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第0章 神在月の占い師(かみなきせかいのうらないし)
第50話 絶望
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「鳥か?」
ナイフ男が岩の裏に何かを見つけた様で、スタスタと近づく。
しかし、岩の向こうが見える所まで進むと、ピタリと動きを止める。
「おい、何があった?」
トーレスは、凍り付いたように動かなくなったナイフ男に声を掛けながら隣まで歩み寄り、絶句した。
信じられない気配の正体を確認すべく、俺もトーレス達の場所まで歩を進める。
鳥は3羽いるようだ。
かなり大きな猛禽類だろうか?
何か細長い物をくちばしで引きちぎって飲み込んでいく。
脈打ちながら、鳥につつかれた所から血を噴き出す何かの臓器。
それには手足も無く、骨も筋肉も無い。
ただ内臓だけが鳥に喰われる為だけに生きているような不気味な光景だった。
手斧男は手で口元を覆い、こみあげる物を必死で堪えている。
「何だ…これは…」
引きつった表情でトーレスが何とか声を絞り出す。
アイリスは俺の腹に顔を埋めて泣きじゃくっている。
ティファはカードを左手に持ち、右手の人差し指を立てた状態で何かを迷っているような素振りを見せた。
「ティファ?」
俺の問い掛けに応えるように、ゆっくりとこちらに顔を向けたティファの目にも涙が浮かんでいた。
「これは…ヒナだわ…」
つまり、親鳥がいる、という事だ。
「どうしよう…?」
ティファは珍しく弱って見え、俺に判断を求めてきている。
ヒナ達が何を喰っているのかは分からないが、これは脅威なのだろうか?
殺してしまう必要があるのだろうか?
俺に抱きついて泣いているアイリス以外、全員の視線が俺に集まる。
自分の判断が、今後の状況を良くも悪くもする可能性がある。
覚悟を決めると、アイリスの肩に優しく手を添えて一緒にしゃがむ。
「少しだけ待っててくれ」
出来るだけ優しく声を掛けて、俺は一人で立ち上がった。
静かに歩を進めて腰に下げたバスタードソードの柄に手を掛ける。
目を閉じて、もう一度だけ自問する。
本当に良いのか?
目を開いた時、俺の心に迷いは無かった。
疾風!
からの
抜き打ち!
からの
虎斬り×2!
俺の剣戟は3羽のヒナの首を一瞬で斬り落としていた。
抜き打ちはスキルとして登録していないが、生前に繰り返し練習した技だ。
ヒナの首を落とすには何の問題も無かった。
剣を地面に向け一閃すると、ヒナの血がまばらな直線を描く。
少ない血液がヒナも魔物である事を証明していた。
剣を鞘に納めるのも手慣れた物だ。
頭を失ったヒナは狂ったように走り出し、一羽は岩にぶつかって倒れ、2羽は崖から落ちて行った。
完全に絶命するまで、首からヒューヒューと鳴き声のような音を立てていた。
ヒナ達が喰っていた肉塊は不気味に脈打ち、時折血を噴き出しながら再生している様にも見える。
思わず眉をひそめたが、肉塊の下に敷かれていた布を見て思考が止まった。
「す、すげぇ… 今の、見えなかったぞ…」
手斧男が、俺の神業的な剣技に呆然と呟いた。
「やべぇな、親鳥が帰って来る前にずらかろうぜ」
ナイフ男が不安げに周囲に目配せしながら早口で言う。
「颯竢さん、早く」
アイリスの手を引いたティファが俺に声を掛けて来る。
これだけまとまったエサがあるならそんなに直ぐには帰って来ないだろうとも思ったが、鳥と戦う事を想定するならば足場が圧倒的に悪い。
転がる様に坂を下る船員達に続いて俺達も急いで山を降りたが、親鳥が帰って来る気配は無かった。
「どうする?」
俺はトーレスに尋ねた。
元々俺の雇い主であったラシードはもういない。
それに俺はもう、完全にリック達を疑ってはいなかった。
どれだけ探してもこの島にリック達の根城は無い。
それなら一度船に戻るのが賢明に思えた。
トーレスはナイフ男と手斧男を一瞬視界に捉えると、俺の方へ向き直る。
「ラシードに頼まれて来たんだな?」
俺が頷くと
「ラシードには何と頼まれた?」
「ここが島である事の確認と、犯人達の隠れ家の捜査だった」
俺はトーレスの問いに正直に答えた。
「結果は?」
「ここは島で、犯人は島に隠れ住んではいない」
それは半分は真実で、半分は推測だった。
ヒナたちが喰っていたのは3人分。
