『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第2章 環刻館の後継者(かんごくかんのこうけいしゃ)

第88話 事件の予感

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「失礼致します」
俺とダラがガレージに気を取られていると、ミカの声が聞こえた。
見ればミカとフミナが先に館の中に入って行くところだった。
俺達も慌てて二人の後に続く。

中に入ると吹き抜けの巨大なホールになっていた。
正面の壁には1階と2階にそれぞれ大きな扉が見える。
1階の扉は開いており、その奥にはさらに広い空間が広がっているのが見える。
ホールの左右には階段があり、2階の吹き抜け廊下まで登れば2階の扉まで行けるようになっている。
2階の扉には豪華な装飾が施されていて、固く閉ざされている。
その先はプライベートな居住空間になっているのだろう。
天井には巨大で高さのあるシャンデリアがぶら下がっていた。

「これは… なかなか…」
田舎の貴族などと言うから、正直貧乏なのかと思っていたのだが、かなり立派な屋敷だった。
「タキハラの町でしたら、もっとちゃんとしたお屋敷があるのですが…」
20メートル四方はあるだろうホールを指して恥ずかしそうに言うベルファム夫人。
いや、充分過ぎる程ちゃんとしてるだろ…
日本の住宅事情ならこのホールだけで8世帯は暮らせるだろう。
「これって家…なの?」
フミナはまだ天井を見上げていた。
リリアの町にある一番大きな部屋は教会の礼拝堂だろうが、間違いなくこっちの方が広かった。

名前のややこしい子供たちがフミナに駆け寄ってくる。
「こっちの家は窮屈で嫌いなんだー」
少年がそう言ったが、どう見ても窮屈ではない。
「お姉ちゃんたちも今度タキハラの町に遊びに来てよー」
少女はミカの腕を引っ張った。
「あはは、今度暇になったら、ね」
フミナは適当にあしらうが、
「イガ君とコモノちゃん、そのうち是非行かせてもらうわね」
ミカは慈愛に満ちた笑顔で答えた。
ミカの『リリア訛り』と言うべきか、二人の名前の発音はしっくりと来て急に親近感の様なものを感じた。
「ほんと? 絶対だよー」
イガがミカに聞き返す。
「うんうん」
ミカはその装備もさることながら、顔立ちも少しリンに似ていた。

凛としたイメージのあるリンの姿でおっとりとした対応をするミカは、そのギャップが癖になりそうだった。
「お姉ちゃん、あまりその気にさせない方が良いって」
フミナがミカにこっそりと忠告する。
フミナは起きている時はしっかり者で、性格的にはリンに似ていた。
「ふぅ」
気付けばため息が出ていた。
二人にリンの面影を重ねるとは、良くない傾向だな。
自分の頬を両手で叩き、雑念を払った。
「リンが二人いるような気がするのは俺だけか?」
「考えないようにしてるんだけどね」
せっかく追い払った雑念をダラが呼び戻してきた。

「ルーヴァル、いるか?」
ベルファム卿が手を鳴らすと一人の男が音も無く現れた。
「は、こちらに!」
ルーヴァルと呼ばれた男はベルファム卿の隣に片膝をついて控えた。
「こちらの皆様を『コウキチ殿』に紹介して差し上げなさい」
ベルファム卿は堂々とした態度でルーヴァルに指示を出す。
俺達に対する姿勢とは全く別だった。
「畏まりました、ロードよ」
ルーヴァルはそう言うと頭を下げた。
「こちらの方々はイィガァとコモォヌォの命の恩人である。 くれぐれも粗相のない様に」
「はっ!」
ルーヴァルはベルファム卿の言葉に、さらに頭を下げて見せた。

ルーヴァルは俺達の前まで静かに歩み寄ると優雅に一礼をする。
「ベルファム卿にお仕えさせて頂いておりますルーヴァルと申します。 僭越ながら皆様のお供をさせて頂きます。 どうぞよろしくお願い申し上げます」
彼は高くも低くもない声で淀みなく挨拶をしてきた。
「あら、ご丁寧に痛み入ります」
ミカの所作は貴族のそれとは異なるが、さすが巫女といったところか。
エレガント(優雅)というよりディヴィニティ(神々しい)という感じだった。
冒険者の恰好をした少女が見せた優美な所作に思わず魅入るルーヴァル。
「こほん、ルーヴァル様、よろしくて?」
硬直しているルーヴァルをフミナが咳払いして促した。
「は、はい! ただいま!」
ルーヴァルは我に返って返事をする。
「ルーヴァル、何か問題でも?」
様子のおかしいルーヴァルにベルファム卿が声を掛ける。
「直ちに行って参ります!」
ルーヴァルは慌てて屋敷を出た。


「凄い人だよねー」
フミナは大通りの人混みに感心しながら歩いていた。
意外なことに真っ直ぐ歩けない程の人混みだった。
「迷子にならないようにね」
一方ミカは人混みに気圧されて、俺の手をギュっと握り締めながらフミナに声を掛けた。

スサミの町はそれほど大きくはない。
しかし訪れる旅人も多く、露天商も多い。
「うわー、何これ? すごーい!」
フミナは露天商の並べる不思議な商品の数々に夢中になっていた。
人波に視線を遮られ、フミナの姿が見えなくなる。
それはほんの数秒の間だった。
人の波が引くと、そこにいたはずのフミナの姿が見えなくなっていた。
あれ?
フミナが消えた?
「フミナちゃん?」
俺の声を聞いてダラが露天商の方へ目を向けた。
「マジか? おい! フミナ! どこだ?」
ダラも焦ったように叫んだ。
「フミナ? ふざけてないで出て来なさい!」
ミカも周りを見回しながら声を上げるがフミナの返事は無い。

おかしい。
ほんの数秒、目を離しただけで返事も出来ないくらい迷子になるものだろうか?
「ルーヴァル殿、申し訳ないがベルファム卿に伝えてくれ」
ダラがルーヴァルに声を掛けた。
「承知しました」
ルーヴァルは一つうなずくと人混みの中に飛び込んで行った。
「颯竢はミカを頼む。 俺はこの周辺から探してみる。 ベルファム邸で落ち合おう」
「分かった!」
ミカの手を取り、ダラに頷くと、来た道を戻り始めた。


どういう訳かフミナの気配を感じない。
気を失っているのかもしれない。
「颯竢様、何となくですけど、フミナのいる場所がわかります」
ミカは俺の耳元でそう言った。
「本当? それは助かるよ」
どういう理屈かは分からないが、今はそれで充分だった。
「あっちです!」
ミカは路地の方を指差した。
フミナが勝手に行くとは考えがたい。
やはり誘拐か?
一刻も早くフミナを取り戻さなければ…
俺はミカの手を引き、路地へと飛び込んだ。
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