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リクの気付きを言葉に

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「ははは、ちょっと意地悪だったかな? おっと……」

 できるだけ暗くならないように、明るくを意識しながら笑い声を漏らしつつ、顔を上げた事で目じりから流れて頬を伝う、モニカさんの涙を包んでいた両手の親指で拭う。
 今更だけど、凄く近くで見つめ合っている状態で、しかも俺の両手はモニカさんの顔を包んでいて……これってまるで……。
 いや、そこはあまり考えないようにしよう、既に心臓が痛いくらいに脈打っているから、これ以上は俺自身が保たない。
 余計な事を考える脳内を、モニカさんに集中して、ゆっくりと話しかける。

「前にも言ったけど、俺がモニカさんからずっと離れている事なんて、ないよ。もし何らかの事情で離れても、絶対にモニカさんの所へ戻って来る。今回、完全い意識が飲み込まれて体の自由が奪われていたから、説得力はないかもしれないけど……」

 あれは、エルサに乗ってワイバーンのいる森に行く時だったか、戻る時だったか。
 今ほどじゃないけど、モニカさんが不安そうにしていたから、絶対戻って来ると約束した事を覚えている。
 もしかしたらモニカさんは、すでにその頃から悪い予感を感じていたのかもしれない。
 まぁ実際には、負の意識に飲み込まれたせいで自力で戻る事ができなくなって、モニカさんに助けられたんだけど。

 ……自分から約束していて、かなり情けないね。
 さすがに、こんな俺の言葉をモニカさんは信用してくれるのだろうか?

「……ううん、あの言葉があったから私は信じられたのよ。絶対にリクさんは戻って来るって。不安に押し潰されそうになったけど、それでも戻って来てくれると信じたから助けるために行動できたの」

 けどモニカさんは、そんな情けない俺の言葉を信用してくれると、潤んだ瞳で俺を見ながら言葉にしてくれた。
 不安でも、怖くても、約束した俺の言葉を信じて頑張ってくれたんだから、今度は俺が頑張らないと。
 鼓動がうるさいとか、心臓が痛いとか、緊張と恥ずかしさで頭がどうにかなっている場合じゃないね。
 
「ありがとう、モニカさん。おかげでこうして戻って来れたよ。それでね、モニカさん?」
「え……?」

 少しだけ見つめ返す目に力を入れながら、言葉を選んで伝えていく。

「モニカさんは、俺が戻って来なかったらとか、離れていくと不安に思っているみたいだけど……絶対にそんな事はないんだよ」
「ど、どうして……?」

 以前、モニカさんが冒険者になった理由として、俺についてくるためと言っていた。
 けど俺としては、モニカさんそうしなくても離れていく気は一切なかったんだ。

「例えばだけど、モニカさんが冒険者にならず俺だけ冒険者として活動したとするよね?」
「え、えぇ」
「冒険者の依頼をこなすためには、街を離れる事は当然あるけど……そうなったら、今は王城のお世話になっているけど、きっと獅子亭であのまま過ごしていたと思うんだ」
「それは……でも……」

 まぁそもそも、日帰りや一日程度街を離れるならともかく、モニカさんがいないのに数日も街を離れて旅をするなんてできるのか、という疑問もあるけどね。
 ともかく、モニカさんが一緒じゃなかったら多分、俺はずっと獅子亭を活動拠点として……少なくともヘルサルに留まっていただろうと思う。
 お世話になった人が多いからというのもあるけど、今考えればモニカさんがそこにいるから、というそれだけの理由が一番しっくりくるから。

「まぁ、ずっと獅子亭でお世話になるのはマックスさん達に迷惑がかかるし申し訳ないから、宿を借りるとかくらいはするかもしれないけど……」
「……父さんや母さんは、リクさんの事を迷惑だなんて思わないわよ?」
「確かにあの二人ならそう思てくれるだろうし、行ってくれると思う。けどさすがにね」

 獅子亭で働き続けるなら、部屋を間借りするのもある程度俺自身が納得できたかもしれない。
 でも、冒険者として生活していくとなったら、ずっといるのはさすがに……獅子亭の忙しさは身に染みてわかっているし、他に住み込みで働く人が見つかっても俺が邪魔になってしまう。
 今はヴェンツェルさんの姪、カーリンさんが住み込みで部屋を使っているんだったかな? とにかく、獅子亭で働く人の機会を失わせちゃいけないからね。

「とにかく、獅子亭で住むか宿に住むかは関係なく、ヘルサルを中心に活動するのは間違いないよ。もちろん、依頼の関係で王都や他の街、村に行く事はあってもね」
「でもそれじゃ、王城にいる陛下は……リクさんの事を、とても頼りにしているわ。それに、王城で暮らした方が不自由はないんじゃない?」

 俺に見つめ返されてそれどころじゃなくなったのか、涙が引っ込んだモニカさんが姉さんの事を指摘する。
 顔が近いせいなのもあるんだろう、頬がほんのりピンク色に染まっているのが可愛い。
 って、モニカさんを可愛く思うのは、今に始まった事じゃないんだけどね……お世話になった人の娘で、モニカさんにもお世話になっているから、あまり考えないようにしていたけど。

 あぁいけない、また考えが逸れてしまった。
 えっと、姉さんの事だよね。

「姉さんの事は、確かに俺もできるだけ協力したいと思うし、助けになりたいと思う。でも絶対、モニカさんがいなかったら王城で暮らしたりはしなかったと思うんだ」

 姉さんは唯一の肉親だ……生まれ変わって、実際には血が繋がっているとはもう言えないのかもしれないけど。
 両親が亡くなってからは姉さんが親代わりだったし、ほとんど姉さんに育てられたと言っても過言じゃない。
 姉さんが助けてくれなければ、俺も生きていたか怪しいくらいでもあるし。
 でもだからといって、俺が嫌々ながら協力するのは姉さんも望んではいないと思う、それくらいの事は生まれ変わってもほとんど性格が変わらなかった、今の姉さんを見ていればわかる。

 色々頼まれる事はあるし、この世界やこの国での立場から強制させる事だってあるんだろうけど、でも俺には絶対に無理を押し通そうとはしない。
 それは、確実に俺がこの国の戦力として戦争に参加した方がいいはずなのに、反対した事からもわかる。
 魔物を相手にしている時ならまだしも、戦争は必ず人と人の殺し合いになるわけで……それが原因で俺が苦しむとわかっているから、だと思う。
 あ、そういえば姉さんからの頼まれ事と言えば。

「モニカさんは覚えているかわからないけど、姉さんから貴族にならないか? と言われた事があるんだ」
「覚えているわ。王都での騒乱で減った貴族の代わりに、信頼できるリクさんをだったわね?」
「うん。もし本当に姉さんを全力で支える、助けるつもりだったらあの時、俺は断らなかったんだよ」

 もちろん、冒険者として自由に動く事で助けられる事もあるし、貴族になったからこそ助けられる事もある。
 どちらがどうかはわからない事が多いけど、少なくとも女王である姉さんを助けるという意味なら、貴族になった方ができる事は多いはず。
 ……断ったのは俺が貴族なんて務まると思えないとか、面倒だからなんて理由もあるけど――。


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