしていた。

 普段は静かな通りも、この日ばかりは人の波と色とりどりのテントでにぎわっている。
 焼き菓子の甘い香り、パンの香ばしさ、果物の匂い――まるで空気がおやつでできているみたい。

 その中の一角。
 丸い木の看板が掲げられた、小さなテントの前で、リィナは何度も深呼吸していた。

「ピノ屋さん、準備できてる?」

「ぴぴっ!」

 ピノが胸を張るようにぴょこんと跳ねる。
 店先には、ころんと並んだ“はじまりのプリン”と“ピノのちいさなゼリー”。

 手描きの札とリボン、ガラス瓶。
 どこか素朴で、だけど心が和むような風景。

「大丈夫、大丈夫……今日だけは、ちゃんと“お店の人”するんだ、わたし」

 *

 おやつ市が始まると、通りはすぐに人であふれた。

「これが、噂のプリン?」「ゼリーもかわいい!」「瓶、持ち帰っていいの? やった!」
 次々に並ぶ客たちに、リィナはひたすら応対する。

 ピノは看板の横で、ちょこんと丸まりながらも、時々“目が合った子”に小さく羽を振る。

「わあ、ピノだ! 本物だー!」
 「魔物なのに、ぜんぜん怖くない!」
 「ちょっと写真(スケッチ)撮ってもいい!?」

「ぴっ」

 まるでスターのように子どもたちに囲まれるピノに、リィナは苦笑しながらもほっとしていた。

 売れ行きは順調。
 用意した20個のプリンとゼリーが、午前中でほぼ完売目前。

「……やば、作りすぎたかもって思ったのに……」

「はちみつ焼き、いかがですかー! ピノ屋さん、すごい人気だなあ!」

 向かいの屋台からエルナが手を振る。
 彼女も活気にあふれていて、まるでイベントの光のような存在だった。

 リィナもそれに手を振り返す――が、次の瞬間。

 「きゃっ!」

 誰かが、通路でよろけてリィナの屋台の端にぶつかる。
 そして、カウンターの端に置いていた瓶が――

「ピノ瓶が……!」

 ガラス瓶が、落ちた――

 ……その直後。

「……危ない」

 誰かの手が、その瓶をぎりぎりのところで受け止めていた。

 白い手袋、青と白の服。
 見覚えのある、やさしい声。

「レオさん……!」

「どうやら、間に合ったようですね」

 瓶をそっと置き直しながら、レオは小さく微笑んだ。

 「今日も、あなたの味に癒されに来ましたよ」

 それだけ言って、彼はまた列の後ろへと戻っていく。
 リィナの胸に、どくんと強い音が響いた。

 (なんで……あの人、あんなに静かなのに、いつも“決定的なとき”に現れるんだろう)

 ピノがその後ろ姿をじっと見つめていた。
 まるで、“まだ名を明かさない誰か”を見ているように。

 *

 日が傾きかけた頃。
 リィナの屋台は“完売”の札がかけられた。

 まるで夢のような時間だった。

 誰かと話して、笑って、手渡して――
 そのすべてが、ちゃんと「この世界で生きてる」と実感させてくれるものだった。

「……ありがとう、ピノ。ほんとに、ありがとう」

「ぴぴ」

 ピノが、くちばしでリィナの手をつつく。
 “よくがんばった”の合図だ。

 でも、知らぬ間に――
 その小さなお店に向けられる視線は、確実に“別のもの”も混じり始めていた。

 甘いおやつの匂いと一緒に、風の中にまざる小さなざわめき。
 リィナは、まだそれに気づいていなかった。
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