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後編
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私は今、故郷に帰ってきている。
帰りたくもなかった故郷に。
私の殺伐とした表情に、精霊のヤングとミルが心配そうな眼差しを向ける。
「ほんとに大丈夫?」
「ほんとに、ほんとに?」
ミルがヤングの真似をして、心配な気持ちを表してくる。
「本当に大丈夫なのですか」
大精霊のシーフにも心配されている。
「大丈夫だよ」
三人の頭を順番に撫でる。
私がこの地から逃げ出してから、もう六年が経つ。
私は今、エミリーとシーフ達精霊と共に、聖女としてこの国を守っている。
衣食住は、私が精霊のお願いを叶えてあげる代わりに、精霊達に用意してもらっている。
そんな私がなぜこの地に舞い戻ってきたのかには、ちゃんと理由がある。
それは、1週間前、私宛てで家族から届いた一通の手紙がきっかけだった。
「村が大変なことになっています。助けてください」
なぜ私の居場所がわかったのか、などと色々疑問に思うことはあったが、私が一番に感じたのは「怒り」だった。
わざわざ、「嘘つき」の私に手紙をよこしてきたということは、隣国で私が聖女になったという話でも小耳に挟んだんだろうか。
今更虫が良すぎる。
エミリーには、私の村について話していたので、この手紙を見せると顔をしかめた。
「こんなん、無視一択でしょ」
やはり、エミリーもシーフと同じ意見なのか。
ほんの少し前、シーフにも、この手紙を見せると、シーフは顔を少しゆがめた。
「無視が最適かと思われます」
二人とも、容赦がない。
けれど、私には過去を整理したいという気持ちが残っている。
そんな気持ちは、日々大きくなっていくようにも感じる。
「私、過去とけじめをつけたいの」
シーフ、ヤング、ミルの3人に、この気持ちを伝えると、なんと村まで一緒についてくれることとなった
「エミリーがそう言うなら、おうえんしないと!」
「おうえん、おうえん!」
「私は、エミリーとずっと一緒ですよ」
自然と涙があふれてきた。
ここには、私のことを想ってくれる人、精霊たちがたくさんいるんだ。
私がいきなり泣き出したのに驚き、シーフ達はあたふたしていた。
エミリーと樹木の精霊のノームに今の気持ちを説明し、国を出た。
私が故郷の村がある国に着き、故郷の村へ到着したのは、日が暮れてからだった。
故郷の村には、住居は残っているものの、全く人がいなかった。
「姉様あああ!!!」
突然背後から甲高い声がした。
リリーだ。
シーフ達が私を庇うようにリリーの前に立ちはだかった。
リリーは聖女でも何でもないので、精霊を見る事も触れることもできない。
鬼の形相でリリーを見ているシーフのことは見えなかったのだろう、そのまま私に抱きついてきた。
リリーによると、この村には村長家族と、リリーの家族しか残っていないそうだ。
「なんかね、でてった人たちが、村は息苦しいって言うのお」
シーフが言うには、私たち(大精霊と聖女)がいきなり国からいなくなったことで、広いこの国の、少数の聖女からの加護だけでは、端っこに位置するこの村のバランスをとるのが難しくなっており、村が息苦しくなるなどの弊害が起こっているそうだ
リリーは、固まっている私の前でペラペラと話を始めた。
「私ね!お姉さまには、この村に戻って欲しいと思ってるの!戻ってきたらお姉様にもいい暮らしをさせてあげるわ。手紙だって一生懸命書いたのよ!」
何様なんだろうか。
呆然としていると、村長の息子、ハンスが馬小屋から出てきた。
「お前は、嘘つき女じゃないか!リリーから離れろ!!」
私を突き飛ばし、リリーの肩に手を置き、安否を尋ねている。
どうやら二人は恋仲にあるようだ。
「嘘つき女風情でこの村の聖女、リリーに会いにくるなんてどうかしているだろう
リリーは自分が聖女だと、まだ嘘をついていたのか。
六年前の私だったら俯いて黙っているだけだっただろう。
けれど、私には今言っておきたい言葉があった。
大きく息を吸い込む。
そして大声で叫んだ。
「私は!聖女です!!精霊たちとお友達になることができるの!!!」
シーフが目を見開いた。
ヤングとミルは自慢げに笑っている。
リリーとハンスは呆気に取られているようで、会いた口が塞がっていない。
数秒が経ち、はっとしたようにリリーが口を開いた。
「ね、姉様、何を言っているの。わ、私が聖女なのよ。ねえ、ハンス」
助けを求めるようにハンスを見つめる。
「そ、そうだ!リリーこそが聖女だ、嘘つき女め!!」
