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山のお坊さん/テーマ:山
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山の中を歩いてどのくらい経ったのかすらわからず。
周りは木々に覆われ、暗くなった山の中では月明かりすらささない。
何故こんなことになっているのか私にもわからないけど、気づいたら森の中で闇雲に歩き回っていたら出口のない迷路のようになっていた。
下に下っていたはずなのに、いつの間にか登っている。
熊や猪なんかが出てきたら私の人生ここで終了。
体力的にも精神的にも疲れ果てて今にも倒れそうになっていたその時、古めの建物が視界に映る。
中に灯りがついているのを見て、私は最後の力を振り絞り歩めを進める。
「どなたかいませんか」
ドアを叩き声を掛ければ、中から足音が聞こえ扉が開かれた。
眩しい光に視界は眩み、そこで私の意識はプツリと途絶える。
目を覚せば木で出来た天井。
置か上がろうとすると足がズキリと痛み表情が歪む。
「起き上がってはいけません」
「貴方は……」
体中の痛みで動く事ができず、声のする方へ視線だけを向ければ、袈裟を纏ったお坊さんの姿があった。
「私はここに住んでいるただの僧侶です。扉を開けた途端倒れられたので驚きました」
「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。道に迷っていたところにこちらの建物を見つけたものですから」
お坊さんは桶に溜めたお湯で布を濡らし絞ると、私の腕や足を綺麗にしてくれる。
流石に申し訳ないのと恥ずかしさから制止の言葉をかけたけど、このままだと良くなるものも治らないと言われ従う。
脚は腫れ、身体はなれない長時間の歩きで筋肉痛になっているみたい。
腕を拭いてくれるお坊さんの顔をチラリと見る。
こんな時に思うことじゃないんだけど、お坊さんって全員が坊主ってわけじゃないんだろうか。
少なくてもこのお坊さんには髪があり、何より眉目秀麗。
「これで綺麗に土を落とせました。あとはしばらく安静にしていれば大丈夫かと」
「何から何までありがとうございます。回復したら是非お礼をさせてください」
帰ることが最優先ではあるけど、数日は安静にするためにお世話になるわけだから、山を下りる方法を尋ねるよりお礼が先。
相手がお坊さんだと尚更そういう礼儀が気になってしまうし、何より私自身が、お世話になってはいさようならなんて許せない。
それから数日後、やっと回復した私は炊事や掃除をやろうと張り切っていた。
お坊さんは気にしなくていいと言ってくれたけど、この数日の間、動けない私に食事を用意し食べさせてくれたり、お風呂に入れないからお湯で濡らした布で足や腕、顔などの見えている範囲のみを綺麗にしてくれたりと苦労をかけてしまった。
復活してまず最初にすることは、お風呂。
流石に綺麗にしたい。
許可を得るために声をかけると、お坊さんは着物を手にしてついてくるように言う。
どこに行くんだろうと思っていると、すぐそばに温泉。
「着物はこちらに置いておくので使ってください。ここなら迷うこともないと思いますから、私は先に戻っていますね」
お礼をするはずが、温泉に案内されて着物まで貸してもらうことになるなんて。
こんなに迷惑をかけているのに、お坊さんはずっと穏やかな表情や声音で話してくれる。
なんだか返さなかいけないお礼が増えていってる気はするけど、とりあえず今は全身をきれいにすることが先。
とはいえ、石鹸などはない。
用意してもらった着物と一緒に置かれた二枚のうち一枚の布をお湯で濡らして全身を拭くくらいしかできない。
一体いつの時代のお風呂だと頭の中でツッコミながら、全身を綺麗にしたあと温泉へと入る。
山の中での温泉なんて贅沢だなと癒やされている間に時間はあっという間に経ち、朝食を作ろうと戻ったときにはすでに用意されていた。
その後もお礼をしようと動こうとしたが、気づいたときにはすでにお坊さんが終わらせていて、私がすることは何一つ残らなかった。
