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10 別れと再会
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ーヘイウッド侯爵家ー
「…… お父様、申し訳ありませんでした」
静まり返った応接室で、マーガレットは凛とした声で頭を下げていた。その隣に立つサミュエルも、黙して妹の横顔を見守っている。
ヘイウッド侯爵は、難しい表情を崩さぬまま、娘を見据えた。
「……今さら言い訳は無用だ。どれほど本人に非がないとしても、婚約者を疑わせるような行動をとった事実がある以上、責任を問われても仕方あるまい」
「はい……」
「ただ、ミハエル殿の執着は度を越えている。あの男はもはや公爵家の名に泥を塗るような振る舞いをしている。こちらとしては婚約を解消したいと考えているが――」
侯爵は一度言葉を切った。
「向こうが承知せぬ。となれば、表立って動くのは得策ではない。しばらく、表向きは“謹慎”として、お前を領地に避難させよう」
「……はい」
「それが、身の安全のためでもある」
マーガレットは俯いたまま、静かに頷いた。
そしてその夜遅く――。
しんとした夜の空気の中、ルーカスはヘイウッド邸の裏手にある門をそっと開けた。
まだ右腕は完全には動かない。それでも、荷物は最小限にまとめて背に背負った。
(……ここに、いてはいけない)
そう呟くように胸の内で繰り返しながら、彼はひとり、邸をあとにした。
~~~~~~~~~~~
城下の路地裏――。
マーガレットの領地に移されたという噂が流れてから、数日後のことだった。
雨がしとしとと降る薄曇りの午後。
修道院帰りのアメリアは、街角で人だかりを見つけた。
「何かしら……?」
近づいてみると、人々が口々に言っていた。
「若い男が倒れてる」
「服はボロボロだが、上品な顔立ちで……」「片腕を庇ってる、怪我人みたいだ」
その言葉に胸が騒ぎ、アメリアは思わず人垣を押し分けた。
そして――。
「……ルー・・・カス・・・ ?」
そこに倒れていたのは、かつて孤児院でともに時を過ごし、数年前に別れたあの少年。
今は青年となったその姿が、今にも消えそうな儚さで横たわっていた。
「ルーカス!!」
彼女は駆け寄り、震える手でその顔に触れた。
彼の睫毛が、わずかに動いた。
「……アメリア……?」
掠れた声が、彼女の名を呼んだ。
その声に、アメリアの目から涙がこぼれ落ちた。
「大丈夫よ、ルーカス、もう大丈夫。
今度は私が、あなたを守るから。」
~~~~~~~~~~
その夜、
アメリアはルーカスを抱えるようにして、
街にある宿の一室に彼を運び込んだ。
アメリアは商会の寮で生活をしているため異性であるルーカスを部屋に入れることができない。
職場の寮は食事も提供される。アメリアの日々の支出はわずかで、彼女の毎月の給金は孤児院への寄付と、未来のための貯金に充てていた。
今はそれを使う時だった。
ルーカスが安全に過ごせる場所を――と、迷いなく宿の一室を借りた。
「ルーカス、無理に話さなくていい。少し、ここで休んで」
アメリアが湿らせた布で彼の額を拭くと、ルーカスはわずかに微笑んだ。
「……アメリア、どうして……」
「“どうして”なんて聞かないで。……
また、会えた。それだけで、私には十分なの」
その言葉に、ルーカスの目から静かに涙が落ちた。
「…… お父様、申し訳ありませんでした」
静まり返った応接室で、マーガレットは凛とした声で頭を下げていた。その隣に立つサミュエルも、黙して妹の横顔を見守っている。
ヘイウッド侯爵は、難しい表情を崩さぬまま、娘を見据えた。
「……今さら言い訳は無用だ。どれほど本人に非がないとしても、婚約者を疑わせるような行動をとった事実がある以上、責任を問われても仕方あるまい」
「はい……」
「ただ、ミハエル殿の執着は度を越えている。あの男はもはや公爵家の名に泥を塗るような振る舞いをしている。こちらとしては婚約を解消したいと考えているが――」
侯爵は一度言葉を切った。
「向こうが承知せぬ。となれば、表立って動くのは得策ではない。しばらく、表向きは“謹慎”として、お前を領地に避難させよう」
「……はい」
「それが、身の安全のためでもある」
マーガレットは俯いたまま、静かに頷いた。
そしてその夜遅く――。
しんとした夜の空気の中、ルーカスはヘイウッド邸の裏手にある門をそっと開けた。
まだ右腕は完全には動かない。それでも、荷物は最小限にまとめて背に背負った。
(……ここに、いてはいけない)
そう呟くように胸の内で繰り返しながら、彼はひとり、邸をあとにした。
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城下の路地裏――。
マーガレットの領地に移されたという噂が流れてから、数日後のことだった。
雨がしとしとと降る薄曇りの午後。
修道院帰りのアメリアは、街角で人だかりを見つけた。
「何かしら……?」
近づいてみると、人々が口々に言っていた。
「若い男が倒れてる」
「服はボロボロだが、上品な顔立ちで……」「片腕を庇ってる、怪我人みたいだ」
その言葉に胸が騒ぎ、アメリアは思わず人垣を押し分けた。
そして――。
「……ルー・・・カス・・・ ?」
そこに倒れていたのは、かつて孤児院でともに時を過ごし、数年前に別れたあの少年。
今は青年となったその姿が、今にも消えそうな儚さで横たわっていた。
「ルーカス!!」
彼女は駆け寄り、震える手でその顔に触れた。
彼の睫毛が、わずかに動いた。
「……アメリア……?」
掠れた声が、彼女の名を呼んだ。
その声に、アメリアの目から涙がこぼれ落ちた。
「大丈夫よ、ルーカス、もう大丈夫。
今度は私が、あなたを守るから。」
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その夜、
アメリアはルーカスを抱えるようにして、
街にある宿の一室に彼を運び込んだ。
アメリアは商会の寮で生活をしているため異性であるルーカスを部屋に入れることができない。
職場の寮は食事も提供される。アメリアの日々の支出はわずかで、彼女の毎月の給金は孤児院への寄付と、未来のための貯金に充てていた。
今はそれを使う時だった。
ルーカスが安全に過ごせる場所を――と、迷いなく宿の一室を借りた。
「ルーカス、無理に話さなくていい。少し、ここで休んで」
アメリアが湿らせた布で彼の額を拭くと、ルーカスはわずかに微笑んだ。
「……アメリア、どうして……」
「“どうして”なんて聞かないで。……
また、会えた。それだけで、私には十分なの」
その言葉に、ルーカスの目から静かに涙が落ちた。
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