私が意見を大声で言うことが全くなかったせいか、二人は見てわかるほどうろたえている。
もう、以前の私とは違う。
聖女が一人もいない村に未来はない。
リリーが嘘をつき続ける限り、この村はどんどん手遅れになっていくだろう。
リリーが素直に嘘を明かしておけば、国から新しく聖女が派遣されるというのに。
「じゃあね、偽聖女様」
手をひらひらと振り、歩き出す。
後ろで何やら二人が騒いでいるが、私にはもう関係のないことだ。
帰りの船に乗り込む。
潮風が心地良い。
デッキで一人海を見ていると、シーフがヤングとミルの寝かしつけを終え、こちらにやって来た。
「どうして、わざわざあんな人間達に会うためだけに出向かれたのですか?言いたいことは、手紙で書いて送れば良かったのに」
私は微笑みを浮かべる。
「分かってないわね、シーフ。リリーみたいな人間には期待をもたせてからその期待を裏切るのが一番効くの」
シーフは大きなため息をついた。
「ルーシー、あなたって人は……。一番容赦ないですね」
「それは、あなたが一番知ってることでしょ」
私は鼻歌混じりで、部屋に戻った。
目には目を。裏切りには裏切りを。
私がずっと言いたかったことが言えたことで、胸にあったつかえがスッと消えた。
ヤングとシーフは幸せそうな顔で眠っている。
明日、今日ついて来てくれたお礼にシーフ達ととびきりおいしいご飯を食べに行こうかな。
私は今、幸せだ。
‐完‐
その後……
ルーシーの故郷の村:エイデン村
エイデン村では、大地震が発生。
幸いにも国が派遣した神官達によって村に残っていた人々は助けられたが、地震の原因が聖女の加護不足だと判明。
エイデン村は国に、リリーが聖女だということを報告していたのだが、リリーは聖女ではなかったため、村全体の調査が始まり、地震に巻き込まれたリリー含む村人達の取り調べが行われている。
また、ルーシーの家族、リリー達はルーシーに助けて欲しいという内容の手紙を送っているが、ルーシーの保護責任者となったエミリーに、全て送り返されている。
ルーシーが今住んでいる国(エイデン村がある国の隣国):アボット王国
アボット王国では大精霊を従えることができ、他の精霊達とも良好な関係を続けているルーシーが、大聖女に就任。
大聖女に就任したルーシー・ルーべルクは聖女仲間のエミリー・スミスに勧められ、姓をスミスに改名し、ルーシー・スミスと名乗るようになった。
帰りたくもなかった故郷に。
私の殺伐とした表情に、精霊のヤングとミルが心配そうな眼差しを向ける。
「ほんとに大丈夫?」
「ほんとに、ほんとに?」
ミルがヤングの真似をして、心配な気持ちを表してくる。
「本当に大丈夫なのですか」
大精霊のシーフにも心配されている。
「大丈夫だよ」
三人の頭を順番に撫でる。
私がこの地から逃げ出してから、もう六年が経つ。
私は今、エミリーとシーフ達精霊と共に、聖女としてこの国を守っている。
衣食住は、私が精霊のお願いを叶えてあげる代わりに、精霊達に用意してもらっている。
そんな私がなぜこの地に舞い戻ってきたのかには、ちゃんと理由がある。
それは、1週間前、私宛てで家族から届いた一通の手紙がきっかけだった。
「村が大変なことになっています。助けてください」
なぜ私の居場所がわかったのか、などと色々疑問に思うことはあったが、私が一番に感じたのは「怒り」だった。
わざわざ、「嘘つき」の私に手紙をよこしてきたということは、隣国で私が聖女になったという話でも小耳に挟んだんだろうか。
今更虫が良すぎる。
エミリーには、私の村について話していたので、この手紙を見せると顔をしかめた。
「こんなん、無視一択でしょ」
やはり、エミリーもシーフと同じ意見なのか。
ほんの少し前、シーフにも、この手紙を見せると、シーフは顔を少しゆがめた。
「無視が最適かと思われます」
二人とも、容赦がない。
けれど、私には過去を整理したいという気持ちが残っている。
そんな気持ちは、日々大きくなっていくようにも感じる。
「私、過去とけじめをつけたいの」
シーフ、ヤング、ミルの3人に、この気持ちを伝えると、なんと村まで一緒についてくれることとなった
「エミリーがそう言うなら、おうえんしないと!」
「おうえん、おうえん!」
「私は、エミリーとずっと一緒ですよ」
自然と涙があふれてきた。
ここには、私のことを想ってくれる人、精霊たちがたくさんいるんだ。
私がいきなり泣き出したのに驚き、シーフ達はあたふたしていた。
エミリーと樹木の精霊のノームに今の気持ちを説明し、国を出た。
私が故郷の村がある国に着き、故郷の村へ到着したのは、日が暮れてからだった。
