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夜の帳が下り、王都郊外にある旧派閥の地下回廊。そこは、かつて政治の裏を牛耳っていた貴族たちの秘密会合の場。今は、リリエル誘拐に加担した残党が立てこもっている。
ユリアンは、アベル、ティム、レネの三名を率い、息を潜めながら裏手の小門から潜入した。
「地図通りなら、奴らは中央の礼拝堂跡に集まっている」
ティムが小声で告げる。
「見張りは少ないが、罠の可能性もある」
レネが矢筒を背負い直した。
「いいか、捕縛が最優先。だが……奴らがこちらを見限った時点で、遠慮は無用だ」
ユリアンの声は低く冷ややかだった。リリエルを人質に使った連中に、情けをかける気はなかった。
~~~~~~~~~~~
静寂を切り裂いたのは、レネの放った矢。見張りの一人が呻き声と共に崩れ落ちた。
即座に混乱が走る。
「侵入者だッ!警戒しろ――!」
だが、時すでに遅し。ユリアンたちは一気に内部へ突入する。中央の広間では、数人の貴族と私兵が武器を取り、迎撃の構えを見せていた。
「裏切り者め……!王家に見捨てられた貴様が、何の権利があって――!」
口に泡を飛ばして叫ぶのは、かつて王政を操ろうとした老貴族の一人。
ユリアンの剣が、怒声を遮るように振るわれた。貴族の傍らにいた私兵が叫び、斬り合いが始まる。
アベルが前衛を張り、ティムが背後から援護に入る。レネは高所から矢を次々と放ち、要所を制圧していく。
「ユリアン様は! このままでは――」
ティムの声が響くが、ユリアンは進み続ける。
その目には、恐怖や怒りではなく――ただ一つ、「清算」の意思が宿っていた。
~~~~~~~~~~~
礼拝堂奥の私室。静寂に包まれたその空間には、重苦しい空気が漂っていた。
中心に立っていたのは、旧派閥の黒幕――ディモン伯爵。そしてその背後には、二人の屈強な護衛が剣を構え、ユリアンの一挙手一投足を監視している。
年老いた伯爵の目は、それでもなお侮蔑と優越に満ち、堂々とユリアンを見下ろしていた。
「ほう……『戦死した王子』が、亡霊のように戻ってきたか」
ユリアンの瞳が冷たく光る。
「黙れ。王家に巣食う亡霊ども……国を蝕み、そして何より、神に仕え、無垢に生きる娘を――穢れた手で攫った罪。俺はそれを、決して許さない」
「貴様など、最初から“予備”だったのだ。王になる器ではない。そう育てられてきたことを、忘れたか?」
ユリアンは一歩前へと踏み出し、剣にそっと手をかける。
「最後に問う。なぜ、リリエルを攫った」
ディモン伯爵は薄笑いを浮かべ、声を張る。
「お前を動かすには、それしかなかった……! 王家の“予備”如きが……!」
その言葉が終わる刹那――
ユリアンの体が疾風のごとく動いた。護衛が反応するも一瞬遅れ、振るわれた刃が伯爵の肩口を深々と裂いた。致命傷ではないが、その痛みは深く、伯爵の口を閉ざすに足る衝撃だった。
「俺は“予備”でいい。だが――俺の目の前で、大切な人を踏みにじる者は、誰であろうと許さない」
護衛が動く。しかし、ユリアンの剣は既に軌道を変えていた。鋭い一閃が、一人目の剣を弾き飛ばし、続けざまの回転で二人目を叩き伏せる。次の瞬間、ユリアンは伯爵の懐へと踏み込み、その膝を正確に蹴り砕いた。
「ぐっ……あぁっ!」
ディモン伯爵は、床に崩れ落ちた。
「くそっ……! スペアごときがっ……!」
「俺は“王”にはならない。だが、“人間”として、お前たちに裁きを下す」
ユリアンが静かに告げると、控えていたティムたちが部屋になだれ込む。抵抗した残党は制圧され、命を落とした者もいた。だが、それもまた、“対価”だった。
~~~~~~~~~~~
戦いが終わったあと、ユリアンは一人、静かに崩れかけた礼拝堂の外へと歩み出た。
瓦礫に埋もれた聖堂の向こう、東の空がほのかに白みはじめている。夜明けの気配――それは、闇を断ち切った者にだけ訪れる静謐な祝福だった。
朝靄の中に立つユリアンの姿は、戦いの疲れをものともせず、まるで神話の一場面のように凛としていた。
その背後から、足音を忍ばせてアベルが歩み寄る。
「……終わったな」
彼の声は、労いと敬意の入り混じった低い響きだった。
「リリエル嬢に、報せてこい」
ユリアンは静かに頷くと、腰の剣を丁寧に納め、ゆっくりと背筋を伸ばす。
その顔に浮かんだ微笑みは、どこか安堵と誇りに満ちていた。
「これでもう、彼女に――二度と手を伸ばす者はいない」
彼の声は静かだが、確かな意思を宿していた。
その眼差しは、新しい未来をまっすぐに見据えている。
王宮の陰で、長きにわたり巣食っていた闇。
その根は、今宵の刃によって断ち切られた。
そしてユリアンは――
ようやく手にしたのだ。
本当の「自由」と「再出発」、そして、大切な人と歩むための未来を。
