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友情?
1 私のイラスト
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里中明美の描いたイラストが奈良崎美玲のツイッピーアカウントに表示されている。
いいね数はもうすぐ三万、リツイート数はざっと五百。
くりっとした大きな目が印象的な美少女が、振り返って微笑むイラストだ。
襟元にフリルをたくさんあしらったブラウスとボウタイ、袖口にもたっぷりのレース。黒いスカートにはボリュームをもたせ、表面にはこっくりとした光沢を乗せる。
黒いヒールの丸い先端には宝石とリボンをあしらって、可愛らしさとゴージャスさを取り入れた。
『すっごく綺麗です!ドレス可愛い~!』『今一番絵を見るのが楽しみな神絵師』『本当に綺麗なイラスト。これでプロじゃないってなんで』『この絵師様、ご本人もすっごく綺麗』——……明美の描いたイラストに、美玲を賞賛するコメントが数百近くついている。
この歪な現象が始まってからもうすぐ三年。明美は、込み上げる吐き気をぐっとこらえてスマホをブラックアウトさせた。
——別にいい。美玲のアカウントだろうがなんだろうが、私の絵が評価されていることには変わりないんだから。
何度自分にそう言い聞かせただろう。初めはそれで納得することもできていた。
だって美玲が感謝してくれる。
生まれて初めて明美の絵を褒めてくれた相手だから、それでもいいと思っていた。
高校に入ったばかりの頃、明美は保健室でこっそりイラストを描いていた。
引っ込み思案な性格のせいでクラスに馴染めず、明美はいつしか教室から遠ざかり、保健室やカウンセリングルームで授業を受けていたのである。
理解ある大人たちに囲まれて、ひっそりとした毎日にそれなりに満足していた明美だが、心のどこかではやっぱり、他の人たちと同じように青春を謳歌してみたいと思っていた。
そんなとき、体育で突き指をした美玲が保健室にやってきた。いつも彼女の周りを囲んでいる取り巻きは連れず、ひっそりと保健室に入ってきたのだ。
絵に集中していた明美は美玲の気配に気づかず、背後からそっと手元を覗き込まれ、イラストを見られてしまった。隠す暇もなかった。
——『わぁ、里中さんすご~い! 絵うまいんだね!』
美玲は長いまつ毛に縁取られた大きな目を輝かせていた。
美人だけどほんのすこし天然で可愛らしい性格をした美玲は、学校中の人気者だ。明美も彼女の存在はもちろん知っている。でも、キラキラした美玲は、冴えない自分とは住む世界が違う。一生口をきくことなどないと思っていた。
明美は保健室登校をしていて絵ばかり描いている暗いオタクだ。自分でもわかっている。
校内のヒエラルキーのトップに自然と君臨する彼女に絵を見られたら、馬鹿にされると思った。ただでさえ教室に入れていないのに、イラストばっかり描いてる暗くてキモいやつっていうレッテルまで追加されてしまったら、高校生活はもう終わりだ——……明美は震えながら美玲を見上げることしかできなかった。
しかし、そうはならなかった。
美玲は明美のイラストをベタ褒めし、「里中さんのイラスト、すごく好き」と言ってくれた。親にも秘密にしていた趣味を認めてくれた。初めてのファンになってくれた。
そこからは毎日学校へ行くのが楽しくなって、少しずつ教室で授業を受けることができるようになった。
美玲は同じクラスではなかったから教室で顔をあわせることはなかったけれど、彼女は確実に明美に自信を与えてくれた。
だからこそ、『あたしね、ツイッピー始めてみたんだ。でも全然フォロワー増えないの』『あ、そうだ! 試しに明美のイラスト載せてみてもいい? 明美だって、もっといろんな人に絵見てほしいよね』と言われ——……軽い気持ちで、アナログで描いたイラストをネットにアップしたのだ。
美玲が変わっていったのはそこからだ。
いいね数はもうすぐ三万、リツイート数はざっと五百。
くりっとした大きな目が印象的な美少女が、振り返って微笑むイラストだ。
襟元にフリルをたくさんあしらったブラウスとボウタイ、袖口にもたっぷりのレース。黒いスカートにはボリュームをもたせ、表面にはこっくりとした光沢を乗せる。
黒いヒールの丸い先端には宝石とリボンをあしらって、可愛らしさとゴージャスさを取り入れた。
『すっごく綺麗です!ドレス可愛い~!』『今一番絵を見るのが楽しみな神絵師』『本当に綺麗なイラスト。これでプロじゃないってなんで』『この絵師様、ご本人もすっごく綺麗』——……明美の描いたイラストに、美玲を賞賛するコメントが数百近くついている。
この歪な現象が始まってからもうすぐ三年。明美は、込み上げる吐き気をぐっとこらえてスマホをブラックアウトさせた。
——別にいい。美玲のアカウントだろうがなんだろうが、私の絵が評価されていることには変わりないんだから。
何度自分にそう言い聞かせただろう。初めはそれで納得することもできていた。
だって美玲が感謝してくれる。
生まれて初めて明美の絵を褒めてくれた相手だから、それでもいいと思っていた。
高校に入ったばかりの頃、明美は保健室でこっそりイラストを描いていた。
引っ込み思案な性格のせいでクラスに馴染めず、明美はいつしか教室から遠ざかり、保健室やカウンセリングルームで授業を受けていたのである。
理解ある大人たちに囲まれて、ひっそりとした毎日にそれなりに満足していた明美だが、心のどこかではやっぱり、他の人たちと同じように青春を謳歌してみたいと思っていた。
そんなとき、体育で突き指をした美玲が保健室にやってきた。いつも彼女の周りを囲んでいる取り巻きは連れず、ひっそりと保健室に入ってきたのだ。
絵に集中していた明美は美玲の気配に気づかず、背後からそっと手元を覗き込まれ、イラストを見られてしまった。隠す暇もなかった。
——『わぁ、里中さんすご~い! 絵うまいんだね!』
美玲は長いまつ毛に縁取られた大きな目を輝かせていた。
美人だけどほんのすこし天然で可愛らしい性格をした美玲は、学校中の人気者だ。明美も彼女の存在はもちろん知っている。でも、キラキラした美玲は、冴えない自分とは住む世界が違う。一生口をきくことなどないと思っていた。
明美は保健室登校をしていて絵ばかり描いている暗いオタクだ。自分でもわかっている。
校内のヒエラルキーのトップに自然と君臨する彼女に絵を見られたら、馬鹿にされると思った。ただでさえ教室に入れていないのに、イラストばっかり描いてる暗くてキモいやつっていうレッテルまで追加されてしまったら、高校生活はもう終わりだ——……明美は震えながら美玲を見上げることしかできなかった。
しかし、そうはならなかった。
美玲は明美のイラストをベタ褒めし、「里中さんのイラスト、すごく好き」と言ってくれた。親にも秘密にしていた趣味を認めてくれた。初めてのファンになってくれた。
そこからは毎日学校へ行くのが楽しくなって、少しずつ教室で授業を受けることができるようになった。
美玲は同じクラスではなかったから教室で顔をあわせることはなかったけれど、彼女は確実に明美に自信を与えてくれた。
だからこそ、『あたしね、ツイッピー始めてみたんだ。でも全然フォロワー増えないの』『あ、そうだ! 試しに明美のイラスト載せてみてもいい? 明美だって、もっといろんな人に絵見てほしいよね』と言われ——……軽い気持ちで、アナログで描いたイラストをネットにアップしたのだ。
美玲が変わっていったのはそこからだ。
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