温泉聖女はスローライフを目指したい

皿うどん

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どこでも行けるドア

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「わあ、ここが北領……!」


 ギルの家から出ると、すがすがしい冷気と薄い色彩の青空が出迎えてくれた。街のメインストリートから少し外れているのに、人々のざわめきや活気ある空気が伝わってくる。


「北領に残っているのは、ここで生きていくと腹をくくった人間だけだから。その覚悟がないやつは、とっくに違う領に行ってる」


 ギルの言う通り、すれ違う人たちは明るい顔をしている。


「ありがとう、ギル。本当に色々としてくれて」
「サキの近くにいられたら、それでいい」
「あ、ありがとう」


 ギルのわずかな微笑みが直撃した。ほんの少しだけ口の端を上げただけなのに、ギルがすると破壊力がすごい。
 そっと目をそらしてギルの神々しさを遮りながら深呼吸する。ちょっと勘違いしそうになる台詞だけど、そうではない。

 北領に来る前に、ギルはたくさんのことをしてくれた。浴槽を複製できるアイテムとその材料を格安で譲ってくれたり、ギルが持っている時間経過のないマジックバックを私と共有していいと言ってくれたり、ギルの家に設置してあった、それぞれの領に繋がっているどこにでも行けるドアを使わせてくれたり。北領に優先的にアイテムを販売してきた伝手で、北領を治めるアグレル家に会えるよう取り計らうとまで言ってくれた。
 どうして出会ったばかりなのにそこまでしてくれるのかと尋ねると、ギルはいつもの真顔で言った。


「サキに興味があるから」
「異世界の話を聞きたいの?」
「それもある。それに、きちんと対価はもらってる。毎日僕のために温泉を出すことと、薬草などにあげる温泉を出すこと。貴重なものが多くて育てるのが難しいけど、サキの温泉をあげていれば育つから。複製するアイテムの材料は余っているもので、作成に必要な魔力はサキからもらうから、在庫の有効活用ができる。異世界の話をもっと聞かせてもらって、サキがどんなことを思ってどんな行動をとるのかを見られれば十分」


 私に対して研究対象みたいな興味をもっているみたいだ。あとは毎日温泉に入りたいという強い意志。
 わかる、回復の温泉のじゅわぁっととろける感覚はやみつきになる。最初は「温泉って何?」だったエルンストとレオも、今じゃ毎日入ってるもんね。


「もうじきギルドだ。僕が用件を伝えるから」
「俺はサキのそばで護衛しとくな」
「交渉が必要ならば私も加勢いたしましょう」
「ああ。行くぞ」


 今からギルドを通して、北領を治めているアグレル家に連絡を取る。ギルが信頼できるというからには、王都にいた貴族とは違うのだろう。
 アグレル家に私の温泉スキルを披露し、できるだけ人を助けたいと伝える。その対価に、銭湯を経営するための建物をもらう予定だ。改装までしてくれたら嬉しいけど、余裕がなかったら諦めようと思っている。
 エルンストはそれだと対価に見合わないと言っていたけれど、北領には余裕がないそうなので、あまり負担をかけたくない。

 エルンストは私が軽く扱われるのではないかと心配しているので、少しだけピリピリしている。もしそんな扱いをされたら外国にでも行く予定なので気にしなくていいのに。
 この世界では、いろんな形の大陸が離れて存在するらしい。いつか行ってみたいなぁ。

 分厚いギルドのドアを開けると、そこはやっぱり市役所だった。お酒を飲んでいる人がいるどころか、飲食物を販売すらしていない。
 領が違えばあるいはと思ったけれど、構造は変わらないようだ。依頼を申し込むための必要事項を立ったまま書ける台があるところも、実に市役所っぽい。
 イケメンが連れ立ってきたからか、ギルドがざわっとして、一瞬で静まり返った。みんな綺麗すぎるギルを凝視している。


「ギルドにアイテムを販売しているギルだ。アグレル家に伝えてほしい。この窮地を救う聖女を連れてきたと」


 せ、聖女って言っていいのかな? 王都の嫌な貴族に目をつけられるんじゃない?
 エルンストを見ると、にっこりと微笑まれた。だんだんとエルンストの性格がわかってきた私にはピンときた。
 これ、北領以外の貴族に喧嘩を売る気では……?

 その一時間後。
 私たちはアグレル家の応接室にいた。



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