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第2章 環刻館の後継者(かんごくかんのこうけいしゃ)
第89話 ベルファム邸
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路地裏はドワーフで溢れかえっていた。
一般的に、路地裏と言えば飲んだくれたゴロツキなどが幅を利かせているものだ。
しかし、ここスサミの町にはドワーフが多く暮らしている。
故にドワーフの造る品質の良い武具や工芸品もスサミの特産品になっている。
彼らは好んで路地裏に住み、昼から陽気に唄って呑んでおり、この路地裏は犯罪とは無縁に見えた。
「凄いお酒のにおいです…」
ミカは目を真ん丸にして言った。
少々頬が赤らんでいるように見える。
「においで酔ってる?」
「だいじょ~ぶですよ~」
ミカの横顔に声を掛けたがミカは楽しそうに返事をした。
いうほど大丈夫か?
俺の不安をよそに、ミカは目を閉じて集中すると、自信満々にビシッと指を差した。
「あっちです!」
ミカの指差す先には、大いに酒を呑む陽気なドワーフがいた。
さらにその奥にはアクセサリーの工房が見えた。
なるほど…
ルート案内じゃなくて羅針盤みたいに方角だけ分かる感じなのか。
路地裏はまがりくねり、あちこちで分岐している。
分岐点の度に立ち止まり、ミカに方角を確認してもらっているが、ちゃんと近づいているかも分からない。
一つだけ感じているのは、このペースでは追い付けない、という事だった。
「ミカちゃん、ちょっとゴメン」
キョトンとした顔を向けてくるミカの背中に右手を添えて、左手で膝関節をすくって抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこだ。
ミカは驚くほど軽かった。
「颯竢様…」
ミカの顔が思ったより近くにあった。
「さぁ、行こうか! これなら止まらなくてもフミナちゃんの事を探せるかな?」
「はい!」
少し照れながら歩き始めると、ミカはニッコリと笑って答えた。
「あっちです!」
ミカが指差したのは三叉路の交差点の角に建つ建物だった。
2本の道はその先で大きく右へと曲がっていた。
左のルートに行けばミカの指し示す方へ行けそうだ。
ミカを抱えてドワーフの横をすり抜けると
「お? また来たな! 今日はそういう祭りでもやってるのか?」
ドワーフ達が俺達に声を掛けてくる。
フミナもこういう感じで連れ去られたのだろう。
「あっちです!」
ミカが指差したのは左手の建物だった。
しばらく左に曲がる道は無さそうだ。
建物を挟んだ裏の道かもしれないが、建物の中の可能性もある。
建物の1階は、看板から察するにアクセサリーショップの様だ。
迷っている時間は無い。
「ええい! 突入だ!」
俺の声を聞き、両手がふさがっている俺の代わりにミカが扉を開けてくれた。
「お邪魔しまーす!」
ミカが入店の挨拶をする。
「おう! いらっしゃい! って何事だ?」
店の主のドワーフは俺達の剣幕に驚いた様子だった。
店が裏の通りに繋がっていないかと期待していたが、店内は行き止まりになっていた。
「ここに娘を連れた不審者は来なかったか!?」
「そりゃお前だろうが!」
俺の問いにドワーフが間髪容れずに返事を返して来た。
なるほど。
小柄な娘を抱えて店内に突入する不審者が確かにここにいた…
しばし、店内に静寂が訪れる。
「じゃ! そういう事で!」
「どういう事だ!?」
踵を返して店を出る俺の背中にドワーフの声が響いた。
もう少し慎重に行動した方が良いかもしれない。
店を出て左へと進むと、また三叉路になった。
「颯竢様、あっちです」
ミカが右手の路地を指差した。
「あれ? いつの間にかすれ違ったかな?」
右手に行くと来た道へと戻る事になりそうだ。
左手に向かって回り込んだ可能性もある。
道が曲がっている事を考慮すると…
「あれ? 颯竢様、右です…」
左手の路地に走り込んだ俺にミカが不安そうに呟く。
「大丈夫だ、信じて」
「はい」
ミカは俺の言葉に笑顔で答えた。
とは言ったものの自信がある訳ではない。
しかしミカは俺を信頼している雰囲気で、下手な事は言えない雰囲気もある。
少し胃が痛くなってきたな…
路地を真っ直ぐ走ると右手に細い横道が見えた。
その奥には階段があり、立体交差した道が左手に伸びている。
「こういう事か」
階段を登り、路地を2本渡ったところで階段を降りるとまた細い路地に出た。
ミカの指す方向はこの道を真っ直ぐ行ったところの様だ。
「颯竢様! フミナです!」
ミカの指す方向に、黒いフードを被った不審者に抱えられたフミナの姿があった。
フミナはぐったりとしている。
「フミナちゃんに何をした!?」
黒いフードの不審者を追ってドワーフ達をかき分けて進むが、なかなか前に進むことが出来なかった。
不審者はフミナを担ぐのに必死の様子で、こちらに気付いていないようだ。
距離を縮められないまま大通りに出た不審者は、そのまま見覚えのある建物に入って行った。
「ここは… ベルファム邸…」
正直、ここでなければ良いな、と思っていた。
不審者が入ったのは馬車を停めたガレージの人専用の小さい出入口だった。
さきほど、俺達を睨んできたローブを着た御者を思い出していた。
あいつか!