そんな日々が数日続き「私にお礼をさせてください」と、とうとう直接お坊さんに伝えたが「お礼など不要ですよ」と微笑むだけ。
これ以上お世話になるのも逆に迷惑になると考えた私は、渋々お礼は諦めて明日変えることを決める。
「そうですか、明日お帰りに……」
何だか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
山を下りる道を教えてもらい、その日眠りについた私は、翌日の朝この場所を去る。
「色々とありがとうございました。ろくにお礼もできず申し訳ありません」
「いえいえ。貴女はすでにお礼をしてくださいましたよ」
言われた言葉に疑問をいだきながらも、最初に着ていた洋服を身に着けて教えてもらった通りに山を下りる。
長いと思っていた道のりは呆気なく、お坊さんの家からそれほど歩いていないところで出口に到着。
まさかこんなに近かったなんてと思っていると、持っていた鞄の中から着信音が聞こえて応答を押す。
「どう、お坊さんには会えた?」
スマホの向こうから聞こえた友達の声。
忘れていた記憶が一気に思い出され再び山を駆け上るけど、近かったはずのあの建物が見えることはなかった。
この山には噂があった。
山の中で建物を見たり、眉目秀麗なお坊さんがいると話す人が。
不思議な事に、もう一度その場所に行こうとしてもたどり着けることはなく、中には数日そこで過ごしたと話す人もいたが、時間は数十分の出来事。
噂を確かめるため山に入る人もいたが、会えた者はいない。
私もその一人だったわけだけど、その人達と違ったことは、建物も、お坊さんにも出会えたということ。
スマホを見れば、時間は私が山を登り始めて数時間しか経過していない。
まるで夢でも見ていたのか、それとも狸や狐に化かされたのか。
どちらにしても現代では到底信じがたい話。
誰に話したところで笑われると思うけど、私が帰ると話したとき一瞬お坊さんが寂しそうに見えたのは勘違いなんかじゃなくて、一人になるのが寂しかったんじゃないだろうか。
もしそうなら、きっと今も待ち続けているのかもしれない。
あの場所に訪れる人を。
《完》
周りは木々に覆われ、暗くなった山の中では月明かりすらささない。
何故こんなことになっているのか私にもわからないけど、気づいたら森の中で闇雲に歩き回っていたら出口のない迷路のようになっていた。
下に下っていたはずなのに、いつの間にか登っている。
熊や猪なんかが出てきたら私の人生ここで終了。
体力的にも精神的にも疲れ果てて今にも倒れそうになっていたその時、古めの建物が視界に映る。
中に灯りがついているのを見て、私は最後の力を振り絞り歩めを進める。
「どなたかいませんか」
ドアを叩き声を掛ければ、中から足音が聞こえ扉が開かれた。
眩しい光に視界は眩み、そこで私の意識はプツリと途絶える。
目を覚せば木で出来た天井。
置か上がろうとすると足がズキリと痛み表情が歪む。
「起き上がってはいけません」
「貴方は……」
体中の痛みで動く事ができず、声のする方へ視線だけを向ければ、袈裟を纏ったお坊さんの姿があった。
「私はここに住んでいるただの僧侶です。扉を開けた途端倒れられたので驚きました」
「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。道に迷っていたところにこちらの建物を見つけたものですから」
お坊さんは桶に溜めたお湯で布を濡らし絞ると、私の腕や足を綺麗にしてくれる。
流石に申し訳ないのと恥ずかしさから制止の言葉をかけたけど、このままだと良くなるものも治らないと言われ従う。
脚は腫れ、身体はなれない長時間の歩きで筋肉痛になっているみたい。
腕を拭いてくれるお坊さんの顔をチラリと見る。
こんな時に思うことじゃないんだけど、お坊さんって全員が坊主ってわけじゃないんだろうか。
少なくてもこのお坊さんには髪があり、何より眉目秀麗。
「これで綺麗に土を落とせました。あとはしばらく安静にしていれば大丈夫かと」
「何から何までありがとうございます。回復したら是非お礼をさせてください」
