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三つの裏切り/テーマ:あと一回
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あと一回で構わないから、私をあなたの瞳に映してほしいと願っても、それが叶うことはない——。
あの有名な織田 信長様からの婚姻の申し入れ。
私のような小国の姫が選ばれ、父上、母上だけでなく私自身も喜んだ。
一度お会いしたことがあるだけだというのに、一目見たその瞬間から信長様に想いを寄せ、今回の申し入れで信長様も同じ気持ちだったんだと胸が高鳴る。
しばらくして祝言も挙げ夫婦としての務めも果たし、お互いが思い合う幸福な関係をこれから築いていける、そう思っていたのに、祝言を挙げ営みを終えてからしばらく経った今も信長様と顔を合わせることはない。
お忙しい方だから仕方がないと過ごしていた私の元にやって来たのは、信長様の家臣である明智 光秀。
「お耳に入れたい話があり参りました」
光秀の話に「嘘を申すな」と睨みつけても「事実です」と口にして引かない。
そんな話信じられるはずがないと顔を伏せる私の耳元に「確かめに行きましょう」と光秀が囁く。
真実を確かめるため、光秀に連れられ向かった先は城下。
隠れてそっと覗いた先には、信長様と楽しそうに話す町娘。
耐えきれずその場から走り去れば、光秀が後を追ってくる。
あの夜、信長様は私だけを瞳に移し私だけを愛してくれていた。
その時でさえも信長様は、あの娘を思っていたというのか。
光秀の話が事実だと認めたくないのにあんな光景を見てしまっては、否定などできるはずがない。
信長様は町娘を思いながら、国の為に私と夫婦になった。
光秀の着物を掴み「何故……何故私に現実を突きつけたのですか」と、行き場のない怒りをぶつけてしまう。
あと一回でも構わないから、私を信長様の瞳に映してほしい。
それがどれだけ虚しいことかわかっていても、この先信長様の瞳に二度と私が映ることはないのだと思うと耐えられない。
「私は、謀反を考えています」
突然の言葉に顔を上げれば、光秀の瞳に私が映っている。
信長様の瞳に映ることはないというのに、光秀の瞳には簡単に私が入ってしまう。
「何故そのようなことを私に……。私は信長様の妻なのですよ」
謀反を企てていると漏らせば自身の命などないというのに、こんなにあっさり、それも謀反を起こそうとしている相手の妻に話すなど自分から死に飛び込むのと同じ。
私が知る限り光秀は信長様に忠誠を尽くしていた。
お飾りにすぎない私にまで声をかけてくれて、退屈な毎日の話し相手までもしてくれていた彼が謀反を起こそうとしていたことだけでも驚きだというのに、そのような企てを悟られることなく今まで過ごしてきた彼が何故私に話すのか。
「その時、貴方に私の隣にいていただきたいからです」
「私に信長様を裏切れと? 光秀にしてはあまりに危険な賭けですね」
私に信長様を裏切らせるだけでなく、光秀は私を側に置きたいと言っている。
理由なんてわからないと思えたらいいのに、今の私にはわかってしまう。
信長様しか映してこなかった瞳に光秀を映した瞬間、それが私と同じように恋い慕う相手に向けるものだと。
信長様からの愛など最初からなかったのだと知った今の私には、その瞳を、思いを手放すことなどできない。
どうやら、あと一回の相手は信長様ではなく光秀だったようだ。
私だけを見てくれる瞳を、一回ではなく永遠となるように今度こそ間違えない。
地獄に落ちるときは私も共に——。
《完》
あの有名な織田 信長様からの婚姻の申し入れ。
私のような小国の姫が選ばれ、父上、母上だけでなく私自身も喜んだ。
一度お会いしたことがあるだけだというのに、一目見たその瞬間から信長様に想いを寄せ、今回の申し入れで信長様も同じ気持ちだったんだと胸が高鳴る。
しばらくして祝言も挙げ夫婦としての務めも果たし、お互いが思い合う幸福な関係をこれから築いていける、そう思っていたのに、祝言を挙げ営みを終えてからしばらく経った今も信長様と顔を合わせることはない。
お忙しい方だから仕方がないと過ごしていた私の元にやって来たのは、信長様の家臣である明智 光秀。
「お耳に入れたい話があり参りました」
光秀の話に「嘘を申すな」と睨みつけても「事実です」と口にして引かない。
そんな話信じられるはずがないと顔を伏せる私の耳元に「確かめに行きましょう」と光秀が囁く。
真実を確かめるため、光秀に連れられ向かった先は城下。
隠れてそっと覗いた先には、信長様と楽しそうに話す町娘。
耐えきれずその場から走り去れば、光秀が後を追ってくる。
あの夜、信長様は私だけを瞳に移し私だけを愛してくれていた。
その時でさえも信長様は、あの娘を思っていたというのか。
光秀の話が事実だと認めたくないのにあんな光景を見てしまっては、否定などできるはずがない。
信長様は町娘を思いながら、国の為に私と夫婦になった。
光秀の着物を掴み「何故……何故私に現実を突きつけたのですか」と、行き場のない怒りをぶつけてしまう。
あと一回でも構わないから、私を信長様の瞳に映してほしい。
それがどれだけ虚しいことかわかっていても、この先信長様の瞳に二度と私が映ることはないのだと思うと耐えられない。
「私は、謀反を考えています」
突然の言葉に顔を上げれば、光秀の瞳に私が映っている。
信長様の瞳に映ることはないというのに、光秀の瞳には簡単に私が入ってしまう。
「何故そのようなことを私に……。私は信長様の妻なのですよ」
謀反を企てていると漏らせば自身の命などないというのに、こんなにあっさり、それも謀反を起こそうとしている相手の妻に話すなど自分から死に飛び込むのと同じ。
私が知る限り光秀は信長様に忠誠を尽くしていた。
お飾りにすぎない私にまで声をかけてくれて、退屈な毎日の話し相手までもしてくれていた彼が謀反を起こそうとしていたことだけでも驚きだというのに、そのような企てを悟られることなく今まで過ごしてきた彼が何故私に話すのか。
「その時、貴方に私の隣にいていただきたいからです」
「私に信長様を裏切れと? 光秀にしてはあまりに危険な賭けですね」
私に信長様を裏切らせるだけでなく、光秀は私を側に置きたいと言っている。
理由なんてわからないと思えたらいいのに、今の私にはわかってしまう。
信長様しか映してこなかった瞳に光秀を映した瞬間、それが私と同じように恋い慕う相手に向けるものだと。
信長様からの愛など最初からなかったのだと知った今の私には、その瞳を、思いを手放すことなどできない。
どうやら、あと一回の相手は信長様ではなく光秀だったようだ。
私だけを見てくれる瞳を、一回ではなく永遠となるように今度こそ間違えない。
地獄に落ちるときは私も共に——。
《完》
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