抱えたままだったミカをそっと地面に降ろす。
「早かったな、もしかしてフミナはここか?」
「間違いない、さっきの御者だ」
少し遅れて来たダラの問いに答える。
「ルーヴァルがこちらの味方なら良いが、もし敵だったら」
ダラがそう言うと、俺は決意を口にした。
「「斬る!」」
ダラも俺と同意見のようで力強くハモっていた。
「怖いですよ、お二人とも…」
謎の盛り上がりを見せる俺達をミカがたしなめた。
ベルファム邸のガレージの扉は、人専用の扉ですらしっかりとした造りだった。
ミカが押しても引いてもびくともしない。
「これはつまり、アレをしろという事だよな?」
ダラが危険な笑みを浮かべて尋ねてきた。
アレというのが何なのか、理解が追いつく前にダラが動いた。
『バタ――――ン!』
ダラが気持ちよく蹴り飛ばした扉は、押すとか引くとか、右開きとか左開きとか細かい事は一切関係なく、建物の内側に倒れて開いた。
蝶番や木ねじや何かの金具が乾いた音を立てて地面に落下する様をミカと一緒に魂の抜けた様な顔で見守る。
「ふっ! 一度やってみたかったんだよな!」
ダラは清々しい顔でそう言った。
「だ、ダラ。 もしベルファム卿が犯人じゃなかったらどうするの?」
傍若無人な振る舞いをするダラに詰め寄るが、ダラは気にも掛けなかった。
「ベルファム卿に誘われなければフミナも誘拐される事も無かったんだ。 金はいくらでもあるみたいだったし、扉の一つや二つ新調しろってんだ」
ダラは無茶苦茶な事を言っているが、確かにそうだな、とも思っていた。
一般的に、路地裏と言えば飲んだくれたゴロツキなどが幅を利かせているものだ。
しかし、ここスサミの町にはドワーフが多く暮らしている。
故にドワーフの造る品質の良い武具や工芸品もスサミの特産品になっている。
彼らは好んで路地裏に住み、昼から陽気に唄って呑んでおり、この路地裏は犯罪とは無縁に見えた。
「凄いお酒のにおいです…」
ミカは目を真ん丸にして言った。
少々頬が赤らんでいるように見える。
「においで酔ってる?」
「だいじょ~ぶですよ~」
ミカの横顔に声を掛けたがミカは楽しそうに返事をした。
いうほど大丈夫か?
俺の不安をよそに、ミカは目を閉じて集中すると、自信満々にビシッと指を差した。
「あっちです!」
ミカの指差す先には、大いに酒を呑む陽気なドワーフがいた。
さらにその奥にはアクセサリーの工房が見えた。
なるほど…
ルート案内じゃなくて羅針盤みたいに方角だけ分かる感じなのか。
路地裏はまがりくねり、あちこちで分岐している。
分岐点の度に立ち止まり、ミカに方角を確認してもらっているが、ちゃんと近づいているかも分からない。
一つだけ感じているのは、このペースでは追い付けない、という事だった。
「ミカちゃん、ちょっとゴメン」
キョトンとした顔を向けてくるミカの背中に右手を添えて、左手で膝関節をすくって抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこだ。
ミカは驚くほど軽かった。
「颯竢様…」
ミカの顔が思ったより近くにあった。
「さぁ、行こうか! これなら止まらなくてもフミナちゃんの事を探せるかな?」
「はい!」
少し照れながら歩き始めると、ミカはニッコリと笑って答えた。
「あっちです!」
ミカが指差したのは三叉路の交差点の角に建つ建物だった。
2本の道はその先で大きく右へと曲がっていた。
左のルートに行けばミカの指し示す方へ行けそうだ。
ミカを抱えてドワーフの横をすり抜けると
「お? また来たな! 今日はそういう祭りでもやってるのか?」
ドワーフ達が俺達に声を掛けてくる。
フミナもこういう感じで連れ去られたのだろう。
「あっちです!」
ミカが指差したのは左手の建物だった。
しばらく左に曲がる道は無さそうだ。
建物を挟んだ裏の道かもしれないが、建物の中の可能性もある。
建物の1階は、看板から察するにアクセサリーショップの様だ。
迷っている時間は無い。
「ええい! 突入だ!」
