1,409 / 1,955
決意と約束をモニカに
しおりを挟む「王城での暮らしや、貴族としての暮らしの方が、多分ヘルサルにいるより贅沢はできるんだろうけど……それでも、姉さんのためよりはヘルサルを中心に暮らして、冒険者を続けたいと思う」
お金には余裕があるし、贅沢をしようとすればできると思うけど……俺にとって重要なのはそこじゃない。
どれだけお金があったとしても、あまり広くない豪華ではなく平均的な宿の一室で寝泊まりして、街にある料理屋で食事をする程度だね。
まぁ家を買うくらいはするかもしれないけど……今いる宿や王城のようなお世話される生活にはならなかったと思う。
「でも、どうしてそんなに……そりゃ、もしも私が冒険者にならなかったら、リクさんがヘルサルを離れないのは嬉しいけど」
「理由は色々あって、一つじゃないんだけど……」
無一文でこの世界に来て、右も左もわからない状態でお世話になった人は多い。
マックスさん達や、獅子亭の常連さん達。
そして俺を受け入れてくれた、英雄と呼ばれても多少特別扱いはされたとしても、それまでとそう変わらず接してくれる人達。
ヘルサルという街そのもの好きで、俺にとって特別な位置にあるんだけど、一番重要なのはそこじゃない。
でも、これをモニカさんに言うのは、ものすごく勇気がいるなぁ……。
「すぅ……はぁ……」
「どうしたの、リクさん?」
「いや、ちょっと待ってね……」
緊張して、深呼吸する俺に目を丸くするモニカさん。
もうさっきまで吐露していた不安や恐怖は、ほとんど感じていないようで涙の名残か瞳が潤んでいるくらいだ。
これ以上言葉を尽くさなくても、モニカさんは大丈夫なように見える。
だったら、これ以上余計な事を言わずにモニカさんを安心させられたと、満足してもいいんじゃないだろうか?
なんて考えが浮かぶ。
いいや違う……モニカさんは、我慢ができずに心情を吐露してしまったんだろうけど、それでも言葉にしてくれた。
何故そう思うのか、不安や悩みの原因は口にしても、決定的な言葉は言っていない。
けど、それでも、このままじゃ話を逸らしただけで終わってしまって、本当にモニカさんを安心させる事はできないだろうから。
どうしてモニカさんがずっと不安や恐怖を押し殺していたのか、今みたいに限界が来るまで我慢していたのか……それは俺が言葉にする事、意識する事を避けていたからだ。
それじゃいけないと、縮こまってしまいそうになる心を奮い立たせる。
「よし……モニカさん」
「……リクさん?」
意識して目に力を込め、ジッとモニカさんを見つめる。
ある程度、俺が何を言おうとしているのかわかったのか、さらにモニカさんの頬がピンク色……いや、赤く染まった。
「あのねモニカさん、慣れていないからうまく言えないから、頭に浮かんだそのままを言うよ。……もしモニカさんが冒険者にならなかったら、ヘルサルを中心に活動する理由は、そこにモニカさんがいるからなんだ」
モニカさんがいなければ、姉さんのいる王城か……はたまた根無し草みたいに、色んな場所を移動しながら活動しているだろう。
エルサがいてくれる分だけ、一つの所に留まらない自分が簡単に想像できる。
「そして、実際にモニカさんは冒険者になって俺と一緒にいてくれる。だから、王城だったり今はセンテのここだったり、居場所は変わるけど……それでも絶対にモニカさんと離れたままでいる、という事はで考えられないし、できないんだ」
「私が、いるから……ほ、本当に?」
潤んだ瞳、揺れる目で俺を見つめるモニカさん。
またちょっと不安そうな表情になったのは、今俺が言った事をすぐに受け入れられなかったからだろう。
だから、信じてもらえるように、受け入れてもらえるように、不安を取り除くために笑いかける。
「うん。居場所が変わるって今言ったばかりだけど、俺の居場所はモニカさんの近くかなって、本心からそう思うよ。いつからそう思ったか、はごめん……わからないんだけど、でも少なくとも冒険者になった頃には、心の奥底でモニカさんの近くにいたいって思っていたんだ」
本当にいつからだろうか? 何かで少しだけは慣れる事があったとしても、モニカさんの所に戻って来るとすごく安心できるようになっていたんだ。
それこそ、今伝えたようにモニカさんの近くにいるのが俺の居場所で、いるべき場所だと強く思うくらいに。
これまでほとんど無意識にそう感じていたため、自覚できるようになったのは最近だけど、多分冒険者になる以前、獅子亭で働いている頃からなんだと思う。
「モニカさんが嫌じゃなければ、だけど。俺はずっとモニカさんの傍に、一緒に、できれば隣にいたいと思っているよ。だから、もしまたモニカさんが不安に駆られても、恐怖が湧き上がっても、またこうして安心してもらえるように頑張るし、理由があって離れたとしても必ず戻って来るよ」
「嫌だなんてそんな……そんな……」
信用という意味では、今回の事で薄れてしまった部分があるかもしれない。
けどだからこそ、ここで改めて約束して、何があっても、どんな事に遭遇しても、絶対にモニカさんのいる所へ戻って来ると決めた。
それは、もしかしたらエルサとの契約にも似ている、俺にとっての誓約だ。
魔力とか記憶とかは流れたりしないけど。
「リクさん……」
「まぁ、今回の事であまり信用はないかもしれないけど……でも、俺の気持ちとしては、絶対にモニカさんの所へ戻って来る。勝手にどこかへ行ったりしないと、約束できるよ」
もし離れなきゃいけない事情があっても、それは一時的な事。
意識が飲み込まれた今回と、同じ事が起こらないとは保証できないけど……俺の意識がある限りは、必ず戻って来る。
「……」
「モニカさん、どうしたの?」
体勢は変わらず、俺が両手でモニカさんの頬を挟んでいる状態。
そんな中でも、モニカさんは俺の言葉を受けて目を伏せた。
これでも、俺はモニカさんを安心させられないのだろうか? もしかしたら、俺なんかに一緒にとか隣になんて言われるのは嫌だったとか?
モニカさんとはそれなりに一緒にいて、今更色々な事に気付いたとか、こうして泣きながら言われてようやくという部分もあるから、愛想を尽かされても仕方ないのかもしれない。
特に、こうやってモニカさんがはっきり意思表示してくれる事で、やっとこちらからも考えを伝えられるようになる、というのは俺自身も情けないと思うけど。
「えっと……やっぱり、遅かったかな?」
不安になって、目を伏せたまま黙っているモニカさんを窺うように、声を掛ける。
至近距離で顔を突き合わせて、さらに手でモニカさんの顔を包みながらなんて状況で、沈黙に耐えられる程俺は強心臓じゃない。
今でも、いやモニカさんが目を伏せてからさらに、痛いくらいに脈打つ鼓動。
さっきまでと違い、悪い想像をしての鼓動なため、慣れていない俺にとっては長くは耐えられそうにない。
「……本当、遅いわねリクさんは」
「モニカ……さん?」
伏せていた目を細めて、微笑を浮かべたモニカさんが小さく呟いた。
想像していた悪い方向ではなさそうな雰囲気だけど、その微笑を見てさらに鼓動が跳ね上がる。
心臓の耐久度が心配、なんて考えている余裕はない――。
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
ファンタジー
社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。
食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。
そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる