温泉聖女はスローライフを目指したい

皿うどん

文字の大きさ
15 / 43

そのころ王都では2

しおりを挟む
 本日何回目か、もはや数えるのも馬鹿らしいほど聞き飽きたノックの音が響く。
 こうも頻繁に報告されては何もできないというのに、どうしてそれを察することさえ出来ない者ばかりなのか。
 苛々しながら無視していると、執事がドアを開けてしまった。やって来た使用人の話をしばらく聞いていたが、すぐにドアを開け放って迎え入れる。


「陛下、癒しの聖女様からの言伝です」
「……癒しの聖女宛てに、貴族からの貢物が絶えないではないか。これ以上何がいるのだ!」
「癒しの聖女様は、ハズレ聖女をご所望しております」
「またそれか!」


 癒しの聖女は、なぜかずっとハズレ聖女に固執している。呼び出して痛めつける直前だったからか、定期的にハズレ聖女を呼べと言ってくるのがうっとうしい。
 そのたびに別のもので気を紛らわせているが、だんだんと要求するものが大きくなってきていた。


「癒しの聖女様の言動から察するに、ハズレ聖女の若さと黒髪が羨ましいようです。ずっと黒髪に憧れていたとか」
「そんなことでハズレ聖女に固執しているのか!? くだらん! 適当な令息を与えておけ!」
「それが……癒しの聖女様の本性が広まり、なかなか相手が現れません」


 癒しの聖女も、さすがに王族や上流貴族をいたぶるのはよくないとわかっているらしい。
 身分的に問題ない令息をねちねちと責め立て、恥辱を与え、それを笑って見ている。ハズレ聖女が出て行ってたったの数日なのに、城に来ない者が出てきた。
 癒しの聖女の周囲にいる者も怯えていている。何が逆鱗に触れるかわからないからだ。


「癒しの聖女と結婚したくないのかと言え」
「……それが、癒しの聖女様との結婚を諦める者が出ております。次の聖女召喚に賭けるとか」
「ふざけるな! 結婚を辞退することは許さぬ!」


 結婚相手が減れば、第一王子まで癒しの聖女の餌食になるかもしれぬ。できるだけ多くの者と結婚させ、悪意を分散させなければならない。


「癒しの聖女との結婚は義務だと伝えろ!」
「……かしこまりました」


 使用人がうつむいたまま出ていく。ようやく王としてやるべきことに着手できるのに、一度途切れた集中力はなかなか戻ってこなかった。

 結界の聖女は相変わらず一言も話さず、誰のことも視界に入れず一人の世界で生きている。私のことさえ無視をして!
 王である私がわざわざ話しかけたのに、存在を無視して跪かなかったあの屈辱は、決して忘れぬ。

 予知の聖女はあれっきり口を閉ざしたまま、ぶつぶつと「もう終わりだ」と呟くばかり。
 何かを予知したのならそれを伝えて対策を練ればいいのに、それさえしない。ベッドにもぐりこんでいれば嵐は過ぎ去るとばかりに、部屋に引きこもってしまった。
 なにを予知したのか不安になる者が続出して、予知を聞き出せない王族に不満の声が上がっている。


「……それに、なぜ急に忙しくなるのだ」


 聖女を召喚したとはいえ、本来なら召喚するまでが忙しい。召喚さえしてしまえば、後はあらかじめ選りすぐっておいた令息が聖女を口説くだけ。
 そのはずだったのに、仕事は増える一方だ。理由はわかっている。

 ……あの忌々しいエルンストがいなくなったからだ。

 誤算の一つ目は、自分の仕事をエルンストに押し付けていた者が多くいたことだ。
 エルンストに仕事を押し付けていた者は、どのように仕事を進めるべきか、誰と連絡を取るべきなのか、全くわからない。
 そやつらは愚かではあるが、馬鹿ではない。元々していた仕事をする能力はある。エルンストがいなくなって忙しくなるかもしれないが、それだけで済むはずだった。

 まさか、契約書や重要な研究資料などを入れている金庫を開けられる人間がいないだなんて、誰が想像した!?

 金庫は数年前に新しく設置したものだ。エルンストは金庫を開ける方法を幾人かに教えていたのに、教えられた人間が、それを覚えていなかったのだ! なんと愚かな!
 それが全員私の側近であることがわかった時、怒りで目の前が白くなった。今まで、あれほど怒り狂ったことはない!

 開けられない金庫は3つだが、非常に重要な案件に関わるものが入っている。
 エルンストを探し出して聞き出さなければいけないのに、未だに奴からの連絡はない。

 エルンストに押し付けず、自分の仕事をこなしていた者に被害はないのが、また私を苛立たせる。
 そやつらは王である私に頻繁に苦言を呈するので、遠ざけた者たちばかりだ。


「魔法で守っている金庫でさえなければ……!」


 どんな魔法でも物理でも壊れず、特定の手順を踏まないと開けられない金庫は、国の機密を保管するには最適だ。
 その手順さえ知っていれば開けられるのに!

 ……私は、間違っていない。そのはずだ。
 今は混乱しているが、すぐに立て直せる。そう信じて、ぐっと背筋を伸ばした。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...