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誓い合う二人

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「ようやく、ようやくよ……欲しかった言葉の一部がもらえたわ。これまでずっと待っていたけどもらえなかったし、だったら私からと思ってもどうしたらいいかわからなくて。リクさんに嫌われちゃったらどうしよう、なんて考えも出て来て……」
「そんな、俺がモニカさんを嫌うなんて事は……ん」

 モニカさんが微笑を浮かべたまま、今度は俺が見つめ返される番になる。
 少しだけ、喜びを感じる声音で話すモニカさんだけど、嫌う事は絶対にない……と言おうとして、人差し指を口に当てられて止められた。
 心臓の鼓動がさらに跳ね上がる。
 これまでで限界じゃなかったみたいだけど、本当にそろそろパーン! しないか心配だ。

「リクさんはそう言ってくれるし、実際そうなのかもしれないけど……信頼していても、どうしても不安になる事ってあるのよ。もしかしたらってね。変なところはあまり見せたくないし」
「そういうもの、なのかな?」

 女心という物なのだろうか? 無神経な俺にはわからない事だけど……そりゃ、嫌われたくないとかもし嫌われたら、とモニカさんと同じ事を考える事や、不安に思う事がないわけじゃい。
 でも、モニカさんだけじゃなくソフィー達や姉さんなど、信頼している気の置けない人達に対して、もしかしたらなんて考えは起こらないし、割と言いたい事が言える。
 それは多分、俺が無神経だから……と思うと自分が情けなくなってしまうけど。

 あぁでも、つい今しがたモニカさんに対して、嫌われてしまったんじゃないか? なんて不安がよぎって悪い想像もしたから、それと同じなのかもしれない。
 でもこれって……この感情や想いに名前を付けるとしたら……。

「そうよ、そういうものなの。私の欲しい言葉の全て、ではないけれど……でもリクさんの言葉は、私にとって一つ一つが大事なの」
「そう、なんだ……」

 一瞬だけ目を閉じて、胸の中にしまうようにしみじみと言われてしまったら、俺からは何も言えない。
 そうなんだ、俺の言葉はモニカさんに大事だと思ってもらえていたんだ、と嬉しく思うだけだね。

「でもリクさん、絶対に戻って来ると約束してくれたけど……それだけじゃ私は、本当に安心できないわ」
「そうなの?」

 やっぱり、俺がどれだけ言葉を尽くしても、約束してもモニカさんの不安は取り除けないのだろうか?
 聞き返しながら、そう思って一瞬だけ不安がよぎった。

「えぇそうよ。なんのために私は冒険者になって、必死に訓練をしていると思うの? 頑張って頑張って、何年も冒険者として地道に活動していたソフィーにも追い付いて……肩を並べられるというくらいだけどね。でも、共に戦えるくらいにはなれたわ」
「うん……モニカさんが頑張っているっていうのは、俺もよく知っているよ」

 エアラハールさんとの訓練だけでなく、マリーさんからも厳しく訓練されていて、頑張っているのは間違いない。
 モニカさんには悪いけど、単純に武器を使った戦闘だけだとソフィーには敵わない。
 けど、槍というリーチで有利になれる武器を使い、そのうえでモニカさん自身も魔法を使う事で、互角にまでなれているし、共に戦う場合は剣を使うソフィーと槍を使うモニカさんの相性はいい。
 ただ魔力を扱う魔法は、集中が必要なため戦いながらというのは実は難しい……俺なんて、初めてイメージする魔法を使うときは、できるだけ動きを止めて深く集中するようにしているくらいだからね。

 それを可能にしているのは、マリーさんの指導のおかげでもあるんだろうけど、何よりモニカさん自身による血の滲むような努力が必要だろう。
 訓練以外でも、隠れて努力している姿を何度も……向上心の高いソフィー以上に、見かけていたりする。
 モニカさんは隠しているつもりだろうけど、実はわかりやすかったりする。

「だからねリクさん、もし今後もリクさんに何かあったら……今回みたいに、戻れない何かがあれば何度でも、私がリクさんを迎えに行くわ。リクさんを追いかけるために冒険者になって、頑張っているんだからそれくらいわね。もちろん、リクさんが嫌じゃなければね?」
「そんな、嫌だなんて事は……」

 さっき俺が言った事の仕返しだろうか。
 咄嗟に出た俺の言葉も、モニカさんが発した言葉と似たり寄ったりになってしまった。

「リクさんがいなくなれば探すし、絶対に居場所を突き止めて追いかけるわ。そしてリクさんは……」

 どうするの? と問いかけるような、挑戦的な目をして俺を見つめるモニカさん。
 そんな風に言われたら、俺が返す言葉は決まっている。
 だって、さっきも約束した事だから。

「離れたとしても、必ずモニカさんのいる所に戻って来るよ。それこそ、居場所がわからなくなってしまっても、探し回って突き止めて……ね?」
「えぇ。リクさんだけじゃ駄目、私は待っているだけなのは性に合わないし、リクさんだけに約束と負担をかけるのは嫌なの。そして、私だけでも駄目。リクさんが離れようと思えば、私なんかじゃ追い付けないから」
「うん。お互いにお互いを探して、必ず見つけ出す。そうしてお互いがまた一緒にいられるように」

 それはなんだったのだろう、誓約と宣誓。
 片方だけでなく両方、俺とモニカさんが違う事のない約束を交わす。
 どちらかに負担を強いるのではなく、お互いで分け合いながら離れない。
 一時的に離れる事があったとしても、必ずどちらかが……いや、お互いが磁石のように引き合い共にあろうとする。

 それは俺、そしてモニカさんが引かれ合うようで、そして惹かれ合うようで。
 これじゃまるで、永遠を約束する二人のような……。

「私とリクさん、二人の約束ね」
「うん。約束」
「ふふ、リクさんがまた遅かったら、どこまででも私が追いかけるんだから」
「はは、それは怖いね。でも、俺もモニカさんを追いかけて、戻るよ。そこが居場所なんだから」


 笑い合い、見つめ合い、そして笑い合う。
 目に映るモニカさんに集中して、心臓の鼓動も気にならなくなった。
 きっと今も、うるさく痛いくらいに跳ねているのだろうけど、関係ない。
 関係を決定付けるような言葉は、お互いに口に出さなかったけれど……なんとなく察していて、なんとなく気持ちが通じている感覚は、とても不思議だけどまったく嫌じゃない。

「……リクさん」
「モニカさん……」

 真っ直ぐにお互いが見つめ合い、少しずつ顔が近くなり、そして……。

「う、うぅ……良かった。本当に良かった……!」
「モニカさん!?」

 再び目から涙が漏れ始めたモニカさんが、顔を包んでいる俺の両手を抜け、座っている俺の胸へと飛び込んだ。
 あれぇ? 今の流れは間違いなくあれだと思ったんだけどなぁ? ほらその、見つめ合いながら近づいた男女が触れ合うあれね。
 粘膜的接触というかなんというか……どうでもいいけど、粘膜って言うとなんか生々しいよね。
 今考える事じゃないけど。

「リクさんが戻って来てくれた。それに、約束もしてくれた……!」

 感極まった、というのが一番正しいのだろう。
 俺の胸に顔を押し付けて、ぐしゅぐしゅと鼻を啜りながら言葉を漏らすモニカさん。
 多分だけど、ようやく安心してくれたんだと思う……ちょっと順番があべこべだけど、言葉を交わす事で実感が湧いたとかそういう感じかもしれないね――。


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