故郷の村には、住居は残っているものの、全く人がいなかった。
「姉様あああ!!!」
突然背後から甲高い声がした。
リリーだ。
シーフ達が私を庇うようにリリーの前に立ちはだかった。
リリーは聖女でも何でもないので、精霊を見る事も触れることもできない。
鬼の形相でリリーを見ているシーフのことは見えなかったのだろう、そのまま私に抱きついてきた。
リリーによると、この村には村長家族と、リリーの家族しか残っていないそうだ。
「なんかね、でてった人たちが、村は息苦しいって言うのお」
シーフが言うには、私たち(大精霊と聖女)がいきなり国からいなくなったことで、広いこの国の、少数の聖女からの加護だけでは、端っこに位置するこの村のバランスをとるのが難しくなっており、村が息苦しくなるなどの弊害が起こっているそうだ
リリーは、固まっている私の前でペラペラと話を始めた。
「私ね!お姉さまには、この村に戻って欲しいと思ってるの!戻ってきたらお姉様にもいい暮らしをさせてあげるわ。手紙だって一生懸命書いたのよ!」
何様なんだろうか。
呆然としていると、村長の息子、ハンスが馬小屋から出てきた。
「お前は、嘘つき女じゃないか!リリーから離れろ!!」
私を突き飛ばし、リリーの肩に手を置き、安否を尋ねている。
どうやら二人は恋仲にあるようだ。
「嘘つき女風情でこの村の聖女、リリーに会いにくるなんてどうかしているだろう
リリーは自分が聖女だと、まだ嘘をついていたのか。
六年前の私だったら俯いて黙っているだけだっただろう。
けれど、私には今言っておきたい言葉があった。
大きく息を吸い込む。
そして大声で叫んだ。
「私は!聖女です!!精霊たちとお友達になることができるの!!!」
シーフが目を見開いた。
ヤングとミルは自慢げに笑っている。
リリーとハンスは呆気に取られているようで、会いた口が塞がっていない。
数秒が経ち、はっとしたようにリリーが口を開いた。
「ね、姉様、何を言っているの。わ、私が聖女なのよ。ねえ、ハンス」
助けを求めるようにハンスを見つめる。
「そ、そうだ!リリーこそが聖女だ、嘘つき女め!!」
私が意見を大声で言うことが全くなかったせいか、二人は見てわかるほどうろたえている。
もう、以前の私とは違う。
聖女が一人もいない村に未来はない。
リリーが嘘をつき続ける限り、この村はどんどん手遅れになっていくだろう。
リリーが素直に嘘を明かしておけば、国から新しく聖女が派遣されるというのに。
「じゃあね、偽聖女様」
手をひらひらと振り、歩き出す。
後ろで何やら二人が騒いでいるが、私にはもう関係のないことだ。
帰りの船に乗り込む。
潮風が心地良い。
デッキで一人海を見ていると、シーフがヤングとミルの寝かしつけを終え、こちらにやって来た。
「どうして、わざわざあんな人間達に会うためだけに出向かれたのですか?言いたいことは、手紙で書いて送れば良かったのに」
私は微笑みを浮かべる。
「分かってないわね、シーフ。リリーみたいな人間には期待をもたせてからその期待を裏切るのが一番効くの」
シーフは大きなため息をついた。
「ルーシー、あなたって人は……。一番容赦ないですね」
「それは、あなたが一番知ってることでしょ」
私は鼻歌混じりで、部屋に戻った。
目には目を。裏切りには裏切りを。
私がずっと言いたかったことが言えたことで、胸にあったつかえがスッと消えた。
ヤングとシーフは幸せそうな顔で眠っている。
明日、今日ついて来てくれたお礼にシーフ達ととびきりおいしいご飯を食べに行こうかな。
私は今、幸せだ。
‐完‐
その後……
ルーシーの故郷の村:エイデン村
エイデン村では、大地震が発生。
幸いにも国が派遣した神官達によって村に残っていた人々は助けられたが、地震の原因が聖女の加護不足だと判明。
エイデン村は国に、リリーが聖女だということを報告していたのだが、リリーは聖女ではなかったため、村全体の調査が始まり、地震に巻き込まれたリリー含む村人達の取り調べが行われている。
また、ルーシーの家族、リリー達はルーシーに助けて欲しいという内容の手紙を送っているが、ルーシーの保護責任者となったエミリーに、全て送り返されている。
ルーシーが今住んでいる国(エイデン村がある国の隣国):アボット王国
アボット王国では大精霊を従えることができ、他の精霊達とも良好な関係を続けているルーシーが、大聖女に就任。
大聖女に就任したルーシー・ルーべルクは聖女仲間のエミリー・スミスに勧められ、姓をスミスに改名し、ルーシー・スミスと名乗るようになった。
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