『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第0章 神在月の占い師(かみなきせかいのうらないし)

第48話 誤解の果て

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「ちくしょう… やりやがったな…」
ラシードはハーロックの物と思われる帽子を拾い上げた。
帽子と血だまり。
ラシードはここでハーロックが殺害されたと確信している様だが、犯行現場として圧倒的に足りないものがあるように感じる。
「ひどい…」
アイリスは俺の隣で青ざめた顔で呟き、片手で口元を覆う。
ティファは迷い無く遺留品に近づくと、散乱した遺留品と血痕の状況を確認する。
俺は雑木林の側からその姿を静かに眺めていた。
ラシードは崖の右隅に目をやると、スタスタと歩き出す。
ほぼ垂直に切り立った崖には、手や足を引っかけられる程度の凹凸が見える。
「俺なら登れるな…」
ラシードは崖の岩に手を掛けて、ぐいと引き、びくともしない事を確認すると、ニヤリと笑った。
「マスト登りで俺に敵う奴は、ちょっといないぜ」
そう言うが早いか、器用な身のこなしで崖を登り始めた。
「ちょっと! 気を付けてよね」
ひょいひょいと崖を駆け登るラシードにティファが思わず声を上げる。
アイリスは崖を登るラシードの姿を見上げながらフラフラと前に歩き出す。

「そろそろ出て来ても良いんじゃないか?」
俺の声に応える様に雑木林の中から人影が飛び出してくる。
相手は5人。
顔を布で隠した襲撃者達は、山刀や手斧、ナイフなどで武装している。
雑木林に一番近い場所に立っていた俺に、全員が一斉に襲い掛かってきた。
手斧で俺の頭を叩き割ろうとする男の懐に飛び込み、みぞおちに右の肘を突き刺す。
「ぐっ」
男は声にならないうめき声をあげてその場に倒れ込む。
30秒ほどは呼吸が出来ない筈だ。

斧男の身体を器用に避けながらナイフの鋭い突きが迫る。
俺はナイフ男のナイフを握る右手の手首を右手で掴み、右足を軸に左脚を後ろに下げて背後に身体を回転させる。
関節をあり得ない方向にひねられたナイフ男は痛みで身体のバランスを崩す。
そのまま一本背負いの要領で投げると地面に叩き付けた。
足を岩盤に叩き付けられてこちらも暫く歩けないだろう。

ナイフ男を投げた俺の背中を、山刀男が横薙ぎに斬り付けて来る
俺はナイフ男の手を握ったまま前方に跳び、左手を地面に付いて山刀男の顔を見た。
逆立ちの体勢から見た山刀男の目は明らかに狼狽しており、襲撃が失敗に終わろうとしている事に驚いている様だ。
ナイフ男の手を放し、前回り受け身を取ると、地面に転がっていた石を拾い、山刀男の手元に投げた。
「ぐあっ!」
堪らず山刀を落とす男の指の骨は何本か折れた筈だ。

山刀男が残り二人の男達を睨みつけると、ナイフを持った二人組が左右から同時に襲い掛かって来る。
俺は首筋にかゆみを覚えて人差し指でポリポリと掻いた。
向かって右の男は脇腹に突きを、左の男は首に突きを同時に繰り出して来た。
充分に引きつけると、俺は二人の間に割って入る様に右足を一歩前に進めて振り返った。
ナイフ男達はお互いに突き出したナイフで自滅しそうになったが、悲鳴を上げながら何とか踏みとどまる。
「あぶねぇな!」
「てめぇこそ!」
俺はお互いにののしり合うナイフ男達をやる気のない目で眺める。

あまりにも急な展開に、ティファもアイリスも声を上げるタイミングを失っていたようだ。
「え?」
「え?」
二人とも何が起こったのか分からない、という表情を浮かべている。

「おい!」
山刀男の声でナイフ男達がケンカを辞めて、再び俺にナイフを向けた。
「誰だよ、5人いれば1人くらいやれるって言った奴…」
ナイフを向けた右の男が恨めしそうに呟く。
あぁ、平均で5倍くらいの能力差がある、って奴か…
「もうやめとけって、何やったって絶対に勝ち目無いから…」
俺が声を掛けると、左のナイフ男がアイリスに目を向ける。
「女なら!」

