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34 救出②
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廊下を抜け、屋敷の裏階段を駆け下りる。ティムとアベルが手筈通り、見張りを誘導している。
だが──
「侵入者だ! 東の通路にいたぞ!」
「チッ……見つかったか!」
ユリアンはリリエルの手を引いて駆ける。
背後で鉄の靴音と怒声が迫る。
「ここだ、隙間に入れ!」
屋敷の厨房裏、荷物搬入口に通じる通気口。
リリエルを先に滑り込ませ、ユリアンも体を押し込む。暗く、狭い。だが、まだ息はできる。
「くっ……追ってくる。ルートを変えるぞ」
「でも、仲間の方が……!」
「アベルたちは別ルートを使う。大丈夫だ、信じていい」
そして二人は、屋敷の地下からさらに続く秘密の抜け道へ滑り込む。
一歩でも足を止めれば、すぐ後ろから追手の刃が迫る。
崩れかけた通路、煤けた壁、足元の水たまり。どこに罠があるかわからない。
「ユリアンさん、こっち!」
リリエルが息を切らしながらも、脇道を見つけて指差す。
それが決定打となった。通路の先、薄明かりが差す鉄格子の扉があった。
「──出口だ!」
ユリアンは体当たりで錠を壊し、リリエルを抱きかかえて外へ飛び出す。
すぐ後ろで怒声がこだまするが、それも次第に遠ざかっていった。
~~~~~~~~~~~
「……大丈夫か、怪我は」
「……ええ。でも、ユリアンさんの方が……」
「俺はかすり傷だ。君が無事なら、それでいい」
息が切れ、肩で呼吸をしながらも、ユリアンは笑った。
腕の中の彼女は、泥と血にまみれていても、どんな宝石よりも輝いて見えた。
「……リリエル」
そう呟いた声には、深く染み渡る安堵と、消えそうなほどの優しさが滲んでいた。
霧が立ちこめる森の中、小さな石造りの祠(ほこら)がひっそりと姿を現す。
それは古の信仰が忘れ去られた、地図にも記されぬ場所――ユリアンたちがかつて秘密裏に使っていた隠れ家の一つだった。
「……ここまで来れば、ひとまず安心だ」
ユリアンは肩で息をしながら、リリエルを祠の奥へと導いた。火打ち石で灯をつけ、薄明かりの下、彼女の顔をまじまじと見つめる。
「本当に……無事でよかった」
「……ありがとうございます。ユリアンさん
・・・」
彼女はそっとユリアンの手を握り返す。
その指先は震えていた。けれど、気丈に見せようとする表情に、ユリアンは胸を衝かれる。
「君が俺のことを案じてくれていたこと……知っているよ。あの小部屋にいた間、どれだけの不安と恐怖に堪えていたのかも」
「私は、ただ……祈っていただけです。それしかできないから……」
その瞬間、祠の外から――
「足跡だ! このあたりに奴らが逃げたはず!」
怒声と犬の吠え声が、霧の向こうから聞こえてきた。
ユリアンは即座に立ち上がり、リリエルを祠の奥の床下へと導く。
「リリエル、ここに。床板の下に空間がある。しばらく身を潜めて」
「でも……あなたは?」
「時間を稼ぐ。大丈夫、戻る。約束する」
彼女の手を離し、外へ出る――
そのとき。
「ユリアン様、こちらへ!」
霧の中から現れたのはアベルとティム、そしてライナスだった。
三人はそれぞれ武器を構え、祠を包囲しかけていた追手の兵を迎え撃つ陣形を取る。
「遅れてすまん! 奴ら、追って来やがった!」
「援護する! 一気に抜けるぞ!」
ユリアンは剣を抜いた。冷えた刃が月光を受けて煌めく。
後ろに守るべきものがいる。だからこそ、もう後退はない。
「行け、ティム! リリエルを預ける!」
「はいっ、任せてください!」
激しい鍔迫り合いと怒声、飛び交う矢。
数では敵が上だ。だが、ユリアンたちの戦いには、守るべき者がいる強さがあった。
~~~~~~~~~~~
しばらくの攻防ののち――追撃は断たれた。兵の数が減り、残党が霧の森に消える。
ユリアンは傷だらけになりながらも、息を切らしてリリエルの元へ戻った。
彼女は隠れ場所から出てきて、彼の姿を見るなり、そっと駆け寄った。
「ユリアンさん……!」
「もう、大丈夫だ。今度こそ、完全に君を連れて帰る」
