『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第0章 神在月の占い師(かみなきせかいのうらないし)

第51話 無形の悪意

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血を吐くトチローは背中に大きな切り傷があり、脇腹にも複数の刺し傷があるようだ。
想像を絶する混戦の中で、みんなが滅茶苦茶に得物を振り回したのだろう。
殴り合いなら最後まで立っていれば勝者になれるが、武器を使って相手が倒れるまで斬り合えば勝者の無い戦いになるのは明らかだった。

「犯人は…いない、誤解で…」
トチローは目に涙を浮かべ、何とか聞き取れる言葉でそれだけ告げる。
「もう良い、それ以上苦しむな」
屈託のない笑顔で俺達に接してくれていた少年の苦しそうな表情は見ていられなかった。
「向こうから…」
トチローは海の方へ目を向けてそれだけ言うと静かに息を引き取った。
「くそ…」
無力感に思わず絶望する。
「誰か? 生きてる人いないの?」
ティファが呼び掛けながら甲板を歩き回るが、誰も返事を返す者はいない。
トチローの瞼をそっと指で閉じさせて、ゆっくりと床に寝かせる。
トチローが最後に視線を送っていたのは海の方だった。
何かが海の方から来た、という事だろうか…

「駄目、生きている人は誰もいないわ、オスローさんも…」
慎重に血の海を避けながらティファが戻ってくる。
ナイフ男と手斧男はトーレスの側をウロウロしている。
アイリスは呆然とした表情でトチローを見ている。
いや、トチローのいた方に顔を向けたまま放心している、という感じか。
「一体何があった…」
苦しそうにトーレスが口を開く。
状況から見て船員達の同士討ち、トーレスとしてはそれを認めたくないのかと思ったのだが…
「何があったら船員同士で殺し合う事になるんだ…?」
どうやら正しく理解している様だ。
問題はトーレスの言う通り、キッカケだ。

トチローが言った『犯人はいない』『誤解』『向こうから』という言葉がこの事件の真相を伝える目的だったとしたら…
俺は、トーレスが抱きかかえているブルーノとヒューゴの首に視線を落とした。
「…トーレスさん」
俺の声は、自分でも驚くほど低く、冷たくなっていた。
「トチローの最後の言葉… 『向こうから』つまり海から、だ」
「海…から?」
トーレスが涙で濡れた顔を上げる。

「他に何か言っていなかったのかしら?」
俺達のやり取りを聞いていたティファがここで質問を挟んできた。
トチローの声は小さく、俺にしか聞き取れなかった筈だ。
「あとは、誤解、犯人はいない、くらいだ」
「誤解? 犯人はいない?」
トーレスは反芻する様に俺の答えを繰り返すと、ハッと顔を上げた。
「おい、まさか、親鳥の仕業じゃないだろうな?」
トーレスの言う通り、親鳥なら先に帰ったブルーノとヒューゴを襲って甲板に投げ込む事も出来ただろう。
「確かに、船長の首が落ちて来た事も説明がつくわね」
「そして、誰かを犯人だと誤解して、こんな事になった、と?」
トーレスとティファが推理している所に俺は問い掛けた。
何かが気に入らない。

「でもそれなら、ブルーノさんとヒューゴさんが襲われた形跡が無いとおかしいのよね」
そう、ティファの言う通り、俺達の帰り道で二人が襲撃された形跡が無いのは不自然だった。
「頭を抱えて飛んで来たなら身体はどこへ行った? 争った跡も血痕も見当たらなかった…」
ティファのお陰で俺の中の違和感が解消した。
「身体はヒナの所に運んだんじゃないか?」
トーレスが俺の疑問に答えるが…
「いや、ヒナのエサは充分にあった…」
しっかりと確認した訳ではないが、ヒナが喰っていた肉塊は何故か再生していたように見えた。
「もし、死んでいたとしたらだけど、リディアや船員達の死体も足りないわ」
ティファが指摘する通り、俺達にはまだ未確認事項が残されている。
「おいおい、まさか犯人はアイツ等だと言いたいのか?」
「いいえ、トチローさんの言う事を信じるならそれは無いわ」
トーレスが反射的に口にする可能性がひとつずつ潰されていく。
「死体が残らない死に方が存在する、という事かな?」
「そうね…」
俺の言葉にティファはそう呟くと考え込んでしまった。

「船長もブルーノもヒューゴも頭は帰ってきたが、冒険者の頭はどこへ行った?」
トーレスの質問に俺はハッとした。
ティファも俺と同じ様な顔をしているのだろうと思う。
「冒険者の頭には何かの利用価値があると?」
「ひっ」
俺の推測にアイリスが怯えた目で周囲を見る。
ここには俺達を狩る者の気配は無い。
しかし、アイリスの反応は当然だった。
「いかに魔物とはいえ、鳥にそこまでの知性があるのかしら?」
「アンタたちと違って俺達には魔力は無いから…」
ナイフ男が不安そうな目を俺達に向けて言う。
「無い訳ではないけど… 確かに魔物が魔力を得る為に冒険者を食べるのは理に適ってるわね…」
「頭は特に栄養価が高いとか?」
「ごめんなさい、そこまでは分からないわ」
いつの間にか俺はティファの知識に依存していたのかも知れない。
「いや、俺の方こそ何でも聞いてしまって…」
「気にしないで」
ティファはそう言うと柔らかな笑みを返してきた。

「そろそろ日が暮れるな…」
トーレスは赤く染まる西の空を睨みながら呟いた。
夕日が血の海に沈んだ甲板をより一層赤く照らし出す。
手斧男とナイフ男がトーレスに何かを耳打ちし、トーレスは何度か頷いた。
「これからどうする? 今夜は俺達は自分の部屋で鍵を掛けてやり過ごすが…」
確かに、結局犯人は特定出来なかった。
まだ行方の分からないメンバーもいて、彼らが犯人では無いという保証も無い。
「また船尾の部屋を借りれないかしら?」
「それは… 構わないが」
トーレスはナイフ男と手斧男の顔を見て、少し悩んだ後ティファの問いに答えた。
「ありがと」
ティファは高身長だが、人に話しかける時は腰をまげて下から見上げるような仕草をする。
そして彼女は童顔で少女の様な可愛い笑顔を見せる。
「お、おぅ」
トーレス達は頬を赤く染めて頷いた。

部屋に入ると内側から鍵を掛けた。
今までの状況から考えれば、誰かが部屋に押し入って来て襲われる事は考えられないが、これだけ人数が減った今ならまだ可能性はある。
俺が戦って勝てない程の敵が来るとも思えないが、夜になると何故か寝てしまう現象を考えれば扉は念入りに固めた方が良いだろう。

ティファとアイリスにベッドを勧め、俺はデスクのチェアに腰掛ける。
夕食は食べそびれて空腹だが、今は食欲も湧かない。
「まだ寝る時間には少し早いけど、休める時に休んでおいた方がいいわ」
あからさまに衰弱して見えるアイリスにティファが優しく声を掛ける。
「うん…」
直ぐに寝息を立て始めたアイリスの頭をティファが優しく撫でる。
「母親と娘みたいだな」
その様子を見ていた俺はほっこりとして呟く。
「あら、良いわね、それじゃ貴方は旦那様?」

ティファの軽口に思わず鼻から息が漏れたが、それも悪くないと思えた。



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