『電撃よ!』
ティファの声が聞こえたと思った瞬間、彼女の指先から伸びた稲光が左のナイフ男を打ち倒した。
「貴方、レディにナイフを向けるなんて無粋よ」

痙攣するナイフ男に右手の人差し指を立てたまま、片目を閉じてティファが言った。
左手には占いに使うカードを一枚持っている。
「ひっ…!」
仲間が目の前で稲妻に撃たれるのを見て、まだ立っていた最後のナイフ男が悲鳴を上げた。
彼は完全に戦意を喪失し、持っていたナイフを地面に落とす。
指を怪我した山刀男も、俺とティファの実力を目の当たりにして、顔面蒼白になって後退った。
「一体何が…?」
崖の上からラシードが何事かと、呆然とした声をあげて俺達を見下ろしていた。

痙攣している男を一瞥するが、意識を失う程のダメージでも無い様だ。
それより驚いたのは…
「詠唱とかしなくても良いんだ…」
あのエッジですら詠唱にはそれなりに時間をかけていたというのに…
「私の場合、魔法帳ではなくてこのカードに魔法陣が描いてあるから、ね」
ティファはそう言うと、カードを懐に戻す。
なるほど、魔法もいろいろあるんだな。
「だから、貴方もおいたはダメよ?」
ティファはいつの間にか左手にカードを持ち、人差し指を残りのナイフ男に向ける。
両手を挙げてコクコクと頷くナイフ男。

「それにしてもよく分かりましたね」
「ん?」
アイリスの言葉の意味を一瞬理解出来ずに聞き返したが…
「あんなに殺気だっていたら寝てても気が付くよ」
本当はスキル『練気』のおまけみたいな効果だけど、彼らに聞こえる様にそう言った。
「それと、気配で誰かも分かるんだ、分からないのは俺達を襲った理由だけだ。 教えて貰おうか、トーレスさん」
山刀男は俺に声を掛けられると、観念したように口元を覆っていた布をむしり取る。
その顔はやはりトーレスだった。
「冒険者と一緒にいた船長がここで殺されたのは間違いない、お前たちが追って来たならやられる前にやるしか無いだろう…」
トーレスに続いて顔の布を外した他の船員達も、そうだそうだとばかりに頷く。
「言ったろうが、その人達が俺達を殺そうと思えばいつだって出来た。 俺達が生きている事こそがその人達の潔白を証明している、とな」
いつの間にか崖のてっぺんまで昇りつめたラシードが、俺達を見下ろして言い放つ。
その言葉は崖下の広場に響き渡った。

「それじゃ、アイツ等は一体どこへ…」
トーレスの言う『アイツ等』というのはリックやリディアの事だろう。
確かに、一緒にいたハーロックが死んだとなれば、可能性は2択だ。
つまり…
「船長を殺したか、船長と一緒に死んだか…」
俺は口にした言葉を自ら反芻する。
彼らの力を考えれば死んだというのは考えにくい…が。
「リックが暴走したとして、リディアが反対しないというのはもっと考えにくい」
ずっと疑問に思っていた事が…引っかかっていた事が、形になりそうだと考え込んでいると、アイリスの叫び声が俺を現実に引き戻した。
「ラシードさん!!」

「え?」
俺は全ての思考を中断して、崖の上のラシードに目を向ける。
ラシードは崖の上にはいなかった。
青空に手を伸ばした体勢で空中にいた。
目の前で起きている現実に脳が追い付かない。
ラシードが絶叫をあげながら落下してくる。
途中で崖に身体を叩き付けられ、そもまま力無く、アイリスの目の前の岩盤に墜落した。

ピクリとも動かない。
その頭部からは、おびただしい量の血が、ハーロック船長のものと見られる古い血痕の上に、新たな染みとして広がっていく。
「…ひっ」
アイリスは腰が抜けた様に地面に崩れ落ちる。
地面に突いた手のひらにべったりと付いたラシードの血を、震えながら確認する。
「いやああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アイリスの悲鳴が崖に跳ね返って響き渡った。



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