人数は合わないが、それはこの島が危険である事を証明するには充分だった。
「何故、そう思ったの?」
俺にそう尋ねてきたのは、意外にもティファだった。
島なのは一緒に確認しているから『犯人が島に隠れ住んでいない』という発言に対しての疑問だろう。
トーレス達なら適当にごまかそうとも思っていたが、ティファ相手に嘘をいう気には、到底なれなかった。
「ヒナたちが喰っていたのは、リック達だった」
俺の言葉に全員が目を見開いて固まる。
「リディアは?」
ティファの問いに俺は頭を横に振る。
「リディアの服は無かった」
あの肉塊の下に敷かれた布はリック達の服だった。
そしてそこには、少なくともリディアの物は見当たらなかった。
アイリスは両目にいっぱいの涙を浮かべ、木に手をついてうずくまっているが、胃の中は空っぽで、えづいても何も出ないようだ。
アイリスが落ち着いたのを見計らって俺は船に向かって歩き出した。
ラシードには悪いが、遺体はもうしばらく放置させて貰う事にする。
全員俺の後にぞろぞろと続く。
「一体何をすればあんな風になってしまうんだ…」
生餌にされたリック達を思い出し、思わず身震いした。
海岸線から船の姿が見えてくると、トーレス達がホッとしたような表情を見せた。
やはり船乗りは船に乗ってこそなのだろう。
岩に弾ける波の音に金属同士打ち付けるような音が聞こえてきた。
「待て、何か様子がおかしいぞ」
トーレスは足を止めて声をあげた。
船から漂って来るのは活気ではなく、争う音、悲鳴やうめき声の類だった。
ナイフ男は『何かを思い付いた』という顔をしたと思った次の瞬間、怒りの表情に変貌した。
「くそ! やられた!」
そう言って船に向かってナイフ男が駆け出した。
俺はアイリスとティファをエスコートしつつナイフ男の後を追う。
トーレスと手斧男も船へと走る。
先に船に辿り着いたナイフ男は呆然と立ち尽くしていた。
「何? どうしたの?」
手前からその様子を見ていた俺達の疑問を代弁するようにティファがナイフ男に声を掛ける。
俺は最悪のシナリオとして、リディア、ドナルド、ディアル。
あるいは最初にいなくなった4人の船員が船を襲撃したのかと思っていた。
しかし、返り血を浴びてうずくまっていたのはコックのオスロ―。
死屍累々の船員達は、思い思いの武器を手に、ある者は斬られ、ある者は鈍器のような物で殴られたような損傷を受けて倒れていた。
甲板は血の海と化し、船尾の方で辛うじて動く者の姿を発見した。
「トチロー? 何があった?」
俺の声に反応したトチローは口から血の塊を吐き出し
「ブルーノとヒューゴの頭が…」
トチローの視線の先には先に帰った筈のブルーノと感電男の頭が転がっていた。
「なっ!」
トーレスは二人の頭の元に走り寄ると大切そうに抱き上げた。
「どうしてこうなるんだっ!!」
トーレスの叫びは暗くなり始めた林に沁み込んでいった。
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しかし、岩の向こうが見える所まで進むと、ピタリと動きを止める。
「おい、何があった?」
トーレスは、凍り付いたように動かなくなったナイフ男に声を掛けながら隣まで歩み寄り、絶句した。
信じられない気配の正体を確認すべく、俺もトーレス達の場所まで歩を進める。
鳥は3羽いるようだ。
かなり大きな猛禽類だろうか?
何か細長い物をくちばしで引きちぎって飲み込んでいく。
脈打ちながら、鳥につつかれた所から血を噴き出す何かの臓器。
それには手足も無く、骨も筋肉も無い。
ただ内臓だけが鳥に喰われる為だけに生きているような不気味な光景だった。
手斧男は手で口元を覆い、こみあげる物を必死で堪えている。
「何だ…これは…」
引きつった表情でトーレスが何とか声を絞り出す。
アイリスは俺の腹に顔を埋めて泣きじゃくっている。
ティファはカードを左手に持ち、右手の人差し指を立てた状態で何かを迷っているような素振りを見せた。
「ティファ?」
俺の問い掛けに応えるように、ゆっくりとこちらに顔を向けたティファの目にも涙が浮かんでいた。
「これは…ヒナだわ…」
つまり、親鳥がいる、という事だ。
「どうしよう…?」
ティファは珍しく弱って見え、俺に判断を求めてきている。
ヒナ達が何を喰っているのかは分からないが、これは脅威なのだろうか?
殺してしまう必要があるのだろうか?
