『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第0章 神在月の占い師(かみなきせかいのうらないし)

第49話 頂へ

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真っ先にラシードの元に駆け寄ったのはトーレスだった。
他の船員達もトーレスに倣いラシードの周りに集まる。
腰を抜かしたアイリスを抱き抱えて俺は少し距離を取る。
ティファは崖の上を警戒しつつ、懐のカードに手を伸ばしている。
「駄目だ、死んでる…」
船員の一人がラシードの脈を取り厳かに告げた。
言われるまでも無く、後頭部は激しく損傷し、出血も激しい。

「ラシードさん、何を見て足を踏み外したのかしら…」
ティファは崖の上を睨みながら呟く。
体勢からして、向こう側を見ながら落ちた事になる。
ティファの言う通り、何かを見て落ちたのは間違いない。
「おい、船長もここに落ちて死んだって事じゃないか?」
船員の一人が、閃いた、とばかりにそう言うと「なるほど」「そういう事か」などと同意する声が続く。

「今のうちに白状するけど、私の魔法、威力はないの」
ティファは俺の耳元で囁く。
「このサイズの魔法陣では殺傷能力は望めないのよね」
そう言えば、初めて武器庫に行った時、エルが説明していた記憶がある。
つまり、
杖は長くて重いから、大きな魔法陣を描けるが遅くて大雑把な魔法陣を描き消費魔力が多い。
短杖は短く軽いから、小さな魔法陣を早く、より精度良く描けるが威力は落ちる。
そして魔法帳は限られた紙面の面積にしか描けず、アレンジ出来ず、威力も出せないが、描く時間も必要なく、緻密に描ける。
ティファの使うカードはトランプに比べれば大き目だが、魔法帳に比べると少し小さく見える。

「何故?」
俺はその一言に色々な意味を込めて言ったのだが…
「私は魔力量が少ないの」
彼女はそう言うと、話しはそれで終わりだという感じで、右手を崖の方へ向け、右肩の後ろにアイリスを庇う。
俺は左肩の後ろにアイリスを庇うようにしていつでも剣を抜けるように腰を落として構える。
俺とティファが高身長な為、アイリスはまるで二人の子供の様に感じられた。

しかし、ラシードを襲ったかもしれない敵はその姿をついに現す事は無かった。
「リック達ならともかく、リディアがこの崖を登れるとは思えないな…」
俺は崖の下から上を見上げて唸った。
「縄梯子も降りれない奴がこの崖を登れるかよ」
トーレスはそう言うとナイフ男を手招きする。
「この山の周りを調べさせた」
「どうも、ブルーノです。山の南側に比較的緩やかな斜面があって、そこからなら上まで登れそうでした」
ブルーノは俺に投げられた時に打ち付けた足をまだ引きずっている。
トーレスも指の骨が折れているし、戦力どころか一緒に頂上を目指すことすら危うい。

「俺が言うのもなんだけど、貴方達は怪我人だ。 船にはトチロー達も待機している。 ここから先は俺達が行くから船に戻って待機していてくれないか?」
「おいおい、そりゃ無いぜ。 ここまで来て犯人の顔も見ずに帰れるかって」
トーレスはそう言うと、船員達に目を配り
「確かにブルーノ、お前は船に戻れ」
余程打ちどころが悪かったのか、左脚をまともに動かせない様子だった。

「それにしても、剣士が剣を抜かなくても強いとか反則だろ…」
ブルーノは恨めしそうに唸る。
「悪いな、オヤジに似て手癖も足癖も悪いんだ」
今の未来視のような能力を組み合わせれば、素手での戦闘も、もしかするともの凄い事になるかも知れないが、せっかくの異世界なら剣で戦いたい気持ちの方が強かった。
「あんな出てきかたしたのに一人で帰りにくいよ」
「じゃぁ、俺も一緒に帰る」
そう言い出したのは、ティファの雷撃を喰らった船員だった。
「まだ身体がチリチリする」
そう言って二人は肩を貸し合いながら海岸へと戻って行った。

ブルーノ達が森の中に消えていくのを見送り、この場には俺、ティファ、アイリス、トーレス、そして肘打ちで倒した手斧男と無傷のナイフ男の6人が残された。
「アイツ等に連れて行かせれば良かったな…」
ラシードの亡骸を横目に見ながらトーレスが呟く。
「怪我人に運ばせるのは酷というものよ」
ティファはトーレスの提案を秒で却下する。
「ラシードには悪いが、少しの間ここで待っていてもらうとするか…」
トーレスは飼い主に怒られた大型犬のような雰囲気でそう呟く。

「船長の死体、アイツ等はどうしたんだろうな…」
手斧男がボソッと呟く。
「何故首だけ持ち帰ったのか…」
ナイフ男が続く。
そう、ずっと引っかかっていた事がある。
首から下はどこへ行ったのか。
崖の下で死体を解体したのならもっと血まみれになっている筈だ。

「ねぇ、何故墜落死したのが船長だと思ってるの?」
「え? そりゃ、帽子が…」
ティファの質問にトーレスが答える。
「ドナルドさんの剣も落ちていたのよね?」
「つまりドナルドも落とされた、という事か?」
ナイフ男の質問にティファはため息をつく。
彼女の推理はある程度真実に近づいているのだろうか?
投げ込まれた船長の頭。
そこでふと思い付いた事がある。

「船長の頭部は崖から落下したにしては無傷過ぎる…」
俺の呟きにティファが頷く。
「そして、船長の頭をどうやって投げ入れたかは幾つか案が出たけど、そもそも何故投げ入れたのかしら?」
そうだ、船長を殺したとわざわざ全員に宣伝する理由は何だ?
黙っていれば何とでもごまかせるだろう。
犯人の動機が分からない。
しかし…
「つまり俺達が仲間割れするように仕組まれていた、と言う事か…」
トーレスは苦しそうにそう絞り出すと歯ぎしりした。
二人の船員達もトーレスに倣う様に悔しがる。

アイリスを見るとティファに視線を送っており、ティファはアイリスに首を横に振って見せた。
トーレスの推理は俺達が考えているのとは少し違う、と彼女たちの仕草からも分かる。
俺は敢えてトーレス達にそれを告げず、ブルーノが指差した方へと歩き出した。
「行くしかねぇな、山の上へ」
トーレスはそんな俺の後ろに続く。
船員達がその後に続き、アイリス、しんがりはティファが務める。

30分ほど斜面を右手に見ながら進むと、ブルーノが言っていたと思しき斜面を発見した。
「なるほど、これなら登れそうだな」
山の斜面に自生する木々は他の場所に比べてまばらで、傾斜も手を使わずに登れそうなレベルだった。
「確かめよう、ラシードが何を見たのか」
俺は振り返り、全員の顔を見回して告げた。
不安そうな表情のアイリスがコクリと頷いた。
傾斜が緩やかな分、頂上まではそれなりの距離があった。
木の高さを越えたところで海が見えたが、その景色を楽しむゆとりがある者は誰もいない。
黒いねちょねちょした種子をコートやスラックスに付けてくる、草丈の長いススキの様な雑草に辟易しながら歩を進める。
ところどころに生えた木の幹に手を掛けながらトーレス達の歩調に合わせてゆっくりと斜面を登る。
斜面を登り始めてから1時間ほどで頂上らしい場所に辿り着いた。

「思ったより広いな…」
息を切らせながらトーレスが呟く。
そこはキャッチボールくらい出来そうな程の広さがあった。
ラシードが立っていたであろう崖の方には大きな岩が聳(そび)え立っていて、それが一番高い場所のようだった。
岩の後ろに得体の知れない気配を感じて、俺は身構えた。



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