彼女を抱きしめるその腕には、剣の切り傷がいくつも刻まれていた。
だがその抱擁は、どこまでも温かく、確かだった。
だが──
「侵入者だ! 東の通路にいたぞ!」
「チッ……見つかったか!」
ユリアンはリリエルの手を引いて駆ける。
背後で鉄の靴音と怒声が迫る。
「ここだ、隙間に入れ!」
屋敷の厨房裏、荷物搬入口に通じる通気口。
リリエルを先に滑り込ませ、ユリアンも体を押し込む。暗く、狭い。だが、まだ息はできる。
「くっ……追ってくる。ルートを変えるぞ」
「でも、仲間の方が……!」
「アベルたちは別ルートを使う。大丈夫だ、信じていい」
そして二人は、屋敷の地下からさらに続く秘密の抜け道へ滑り込む。
一歩でも足を止めれば、すぐ後ろから追手の刃が迫る。
崩れかけた通路、煤けた壁、足元の水たまり。どこに罠があるかわからない。
「ユリアンさん、こっち!」
リリエルが息を切らしながらも、脇道を見つけて指差す。
それが決定打となった。通路の先、薄明かりが差す鉄格子の扉があった。
「──出口だ!」
ユリアンは体当たりで錠を壊し、リリエルを抱きかかえて外へ飛び出す。
すぐ後ろで怒声がこだまするが、それも次第に遠ざかっていった。
~~~~~~~~~~~
「……大丈夫か、怪我は」
「……ええ。でも、ユリアンさんの方が……」
「俺はかすり傷だ。君が無事なら、それでいい」
息が切れ、肩で呼吸をしながらも、ユリアンは笑った。
腕の中の彼女は、泥と血にまみれていても、どんな宝石よりも輝いて見えた。
「……リリエル」
そう呟いた声には、深く染み渡る安堵と、消えそうなほどの優しさが滲んでいた。
霧が立ちこめる森の中、小さな石造りの祠(ほこら)がひっそりと姿を現す。
それは古の信仰が忘れ去られた、地図にも記されぬ場所――ユリアンたちがかつて秘密裏に使っていた隠れ家の一つだった。
「……ここまで来れば、ひとまず安心だ」
ユリアンは肩で息をしながら、リリエルを祠の奥へと導いた。火打ち石で灯をつけ、薄明かりの下、彼女の顔をまじまじと見つめる。
「本当に……無事でよかった」
「……ありがとうございます。ユリアンさん
・・・」
彼女はそっとユリアンの手を握り返す。
その指先は震えていた。けれど、気丈に見せようとする表情に、ユリアンは胸を衝かれる。
「君が俺のことを案じてくれていたこと……知っているよ。あの小部屋にいた間、どれだけの不安と恐怖に堪えていたのかも」
「私は、ただ……祈っていただけです。それしかできないから……」
その瞬間、祠の外から――
「足跡だ! このあたりに奴らが逃げたはず!」
怒声と犬の吠え声が、霧の向こうから聞こえてきた。
ユリアンは即座に立ち上がり、リリエルを祠の奥の床下へと導く。
「リリエル、ここに。床板の下に空間がある。しばらく身を潜めて」
「でも……あなたは?」
「時間を稼ぐ。大丈夫、戻る。約束する」
彼女の手を離し、外へ出る――
そのとき。
「ユリアン様、こちらへ!」
霧の中から現れたのはアベルとティム、そしてライナスだった。
三人はそれぞれ武器を構え、祠を包囲しかけていた追手の兵を迎え撃つ陣形を取る。
「遅れてすまん! 奴ら、追って来やがった!」
「援護する! 一気に抜けるぞ!」
ユリアンは剣を抜いた。冷えた刃が月光を受けて煌めく。
後ろに守るべきものがいる。だからこそ、もう後退はない。
「行け、ティム! リリエルを預ける!」
「はいっ、任せてください!」
激しい鍔迫り合いと怒声、飛び交う矢。
数では敵が上だ。だが、ユリアンたちの戦いには、守るべき者がいる強さがあった。
~~~~~~~~~~~
しばらくの攻防ののち――追撃は断たれた。兵の数が減り、残党が霧の森に消える。
ユリアンは傷だらけになりながらも、息を切らしてリリエルの元へ戻った。
彼女は隠れ場所から出てきて、彼の姿を見るなり、そっと駆け寄った。
「ユリアンさん……!」
「もう、大丈夫だ。今度こそ、完全に君を連れて帰る」
彼女を抱きしめるその腕には、剣の切り傷がいくつも刻まれていた。
だがその抱擁は、どこまでも温かく、確かだった。
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