ユリアンは、アベル、ティム、レネの三名を率い、息を潜めながら裏手の小門から潜入した。
「地図通りなら、奴らは中央の礼拝堂跡に集まっている」
ティムが小声で告げる。
「見張りは少ないが、罠の可能性もある」
レネが矢筒を背負い直した。
「いいか、捕縛が最優先。だが……奴らがこちらを見限った時点で、遠慮は無用だ」
ユリアンの声は低く冷ややかだった。リリエルを人質に使った連中に、情けをかける気はなかった。
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静寂を切り裂いたのは、レネの放った矢。見張りの一人が呻き声と共に崩れ落ちた。
即座に混乱が走る。
「侵入者だッ!警戒しろ――!」
だが、時すでに遅し。ユリアンたちは一気に内部へ突入する。中央の広間では、数人の貴族と私兵が武器を取り、迎撃の構えを見せていた。
「裏切り者め……!王家に見捨てられた貴様が、何の権利があって――!」
口に泡を飛ばして叫ぶのは、かつて王政を操ろうとした老貴族の一人。
ユリアンの剣が、怒声を遮るように振るわれた。貴族の傍らにいた私兵が叫び、斬り合いが始まる。
アベルが前衛を張り、ティムが背後から援護に入る。レネは高所から矢を次々と放ち、要所を制圧していく。
「ユリアン様は! このままでは――」
ティムの声が響くが、ユリアンは進み続ける。
その目には、恐怖や怒りではなく――ただ一つ、「清算」の意思が宿っていた。
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礼拝堂奥の私室。静寂に包まれたその空間には、重苦しい空気が漂っていた。
中心に立っていたのは、旧派閥の黒幕――ディモン伯爵。そしてその背後には、二人の屈強な護衛が剣を構え、ユリアンの一挙手一投足を監視している。
年老いた伯爵の目は、それでもなお侮蔑と優越に満ち、堂々とユリアンを見下ろしていた。
「ほう……『戦死した王子』が、亡霊のように戻ってきたか」
ユリアンの瞳が冷たく光る。
「黙れ。王家に巣食う亡霊ども……国を蝕み、そして何より、神に仕え、無垢に生きる娘を――穢れた手で攫った罪。俺はそれを、決して許さない」
「貴様など、最初から“予備”だったのだ。王になる器ではない。そう育てられてきたことを、忘れたか?」
ユリアンは一歩前へと踏み出し、剣にそっと手をかける。
「最後に問う。なぜ、リリエルを攫った」
ディモン伯爵は薄笑いを浮かべ、声を張る。
「お前を動かすには、それしかなかった……! 王家の“予備”如きが……!」
その言葉が終わる刹那――
ユリアンの体が疾風のごとく動いた。護衛が反応するも一瞬遅れ、振るわれた刃が伯爵の肩口を深々と裂いた。致命傷ではないが、その痛みは深く、伯爵の口を閉ざすに足る衝撃だった。
「俺は“予備”でいい。だが――俺の目の前で、大切な人を踏みにじる者は、誰であろうと許さない」
護衛が動く。しかし、ユリアンの剣は既に軌道を変えていた。鋭い一閃が、一人目の剣を弾き飛ばし、続けざまの回転で二人目を叩き伏せる。次の瞬間、ユリアンは伯爵の懐へと踏み込み、その膝を正確に蹴り砕いた。
「ぐっ……あぁっ!」
ディモン伯爵は、床に崩れ落ちた。
「くそっ……! スペアごときがっ……!」
「俺は“王”にはならない。だが、“人間”として、お前たちに裁きを下す」
ユリアンが静かに告げると、控えていたティムたちが部屋になだれ込む。抵抗した残党は制圧され、命を落とした者もいた。だが、それもまた、“対価”だった。
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戦いが終わったあと、ユリアンは一人、静かに崩れかけた礼拝堂の外へと歩み出た。
瓦礫に埋もれた聖堂の向こう、東の空がほのかに白みはじめている。夜明けの気配――それは、闇を断ち切った者にだけ訪れる静謐な祝福だった。
朝靄の中に立つユリアンの姿は、戦いの疲れをものともせず、まるで神話の一場面のように凛としていた。
その背後から、足音を忍ばせてアベルが歩み寄る。
「……終わったな」
彼の声は、労いと敬意の入り混じった低い響きだった。
「リリエル嬢に、報せてこい」
ユリアンは静かに頷くと、腰の剣を丁寧に納め、ゆっくりと背筋を伸ばす。
その顔に浮かんだ微笑みは、どこか安堵と誇りに満ちていた。
「これでもう、彼女に――二度と手を伸ばす者はいない」
彼の声は静かだが、確かな意思を宿していた。
その眼差しは、新しい未来をまっすぐに見据えている。
王宮の陰で、長きにわたり巣食っていた闇。
その根は、今宵の刃によって断ち切られた。
そしてユリアンは――
ようやく手にしたのだ。
本当の「自由」と「再出発」、そして、大切な人と歩むための未来を。
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