メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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 コンスタンスはぼんやりと夜の街を眺めた。
 
 コンスタンスもまた、やがてはその舞台に立つことを信じて疑わなかった。上流階級とまではないかなくとも、そこそこ裕福な家庭に生まれ、まぁまぁ恵まれた容姿を内心誇りにしてきた。この街は、いやこの国の男たちは、ことのほか美しいものを愛することで知られている。美は、この国では家柄や財産にまさるときもある。昔から権力者たちは美女に甘く、また、美女をはべらせられる男でなければ、真の英雄とはみなされないと思われる風潮の国である。なんといっても、ときの大統領がみずからそれを実践して、数カ月まえに、仕事の合い間に人妻と逢い引きして腹上死したという逸話を残していったぐらいなのだから。

 そんな街で思春期をむかえ、今、まさに青春まっさかりのコンスタンスである。それが今夜、コンスタンスは自分の人生が、運命が変わりつつあるのを悟った。それも悪い方に。

(なんとかしなきゃ……)

 目指す扉をあけると、中には人の気配があり、コンスタンスは一瞬、ほっとした。室内は薄暗く、他に人の気配はない。

「ああ、パパ……!」

 奥まったところにある机の向こうに座っていた人物は、そう呼ばれて、コンスタンスを見つめた。

「コンスタンス、どうしたんだい、こんな時間に?」

 よろよろと立ち上がる。動きがおかしい。コンスタンスは近寄って、あらためて父親の茶色の瞳を見た。

「パパ……?」
 
 なにか言おうとした瞬間、言葉がつまってしまった。酒の臭いが嗅覚を刺激する。

 一瞬、コンスタンスの胸内でなにかが弾けそうになった。怒りでもあり、憎しみでもあり、悲しみでもある。

 エマもニール氏もこんな匂いを漂わせていた。そして、父親までもが。酒の臭いは、堕落と不道徳の象徴そのもののように若いコンスタンスには思えた。 

「パパ……」

 コンスタンスはもう一度呼んだ。父親は相変わらず、よたよたとぎこちなく動くと、そばにあった椅子をひきよせ、コンスタンスにすすめる。焦げ茶色の髪はくずれて、ほつれている。どうやらシャツも数日おなじものらしく、なんとなく身体全体からあかじみて疲れた雰囲気がにじみ出ている。コンスタンスは呆れてきた。
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