俺に抱きついて泣いているアイリス以外、全員の視線が俺に集まる。
自分の判断が、今後の状況を良くも悪くもする可能性がある。
覚悟を決めると、アイリスの肩に優しく手を添えて一緒にしゃがむ。
「少しだけ待っててくれ」
出来るだけ優しく声を掛けて、俺は一人で立ち上がった。
静かに歩を進めて腰に下げたバスタードソードの柄に手を掛ける。
目を閉じて、もう一度だけ自問する。
本当に良いのか?
目を開いた時、俺の心に迷いは無かった。
疾風!
からの
抜き打ち!
からの
虎斬り×2!
俺の剣戟は3羽のヒナの首を一瞬で斬り落としていた。
抜き打ちはスキルとして登録していないが、生前に繰り返し練習した技だ。
ヒナの首を落とすには何の問題も無かった。
剣を地面に向け一閃すると、ヒナの血がまばらな直線を描く。
少ない血液がヒナも魔物である事を証明していた。
剣を鞘に納めるのも手慣れた物だ。
頭を失ったヒナは狂ったように走り出し、一羽は岩にぶつかって倒れ、2羽は崖から落ちて行った。
完全に絶命するまで、首からヒューヒューと鳴き声のような音を立てていた。
ヒナ達が喰っていた肉塊は不気味に脈打ち、時折血を噴き出しながら再生している様にも見える。
思わず眉をひそめたが、肉塊の下に敷かれていた布を見て思考が止まった。
「す、すげぇ… 今の、見えなかったぞ…」
手斧男が、俺の神業的な剣技に呆然と呟いた。
「やべぇな、親鳥が帰って来る前にずらかろうぜ」
ナイフ男が不安げに周囲に目配せしながら早口で言う。
「颯竢さん、早く」
アイリスの手を引いたティファが俺に声を掛けて来る。
これだけまとまったエサがあるならそんなに直ぐには帰って来ないだろうとも思ったが、鳥と戦う事を想定するならば足場が圧倒的に悪い。
転がる様に坂を下る船員達に続いて俺達も急いで山を降りたが、親鳥が帰って来る気配は無かった。
「どうする?」
俺はトーレスに尋ねた。
元々俺の雇い主であったラシードはもういない。
それに俺はもう、完全にリック達を疑ってはいなかった。
どれだけ探してもこの島にリック達の根城は無い。
それなら一度船に戻るのが賢明に思えた。
トーレスはナイフ男と手斧男を一瞬視界に捉えると、俺の方へ向き直る。
「ラシードに頼まれて来たんだな?」
俺が頷くと
「ラシードには何と頼まれた?」
「ここが島である事の確認と、犯人達の隠れ家の捜査だった」
俺はトーレスの問いに正直に答えた。
「結果は?」
「ここは島で、犯人は島に隠れ住んではいない」
それは半分は真実で、半分は推測だった。
ヒナたちが喰っていたのは3人分。
人数は合わないが、それはこの島が危険である事を証明するには充分だった。
「何故、そう思ったの?」
俺にそう尋ねてきたのは、意外にもティファだった。
島なのは一緒に確認しているから『犯人が島に隠れ住んでいない』という発言に対しての疑問だろう。
トーレス達なら適当にごまかそうとも思っていたが、ティファ相手に嘘をいう気には、到底なれなかった。
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ティファの問いに俺は頭を横に振る。
「リディアの服は無かった」
あの肉塊の下に敷かれた布はリック達の服だった。
そしてそこには、少なくともリディアの物は見当たらなかった。
アイリスは両目にいっぱいの涙を浮かべ、木に手をついてうずくまっているが、胃の中は空っぽで、えづいても何も出ないようだ。
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ナイフ男は『何かを思い付いた』という顔をしたと思った次の瞬間、怒りの表情に変貌した。
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俺はアイリスとティファをエスコートしつつナイフ男の後を追う。
トーレスと手斧男も船へと走る。
先に船に辿り着いたナイフ男は呆然と立ち尽くしていた。
「何? どうしたの?」
手前からその様子を見ていた俺達の疑問を代弁するようにティファがナイフ男に声を掛ける。
俺は最悪のシナリオとして、リディア、ドナルド、ディアル。
あるいは最初にいなくなった4人の船員が船を襲撃したのかと思っていた。
しかし、返り血を浴びてうずくまっていたのはコックのオスロ―。
死屍累々の船員達は、思い思いの武器を手に、ある者は斬られ、ある者は鈍器のような物で殴られたような損傷を受けて倒れていた。
甲板は血の海と化し、船尾の方で辛うじて動く者の姿を発見した。
「トチロー? 何があった?」
俺の声に反応したトチローは口から血の塊を吐き出し
「ブルーノとヒューゴの頭が…」
トチローの視線の先には先に帰った筈のブルーノと感電男の頭が転がっていた。
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