帰ることが最優先ではあるけど、数日は安静にするためにお世話になるわけだから、山を下りる方法を尋ねるよりお礼が先。
相手がお坊さんだと尚更そういう礼儀が気になってしまうし、何より私自身が、お世話になってはいさようならなんて許せない。
それから数日後、やっと回復した私は炊事や掃除をやろうと張り切っていた。
お坊さんは気にしなくていいと言ってくれたけど、この数日の間、動けない私に食事を用意し食べさせてくれたり、お風呂に入れないからお湯で濡らした布で足や腕、顔などの見えている範囲のみを綺麗にしてくれたりと苦労をかけてしまった。
復活してまず最初にすることは、お風呂。
流石に綺麗にしたい。
許可を得るために声をかけると、お坊さんは着物を手にしてついてくるように言う。
どこに行くんだろうと思っていると、すぐそばに温泉。
「着物はこちらに置いておくので使ってください。ここなら迷うこともないと思いますから、私は先に戻っていますね」
お礼をするはずが、温泉に案内されて着物まで貸してもらうことになるなんて。
こんなに迷惑をかけているのに、お坊さんはずっと穏やかな表情や声音で話してくれる。
なんだか返さなかいけないお礼が増えていってる気はするけど、とりあえず今は全身をきれいにすることが先。
とはいえ、石鹸などはない。
用意してもらった着物と一緒に置かれた二枚のうち一枚の布をお湯で濡らして全身を拭くくらいしかできない。
一体いつの時代のお風呂だと頭の中でツッコミながら、全身を綺麗にしたあと温泉へと入る。
山の中での温泉なんて贅沢だなと癒やされている間に時間はあっという間に経ち、朝食を作ろうと戻ったときにはすでに用意されていた。
その後もお礼をしようと動こうとしたが、気づいたときにはすでにお坊さんが終わらせていて、私がすることは何一つ残らなかった。
そんな日々が数日続き「私にお礼をさせてください」と、とうとう直接お坊さんに伝えたが「お礼など不要ですよ」と微笑むだけ。
これ以上お世話になるのも逆に迷惑になると考えた私は、渋々お礼は諦めて明日変えることを決める。
「そうですか、明日お帰りに……」
何だか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
山を下りる道を教えてもらい、その日眠りについた私は、翌日の朝この場所を去る。
「色々とありがとうございました。ろくにお礼もできず申し訳ありません」
「いえいえ。貴女はすでにお礼をしてくださいましたよ」
言われた言葉に疑問をいだきながらも、最初に着ていた洋服を身に着けて教えてもらった通りに山を下りる。
長いと思っていた道のりは呆気なく、お坊さんの家からそれほど歩いていないところで出口に到着。
まさかこんなに近かったなんてと思っていると、持っていた鞄の中から着信音が聞こえて応答を押す。
「どう、お坊さんには会えた?」
スマホの向こうから聞こえた友達の声。
忘れていた記憶が一気に思い出され再び山を駆け上るけど、近かったはずのあの建物が見えることはなかった。
この山には噂があった。
山の中で建物を見たり、眉目秀麗なお坊さんがいると話す人が。
不思議な事に、もう一度その場所に行こうとしてもたどり着けることはなく、中には数日そこで過ごしたと話す人もいたが、時間は数十分の出来事。
噂を確かめるため山に入る人もいたが、会えた者はいない。
私もその一人だったわけだけど、その人達と違ったことは、建物も、お坊さんにも出会えたということ。
スマホを見れば、時間は私が山を登り始めて数時間しか経過していない。
まるで夢でも見ていたのか、それとも狸や狐に化かされたのか。
どちらにしても現代では到底信じがたい話。
誰に話したところで笑われると思うけど、私が帰ると話したとき一瞬お坊さんが寂しそうに見えたのは勘違いなんかじゃなくて、一人になるのが寂しかったんじゃないだろうか。
もしそうなら、きっと今も待ち続けているのかもしれない。
あの場所に訪れる人を。
《完》
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