俺の声を聞き、両手がふさがっている俺の代わりにミカが扉を開けてくれた。
「お邪魔しまーす!」
ミカが入店の挨拶をする。
「おう! いらっしゃい! って何事だ?」
店の主のドワーフは俺達の剣幕に驚いた様子だった。
店が裏の通りに繋がっていないかと期待していたが、店内は行き止まりになっていた。
「ここに娘を連れた不審者は来なかったか!?」
「そりゃお前だろうが!」
俺の問いにドワーフが間髪容れずに返事を返して来た。
なるほど。
小柄な娘を抱えて店内に突入する不審者が確かにここにいた…
しばし、店内に静寂が訪れる。
「じゃ! そういう事で!」
「どういう事だ!?」
踵を返して店を出る俺の背中にドワーフの声が響いた。
もう少し慎重に行動した方が良いかもしれない。
店を出て左へと進むと、また三叉路になった。
「颯竢様、あっちです」
ミカが右手の路地を指差した。
「あれ? いつの間にかすれ違ったかな?」
右手に行くと来た道へと戻る事になりそうだ。
左手に向かって回り込んだ可能性もある。
道が曲がっている事を考慮すると…
「あれ? 颯竢様、右です…」
左手の路地に走り込んだ俺にミカが不安そうに呟く。
「大丈夫だ、信じて」
「はい」
ミカは俺の言葉に笑顔で答えた。
とは言ったものの自信がある訳ではない。
しかしミカは俺を信頼している雰囲気で、下手な事は言えない雰囲気もある。
少し胃が痛くなってきたな…
路地を真っ直ぐ走ると右手に細い横道が見えた。
その奥には階段があり、立体交差した道が左手に伸びている。
「こういう事か」
階段を登り、路地を2本渡ったところで階段を降りるとまた細い路地に出た。
ミカの指す方向はこの道を真っ直ぐ行ったところの様だ。
「颯竢様! フミナです!」
ミカの指す方向に、黒いフードを被った不審者に抱えられたフミナの姿があった。
フミナはぐったりとしている。
「フミナちゃんに何をした!?」
黒いフードの不審者を追ってドワーフ達をかき分けて進むが、なかなか前に進むことが出来なかった。
不審者はフミナを担ぐのに必死の様子で、こちらに気付いていないようだ。
距離を縮められないまま大通りに出た不審者は、そのまま見覚えのある建物に入って行った。
「ここは… ベルファム邸…」
正直、ここでなければ良いな、と思っていた。
不審者が入ったのは馬車を停めたガレージの人専用の小さい出入口だった。
さきほど、俺達を睨んできたローブを着た御者を思い出していた。
あいつか!
抱えたままだったミカをそっと地面に降ろす。
「早かったな、もしかしてフミナはここか?」
「間違いない、さっきの御者だ」
少し遅れて来たダラの問いに答える。
「ルーヴァルがこちらの味方なら良いが、もし敵だったら」
ダラがそう言うと、俺は決意を口にした。
「「斬る!」」
ダラも俺と同意見のようで力強くハモっていた。
「怖いですよ、お二人とも…」
謎の盛り上がりを見せる俺達をミカがたしなめた。
ベルファム邸のガレージの扉は、人専用の扉ですらしっかりとした造りだった。
ミカが押しても引いてもびくともしない。
「これはつまり、アレをしろという事だよな?」
ダラが危険な笑みを浮かべて尋ねてきた。
アレというのが何なのか、理解が追いつく前にダラが動いた。
『バタ――――ン!』
ダラが気持ちよく蹴り飛ばした扉は、押すとか引くとか、右開きとか左開きとか細かい事は一切関係なく、建物の内側に倒れて開いた。
蝶番や木ねじや何かの金具が乾いた音を立てて地面に落下する様をミカと一緒に魂の抜けた様な顔で見守る。
「ふっ! 一度やってみたかったんだよな!」
ダラは清々しい顔でそう言った。
「だ、ダラ。 もしベルファム卿が犯人じゃなかったらどうするの?」
傍若無人な振る舞いをするダラに詰め寄るが、ダラは気にも掛けなかった。
「ベルファム卿に誘われなければフミナも誘拐される事も無かったんだ。 金はいくらでもあるみたいだったし、扉の一つや二つ新調しろってんだ」
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